8.残滓
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山に棲む野鳥に協力をあおいでいる間も、鬼がいる気配等は皆無だった。
本当に鬼はこの近辺に潜んでいるのだろうか?
もしかしたら、他の地へと移動してしまっているかもしれない。
様々な憶測が頭を過ぎりつつ、そうして時は過ぎて空は茜色に染まり始めていた。
山を下り、合流点へと赴く。
行冥と隠の人は既に到着していたようだったが、二人揃って何やら難しい顔をしていた。
「お待たせ、何か有益な情報はあった?」
私がそう訊ねると、行冥は眉間に皺を寄せたまま返答した。
「…鬼が現れたという家を訪ねたのだが、その屋敷の住人達はその姿をはっきりと見てはいないそうだ」
「……え、どういうこと?」
詳細を聞けば、確かに眉根を
鬼が現れたといっても、殺された女中二人の身体に残っていた爪でやられたであろう傷跡と、食い散らかした咬傷が人間の歯型と同じ大きさから判断したもので、その家の娘が攫われた所すら誰も目撃していなかったそうだ。
はっきりと鬼の姿を見ていないのならば、どんな相手なのか検討すらつかない。
今回の任務は蓋を開けば曖昧な情報ばかりで、ますます訝しむ気持ちは深まるばかりだった。
…やはり何かがおかしい気がする。
考え込む私に対し、隠の人はやや困惑した様子で私達に訊ねた。
「どうしましょう?まだ集落の人達から話を聞いて情報を集めますか?」
その問いには、代わりに行冥が答えてくれた。
「いや…じきに陽も落ちる、我々のみで山中へ探索にあたるとしよう」
今後の動向について大まかに決めるべく話し込んでいると、遠方からこの集落の住人と思わしき人達が何やら騒いでこちらに向かってくる姿が見えた。
周囲をきょろきょろと見回し呼びかけながら忙しなく走ってくる様子は、まるで誰かを探している様子だった。
「すみません!辰彦…あぁいや、これくらいの背丈の男の子を見かけませんでしたか!?」
ひどく焦燥に駆られた表情の男性が、私達に背丈の大きさを示しながら訊ねる。
その大きさからして六、七歳くらいの男の子だろうか。
「いや、見てないけれども…その辰彦くんという子に何かあったんですか?」
「どこにもいないんです!夕方までには戻るように厳しく言ってあったのに…!!」
今にも泣き出しそうな女性が放ったその言葉に、私達鬼殺隊の間に緊張した空気が走った。
次々と人が姿を消しているこの地域で今、姿が消えたとなると嫌な憶測をしてしまう。
そして、おそらく二人の息子であろう子供がいなくなったとなると、夫婦の心配になる気持ちは痛いくらいに伝わってきた。
これからの動向について話していた内容を変更し、行冥は指示を下した。
「…君はこの人達と共に、近辺の捜索にあたってくれ。真尋は私と山中の方を捜す」
「分かりました。お二人もどうかご武運を」
一般市民である夫婦二人が鬼に狙われる可能性も考慮し、隠の人は二人と行動してもらうことにしたのだろう。
もしも何かあった場合は隠の人が鎹鴉を飛ばし、こちらに応援要請も出来る。
その三人は再び集落の家々の方へと探しに消え、私達戦闘要員は山の麓の方へと移動を開始した。
「でも妙だよね。まだ陽は落ちきっていないのに、人が消えるなんて」
道を走りながら、私は引っ掛かった点を隣の人物へと投げかけた。
すると、向こうも同じことを考えていたらしい。
「……その点は私も疑念を抱いていた。しかし人の思考や行動を操る血鬼術の類の可能性も捨て切れぬ故、警戒するに越したことはない」
「それは確かにそうなんだけど…」
他者の精神や肉体を乗っ取り、使役する類の血鬼術も存在することは耳にしている。
しかし行冥の気配の察知力を持ってしても気付かないとなると、いつ何処でその血鬼術を使ったのか疑問が湧いてくる。
心の内にある引っかかりがどんどん積み重なる中、不意に山の方から黒い影が飛来してくる姿が私の視界の上方に映った。
「あ…行冥!ちょっと待った!」
視線はそれを捉えたまま足を止め、傍らにいた人物の動きを制する。
橙色に染まる空を背景に羽ばたいて来たのは、一羽のミミズクだった。
野鳥ゆえに私の腕にはとまらずに目の前に着地すると、こちらに向かい鳴き声を上げると共に頭の中に言葉が響いた。
"鬼かは分からないけど、何かを抱えた人間が縄張りに入ってきた"
ミミズクの話は不確かな部分が多いが、今はそれだけでも十分過ぎる情報だった。
思わず掌を握り締めた私に対し、行冥はやや心配そうに訊ねた。
「……何か分かったのか」
「うん、何か抱えた人間が山に来たって。…そいつを追ってみる価値は十分にありそうだよ」
「…ああ、急ごう」
これから陽が沈み夜になるというのに、今から山に分け入るには不審過ぎる。
それに何か物を抱えているとなると、その人物が鬼ではなくとも何か関わりがある可能性は高かった。
そのミミズクに案内を頼み、私と行冥はその怪しい人間を追うことにした。