8.残滓
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季節は少しずつ移ろいで行き、山の雪も解けて木々や草の新緑が芽吹く頃になった。
その日の任務は、私は異様なまでに気合いが入っていた。
というのも、行冥と合同任務にあたるからである。
今までその人物と共に任務に当たったのは、お互いがまだ柱になる前に数回あっただけで、柱になって以降は一度もなかったのだ。
その為、恋仲である人物と共に行動出来ることに小躍りするくらい喜びたかったのだが、どうやらそうもいかないようで。
今回柱二人が任務にあたるので、その内容も勿論強敵がいるのだろうと思っていたが、鬼の頚を斬りそれで終わり、という一筋縄で解決出来るものではないらしい。
場所は片田舎の山間にある集落で、とある家に鬼が出たというのが発端だった。
しかし最初の襲撃があって以降、鬼は人前に現れていないのにも関わらず、集落の人々が一人ずつ姿を消している、という異常事態が発生しているとのことだった。
「んー……一見すると、ごく普通の集落って感じだね」
昼下がり、私と行冥はその目的の場所に辿り着いたのだが、視界に広がる景色は
周囲は新緑の緑が芽吹き始めた山々に囲まれ、水を張った水田は青空を映して爽やかなその色を一面に広げている。
何の変哲もない光景だが、しかし隣の人物は眉を
「……しかしこの地に住む者達は皆、不安を抱えているようだ…」
人の心の機微を鋭敏に察知することが出来る行冥は、この集落が包む不穏な空気をすぐさま感じ取ったようで、鬼に怯える人々を憐れんだのか涙を流していた。
確かに遠目に映る、田畑で労働する人々の顔は浮かない様子で、どこか翳りを帯びている。
日々いつどこで誰が消えるのか分からない、もしかすると明日は我が身かもしれないと思うと、とてもじゃないが不安を感じずにはいられないだろう。
素朴で穏やかな景色とは不釣り合いな人々の様子に何とも言えない不気味さを感じていると、後方から私達を呼ぶ声が一つ聞こえた。
「岩柱様、鳥柱様!お待ちしておりました!」
その呼び声に振り返ると、一人の隠がこちらに駆け寄ってくる姿が視界に映った。
その人物は私達の前まで来ると、一瞬ぎょっとした眼差しでこちらの顔を交互に見ていた。
…確かに世間一般の人々よりも上背がある柱二人が並ぶと、そんな表情をしたくなるのも分かる。
特に行冥の場合は規格外過ぎる体躯だ。
相手の気持ちが分かり内心うんうんと頷いていると、その隠は気を取り直した様子で、今まで収集した情報を私達に伝えてくれた。
鬼が現れたのはこの集落一の資産家の家で、ある日の夜に女中が二人食い殺されていたそうだ。
その際、その家の一人娘が忽然と姿を消し、今も見つかっていないらしい。
「どうやらその家の娘さん、虚弱体質も相まってか相当な箱入り娘で溺愛されてたようで…『何がなんでも見つけ出して欲しい』って父親から必死に頼み込まれました」
「けど、もし鬼に攫われたのならその人はもう…」
「…真尋、縁起でもない事は口にするものではない」
隠の言葉につい悪い予測をしてしまう中で、行冥は私の発言を
「…うん、そうだね。まだそうと決まった訳じゃないし」
彼の言う通り、生き残っている可能性だって完全に無い訳ではない。
一縷の望みがあるのならば、私達がそれを掴み救い上げるだけだ。
そう思い、隠の情報に再度耳を傾けた。
その娘が最初の失踪者で、以降は不定期に集落の人々が消えているのだそうだ。
娘に次いで、持病の癪持ちの年配男性、片足の悪い中年女性…と、現在の所その三名が姿を消しているらしい。
「…失踪する者に、規則性は無いようだな」
行冥の言う通り、年齢や性別はばらばらである。
強いていえば、体調や身体面で不調があるということくらいだろうか。
もし一定の規則性があるのならば、ある程度鬼の標的となる者が絞れるためこちらも動きやすいのだが、今回はそれが不可能である。
「ひとまずは、その家の者からどのような鬼だったのか詳細を訊ねるとしよう…」
「分かりました、では私が案内致します。鳥柱様は…」
「私は"仕込み"があるから、ちょっと山の方に行ってくるよ」
"仕込み"というのは、山々に棲む野鳥への協力の要請である。
夜行性であるフクロウやトラツグミなどに事前に餌を与え、代わりに鬼を見つけ次第私に報告してもらうようにお願いしに行く。
今回は相棒の颯も来ているが、一羽だけではこの集落全体の山を見張るには限界があった。
この「鳥の声を聴き使役できる」という点が、この任務に私が抜擢された理由だった。
対して、行冥は柱の中でも鬼の気配を察知するのに長けているからだろう。
しかし探索向きの能力がある二人でも、今回の鬼を仕留める事が出来るのか些か不安だった。
(鬼の気配が全くしないのに、消える人…か)
心の端に何か引っかかるものを感じつつ、この場所で夕刻頃に再度合流する事にして、隠と行冥はその家へ、私は山へと二手に別れる事にした。