短編
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真尋が私の元へと
彼女と恋仲の関係を結んで以降、相手はわざわざ遠く離れたこの屋敷まで訪れるようになった。
日々の鍛錬や任務を決して怠ってはいない様子で、その合間の時間を見付けてはこうして訪れてくれる事に、彼女のひたむきな愛情を感じていた。
「行冥!昨日泊まらせてもらった藤の家紋の家で、お裾分けで羊羹貰っちゃったから一緒に食べよ!」
相変わらず中庭の方から現れる恋仲相手、真尋は私の屋敷に訪れるや否や
薪割りをしていた手を止め、彼女と共に休息を挟もうかと斧を起きながら返答をする。
「ああ。…真尋は任務帰りか」
「うん、家には寄らずにそのままこっち来ちゃった」
少し笑いながら話すその言葉の奥には「早く会いたかった」という意図がありありと感じ取られて、愛おしさに思わず顔が綻んでしまう。
そんなこちらの心情を知ってか知らずか、真尋は縁側から中へと上がろうと、いそいそと靴を脱ぐ気配がした。
「切り分けて持ってくるから行冥は待ってて、台所借りるねー!」
そして颯爽とした足取りで、屋敷の奥へと消えて行った。
彼女の言われた通り、自身は大人しく居間の方へと上がり待つことにした。
再び現れた彼女は、盆に切り分けた羊羹と茶を載せて持ってきたようだった。
それを卓に置いて並べる相手に、徐に質問を投げ掛けた。
「…今回の任務も滞りなく終えたようだな」
「うん、怪我も無く無事戻ってきたよ」
「そうか、息災で何よりだ…」
時折そそっかしい部分がある彼女だが、負傷することもなく無事に帰還して来た事に私は内心安堵した。
そんなこちらの心配を他所に、真尋は「いただきまーす」と上機嫌に言うと、早速菓子を口にしていた。
「あ、これすっごい美味しい!どこのお店の羊羹なんだろ、聞けば良かった…」
味に感動したかと思うと、途端に悔しがる声になる。
ころころと変わる彼女の声色が面白く、つい耳を傾けてしまう。
思えば、真尋は初対面の時から喜怒哀楽をはっきりと言葉や態度に示す人物だった。
そんな真っ直ぐな心根の彼女の隣は居心地が良く、気付けば共にいる時は自身が涙を流す頻度が減っていた事に気がついた。
そして何時しか心惹かれていた事を自覚した時は、些か戸惑いもした。
傍で感じて知った彼女は、自身の過去の境遇を嘆いたり恵まれた環境下の他者を羨むでもなく、むしろ自由を得たように解放的で常に前向きだった。
自身の今の在り方を見つめ、確固とした"自分"を持っており、こちらが憐れみを抱く部分がまるで無い。
そんな人物に惹かれることは極当たり前の事だと、自身の思慕の心情とは直ぐに折り合いがついた。
そして彼女からも、私へ好意を帯びた声色や雰囲気を察した時は、都合の良い夢でも見ているのかと思う事すらあった。
しかし真尋の生き方や鬼殺隊士としての道の妨げになる事を危惧し、こちらからは好意を伝えずに胸の奥に秘めておこうと思っていた所、向こうから逆に伝えられる形となったのはまだ記憶に新しい。
それから隊士達には秘匿とした恋仲となった、のだが。
親密な関係となった今でも、時折彼女に対し疑問を抱く事がある。
それは「自分が盲目である事に疑いを抱かなかったのだろうか」という事だった。
感覚が鋭いが故に、他者から物を投げられたり等といった悪意のある悪戯を避けた所、盲目を疑われたという記憶は心の奥底にずっとこびり着いたままだった。
そんな訝しむ考えを巡らせていた所、真尋はこちらが卓上の菓子に手を付けようとしない事に気がついたようで、心配そうな声色で訊ねてきた。
「…どうしたの行冥、どこか調子悪かった?」
「ああ……いや、君は…」
考えていた疑問をそのまま伝えるか否か、少し躊躇った。
しかし彼女ならば素直な答えを聞かせてくれるだろう。
果たしてその返答が私の心を傷付けるものかは分からないが、一度気になってしまったものをそのまま放るのは己の心情に
そう判断すると、意を決して彼女に問い掛けた。
「…私が最初に盲目だと伝えた時、疑惑を持たなかったのか?」
「最初に会った時のこと?んー、そうだなぁ…」
間延びした返事をしながら、茶を啜る真尋。
こちらの心情とは裏腹に、彼女は随分と暢気な気配を漂わせていた。
「特に疑ったりはしなかったよ。むしろ『盲目なのに最終選別に来るなんてきっとすごい人なんだ!』って思ってたし!」
何故か得意気な声で返す彼女に、どこか拍子抜けした心地だった。
「……何故疑わないのか、
「だって初対面の行冥の表情見た時、嘘ついてる顔してなかったし」
「……?」
何故、顔で判断したのか。
その不思議に思った点がそれこそ顔に出ていたのだろうか、真尋はその説明を追ってしてくれた。
彼女は幼い頃から、両親から疎ましく扱われていた事は以前に話を聞いていた。
その中で、どうしても訊ねたい事がある時は両親のそれぞれの顔色を窺いながら、質問を投げ掛けていたらしい。
特に"目"は表情以上に分かりやすいらしく、嘘をついている場合は直ぐに分かるのだそうだ。
そうして人の顔色を見ている内に、相手の表情で機嫌や考えを読み取るのが自然と得意になった、という事らしい。
「親の機嫌悪い時に話しかけたりしたら、引っ叩かれたりしたからねぇ」
苦笑いして残りの羊羹を食べながら話す真尋だが、今までの彼女の苦労や悲しみを考えると自然と目頭が熱くなり、程なくして自身の眼からはぼろぼろと涙が零れ落ちた。
「あ、何も泣く事はないよ!?確かに大変な事もあったけど、表情から色々読み取れるのは今こうして鬼殺隊士としても役立ってるわけだし」
「……しかし、幼い頃の君が被るような苦労では無いだろう」
「うーん、そうかもしれないけど…でも、それが私の"普通"だったからね。ということで、過去は過去、今は今!昔の事を引きずるよりも、こうして行冥と一緒にいる時間の方が私にとっては大切!」
今が楽しいのならばそれで良し!と明るく笑いかけながら語り、こちらに手を伸ばし指先で私の頬の涙を拭う彼女に、また心惹かれる自分がいた。
自身と共にいることが幸福だと言わんばかりの彼女の声や態度に、何かしらの形で応えたい気持ちはある。
しかし己の心情を戒める癖なのか、或いはただ単に不器用なだけなのか、上手く彼女の愛情表現に応えられずにいることが多かった。
それでも、せめて今だけでもそれに応じたい。
その想いを根底に、私は涙を拭っていた真尋の手を取り、ぐいと引き寄せた。
「わっ、と…!?」
突然手を引っ張られた彼女は、勢いのままこちらの胸元に飛び込んで来た。
そしてそのまま、苦しくない程度に少しきつく抱き締める。
「えっ…と、その……ぎ、行冥…?」
驚きと気恥しさを帯びた彼女の声は、いつにも増して愛おしく感じられた。
抱き締める力を一度緩め、相手の頬に触れて親指で唇に触れる。
すると真尋はこれが口付けする前の合図だと最近理解してきたのだろう、途端に慌てた声で制してきた。
「あー待って待って待って!その前にお茶飲ませて!」
「……何故」
「いや…だって今の私の口、羊羹の味だし…」
「私は構わないが」
「こっちが構うんだって…!」
抗議するようにぺしぺしと手のひらで軽く胸元を叩く真尋だが、どうせこちらも後から同じ物を口にするのだ。
相手からはまだ抵抗の気配がするが、構わず輪郭に手を添え、そのまま唇を重ねた。
「…!…ん、……」
途端、彼女からは抗う気配は無くなり、叩いていた手は口付けを受け入れるかのようにこちらの首の後ろにそっとまわされた。
舌先で相手の唇に触れたが、向こうが羞恥に耐えられなくなったのか慌てて離れる感覚がした。
唇が離れると、微かな甘さが口腔内に広がった。
「その…今はまだ、ほら……日が高いから、ね…?」
ごにょごにょと言い淀む真尋は、この口付けより先の事を察したのかやんわりと制してきた。
恐らく今の彼女の表情は恥じらいと照れと、それに薄らとした嬉しさを滲ませているのだろう。
今だけその顔を見てみたいものだと内心口惜しさを感じていたが、自身の口元はつい緩むのを感じていた。