1.壮途
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ある時、街中に来ていた旅芸人の三節棍の演武を見て以降、木刀を放り出しすっかりそれの虜になってしまった。
旅芸人達が街に留まっている間は、仕事等の合間を見付けては日々それを鑑賞しに行った。
あまりにも熱心に足繁く通う私に、その演武をする人から「やってみるか」とある時声掛けをしてくれた。
その人からすれば、非常に扱いの難しいその武器を振り回しても、精々三節の一つが体や頭にぶつかりすぐに嫌になるだろうという考えだったのだろう。
しかし、私は見よう見まねながらもそれを器用に振るうことが出来た。
いたく感心した旅芸人のその人は「お前は素質がある。訓練すれば、まだまだ上達するだろう」と言って、私に練習用の三節棍を譲ってくれたのだ。
今となってはもう顔も名前も思い出せない人だが、しかし間違いなく私の人生に影響を与えた出来事であった。
それからは、毎日三節棍を振るう練習の日々だった。果たしてそれの何が私を夢中にさせていたのかは分からないが、年々それの扱いは上達していき、十五歳になる頃にはもう体の一部かの如く、それを自在に扱えるまでになっていた。
そんなある日の事だった。
昼中、突然父親が辺鄙な我が家に顔を出したかと思うと、母ではなく私に対して本家に来いと言うのだ。
父の意図が読めず、ただ困惑する私を尻目に半ば強引に連れられ、私は父とその家族が住まう屋敷へと訪れた。
初めて来た立派な屋敷を前に、内心尻込みしてしまっていたが、父は「今日はお前にしてもらいたい事がある」と言った。
それは、初めて父が私に何かを期待してくれた瞬間だった。
今まで気にも止めていなかった、存在すら忘れられていたような扱いから、突然の降って湧いた依頼で戸惑いもあったが、それでも嬉しさの方がずっと勝っていた。
「期待に応えたい」「父に褒められたい」「感心を抱いて欲しい」「父に認めてもらいたい」。
様々な希望が止めどなく溢れ、期待に胸が心躍った。
しかしそんな希望とは裏腹に、後に父が私に指示したのは、何とも無慈悲なものだった。
屋敷の一室に通され、道着に着替えるよう指示された。言われるがままそれに着替えると、今度は剣術道場の方へと案内される。
そこに居たのは、父よりもやや年配の男性複数人と、私より幾つか年上のような青年が一人、宴に興じていた。
訳が分からない私はただ呆然と立ち尽くす傍ら、父は彼らに声を掛ける。
「いや、大変お待たせしてしまいましたな。これより、我が息子の就任の祝いの余興として、手合わせ指南を披露しましょう」
その言葉に皆一斉にこちらへ視線を向けて、わっと盛り上がる。
中には「あれが妾の…」「女の癖に、男の真似事を…」等といった悪意を孕んだ囁きすら聞こえてきた。
思考が停止してしまっていた私だったが、父の思惑がじわじわと読めてきた。
ああ、つまり私はだたの余興の道具だった、と。
何も期待なんかしていなかった。自慢の愛息子の引き立て役にしかすぎなかったのだ。
そう理解した途端、私の心にはすうっと冷えた何かが入り込んだ。
果たしてそれは落胆だったのか、失望だったのかは分からない。と同時に、胸の奥からふつふつと怒りの感情が込み上げるのが分かった。
今まで、こんな強い感情を抱いたことはなかった。母にぞんざいに扱われても、父に貶され馬鹿にされ罵声を浴びせられても、私の心はそう簡単に折れず揺らがなかったのに、何故─
それからは記憶がひどくぼんやりとしたままで、何があったのかは曖昧にしか覚えていなかった。
気付けば私は木刀を手に道場の真ん中に佇んでおり、手合わせした異母の兄と思わしき青年が無様に床に伸びていた。宴に興じていた男達の顔は真顔で、父は引き攣った表情をしていたのがやけに印象に残っていた。
その後の両親からの私の扱いは、惨憺たるものだった。母からは酷く手打ちにされ、父からは暴力の他にあらゆる罵詈雑言を浴びせられた。
どうやら宴に集っていた男らは、軍の上層部の人達だったらしい。そんなお偉い方の前で、兄は私に面目を丸潰しにされたようで、以降ずっと塞ぎ込んでいるそうだ。