7.幼雛
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「羽把岐様も、どうか」
「いっ、いやいやいや!私こんな小さい子抱っこした事ないし、もし何かあったら…!」
両手をぶんぶんと左右に振り遠慮したが、行冥が傍に来てあまね様の方に助け舟を出す。
「赤子の抱え方なら教えよう…」
先程の意図しなかった
ちくしょう、私の恋人のくせに!と内心嘆いていると、不意に前にいるあまね様の表情が微かに悲しげな憂いを帯びたものに変わった。
「…この子は将来、お館様の後を継ぐ子です。これから様々な苦難や悲しみを背負うことになるでしょう。それらの試練を乗り越える為にも、どうか柱である羽把岐様のご縁をいただけませんか」
「う……で、では…」
あまね様のその懇願にも似た言葉を受けては、最早断るなんて出来るわけが無かった。
根負けした私は、行冥から赤ちゃんの抱っこの仕方を教わりながら、ぎこちない手つきで怖々と輝利哉様を腕に抱いた。
初めて抱っこした赤子は軽くて、温かかった。
瞼も鼻も口も、指先に至るまで全てが小さくて頼りない。
それでもこの温もりが、生きていることを証明している。
簡単に散ってしまいそうなこの儚い命が、やがては鬼殺隊皆の数多の命を担う指導者になるのだと思うと、なんて過酷な運命を背負っているのだろうかとすら考えてしまった。
お館様もあまね様も、そしてこの子達も護りたい。
この人達を支える為に、私達柱が存在しているのだと、改めて再確認出来た心地だった。
ふと、眠っている輝利哉様の小さい手の指がゆっくりと開く。
それはまるで何かを掴みたいような動作をしており、私はそっと指先でその手に触れると、弱々しくその手のひらは握り返してきた。
「……かわいい…」
思わず、口からそんな言葉が洩れた。
それは紛れもなく私の本心で、そしてきっとこれが母性というものなのだろう。
母親からまともな愛情を受けなかった私にそれが備わっているとは、今までは到底思えなかった。しかし、こうして初めて赤子に触れて私にもちゃんとそれがあるのだと気付かされ、嬉しさと同時に少しだけ照れくささも感じた。
お館様達と隠の人、そして私と行冥がいる室内には、穏やかで優しい空気に満ちていた。
─────
「はー…緊張もしたけど、赤ちゃん可愛かったぁ…」
産屋敷邸を後にし、岐路を辿る中で私はまだ夢見心地でそう呟いた。
あの後、輝利哉様が起きてぐずり出したため慌てふためいてしまったが、それでも可愛らしいという感情はずっと抱いたままだった。
未だにあの重さと温かさが腕に残っており、私はほんわかした気分で行冥の隣を歩いていた。
しかし向こうはどうも同じ心地ではない様子で、黙々と歩みを進めていた中で、不意に重々しい声色で話しかけてきた。
「……真尋」
「ん?」
「君は…いつかは子を成したいと思っているのだろうか」
「…どうしたいきなり!?」
突拍子もない行冥の発言に、今までのほんわかとした心地は一気にどこかに吹っ飛んでしまった。
唖然とする私に対して、行冥は言葉を付け足しその発言の意図を説明をする。
「いや…以前、助けた姉妹の話をしただろう」
「あー、鬼殺隊に入りたいって言ってた…胡蝶姉妹だっけ?」
「ああ、その妹の方と話した時なのだが…」
姉妹達が行冥の家に居着いていた際、行冥は妹のしのぶという子に「鬼への復讐を忘れて誰かと将来結婚をして子を成し、命を繋いでいくのが幸せなのでは」といった旨の話したそうだ。
しかしその子はそれを受け入れず、結局は鬼殺隊への入隊する事を選択したのだ。
確かに行冥の言う通り、愛する人と結婚して子をもうけるのが、世間一般の女性としての幸せの在り方なのだろう。
しかしこの隊に身を寄せる女性は、そうとは限らないこともある。
「うーん…その姉妹達は、今はその考え方は出来ない気がするな」
「…何ゆえ、そう思う」
「だって、漠然とし過ぎているもん。もっと時間が経って心の傷も少しずつ塞がってきた時に、自分の悲しみを受け止めて一緒に痛みや苦しみを共感してくれる人が現れたのなら、その考え方が出来るかもね」
今はその支えとなる人も傷も塞がっていないから、悲しみや怒りの矛先は鬼に向けるしかないのだろう、と話すと、行冥もひとまずは納得はした様子だった。
「…では、真尋の場合はどうなのか」
「え、私?」
「君は、鬼に対して強い憎しみも怒りも抱いている訳ではないだろう。…子を成して、平穏な幸せを掴むことも出来る選択肢があるのではないか」
「うーーん…そういうの、深く考えたこと無かったな…」
確かに行冥の言う通り、私には鬼に対して強い怨恨がある訳でもない。
そもそも鬼殺隊に入った理由というのも「褒められたい、認められたいから」という軽率っぷりである。
だからと言って、今更世間一般の女性のように子供を産み家庭に入る、というのも何だかしっくりこない。
何故ならば今の私は鳥柱として活躍し、お館様を始めとして様々な人に認められ、後輩達などから慕われ恋人もいるこの現状に満足して、幸せに思っているからだ。