7.幼雛
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そうしてお館様への挨拶も済ませると、あまね様と子供達のいる部屋へと共に移動した。
廊下を歩きながら、お館様は子供達のことを話してくれた。
「急に家族が増えたものだから、毎日慌ただしくてね」
「五つ子ですもんね…何だか大変そう」
「うん、あまねにも世話係の隠達にも頭が上がらないよ」
そう語るお館様は、前を歩いているから顔は見えないものの、声色からは愛おしさと嬉しさが滲んでいるのがありありと感じられた。
やはり自分の血を継ぐ子が生まれたということは、何にも変え難いほど喜ばしいことなのだろう。
自身の両親からは感じられなかったその感情を向けてもらえる子供達が、ちょっとばかり羨ましく思ってしまった。
一室の前まで来ると、お館様は室内にいるであろう人物に控えめな声量で声を掛けた。
「あまね、入るよ」
「はい」
同じく声を抑えた返事があり、そっと襖を開く。
中には黒髪の赤子を抱いたあまね様と、布団に並んで寝ている三つ子、そしてお世話係と思わしき隠の人が白髪の赤子を抱いていた。
隠の人が抱いている子は寝付かずにぐずっているようで、あやしている所にお館様は近付いて優しく声をかける。
「ふふ、くいなはご機嫌斜めの様子だね」
お館様の声に、その子は少しだけ落ち着いたように不満げに泣く声がやや収まった様子だった。
私と行冥は室内に足を踏み入れ、あまね様の前に座し一礼して挨拶をする。
「あまね様、この度は御快復おめでとうございます」
「ありがとうございます。羽把岐様も、お元気そうで何よりです」
久しぶりに見た奥方様の姿は、初めて出会った時よりも落ち着いて気品のある雰囲気を帯びており、何より眼差しや顔つきが凛として美しさが増していた。
本来の芯のある強かさと、母親になったという強さが合わさるとこんなにも見違えるものなのかと、内心驚嘆していた。
あまね様はそっと立ち上がると、私達二人の前に座り優しい声で話しかける。
「柱であるお二人に、どうかこの子…輝利哉を抱いていただけませんか」
産屋敷家の男性は代々短命で虚弱体質であるが故に、隊士の中でも秀でた力のある柱達に、験担ぎとして息子の輝利哉様を抱っこをしてもらっているそうで、その話を聞いた隣の人物は快く受け入れていた。
あまね様の腕から行冥の腕へと移ったその子はとても小さく、穏やかな様子ですやすやと眠り続けていた。
途端、抱いている人物の双眸から涙が一気に溢れた。
「うわ、行冥涙腺崩壊してる」
「…お館様の御子息が、こうして平穏無事に御生まれになったのは素晴らしい事だ」
「うん、おめでたい事だけど…ちょっと泣きすぎでは…?」
いつもより涙の量が多いぞ、と思いつつ、私は隣で泣きながら子供を抱いている人物を眺めた。
子供に苦手意識があると言いつつも、その人物の表情を見る限りではやはり、心根は小さい子が好きで慈しみ愛でたいのだろう。…ただ、信頼出来るかは別問題として。
まあ、今抱っこしている全幅の信頼を寄せているお館様の子供ならば、その点は問題無いだろう。
そう考えながら、眺めていてぼんやり思ったことが他にも一つあった。
その点についてまじまじと行冥を見つめながら考えていた所、私は無意識に訝しげな表情をしていたのだろう、あまね様がこちらに声を掛けてきた。
「…羽把岐様、如何なさいました?」
「ああ、いや…行冥が赤ちゃん抱っこしているとこう……二人の大きさのせいで縮尺比率が狂ったみたいな…目の錯覚みたいな事が起きてるなーって」
「まあ」
私の発言に、くすりとあまね様が笑う。と同時に、笑いを堪えたような咳払いが背後からした。
それが隠の人が吹き出すのを堪えた声だと気付いたのは、その人の肩がぷるぷると小刻みに震えているのを見たからである。
お館様に関してはくすくすと包み隠すことも無く笑っていた。
「真尋…」
傍らから、心無しか恨めしげな声がぼそりとした。
そちらを見遣ると、行冥の顔は「何故今それを言うのか」と言わんばかりの悲しげな表情を浮かべていた。
それに対して私は「違う、小馬鹿にするつもりも何も無い率直な感想なのだ」と釈明したかったのだが、お館様達や眠っている子供達の手前、あれこれお喋りする訳もいかずにただ、心の中で「ごめん」と謝っておいた。
…果たしてそれが相手に伝わったのかは不明である。
そんなやり取りがありつつも、今度は輝利哉様を私に抱っこさせようとしてきた。
が、今までの私の人生の中でこんな生まれたばかりの子供を抱っこなんてした事が無い。
その為、抱え方も何も知らない私がそんな大切な子を抱いて良いものかと、不安の方が大きく勝ってしまっていた。