短編
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それは、ほんの些細な出来心だった。
その日私は約二週間ぶりに行冥の家を訪ねていた。
せっかく恋仲になったというのに、お互い任務や鍛錬で時間が合わずにいたため、中々会えずにいた所為で私の甘えたい欲はとうの昔に限界を迎えていた。
そのためいつもよりくっついて、というよりも最早だる絡みに近い状態で行冥に甘えじゃれついていた。
「真尋…そろそろ離れたらどうだ」
「いや、もう少しだけ!あとちょっと…!」
居間で正座し、困ったようにこちらを
向こうも色々やりたいことがあるのは分かってはいるが、今はもう少しだけこの幸福な逢瀬を満喫させて欲しい。
「…今日は任務があるからそろそろ支度をする」
「あぁー待ってぇ…!」
上体を少し動かして移動しようとする行冥に対し、私は追い縋るように膝立ちになり首元に抱きついた。
逃がすまいとその人の左肩に顎を乗せると、不意に目の前には愛おしい人物の耳が視界に映った。
それを見た私はついつい悪戯心が芽生え、何を思ったのか次の瞬間にはふぅっと息を吹きかけてみていた。
「ッ…!!」
私の息が耳にかかった瞬間、腕に抱いている人物はびくりと身体を揺らし反応した。
(おや…?)
少し風がかかった程度でここまで過剰に反応するものだろうか。
「行冥…もしかして耳弱い?」
「………」
無言は肯定と
私はまるで新しいおもちゃを見つけたような心地で、悪戯心を一気に急成長させていた。
果たして前方を向いたままの人物は今どんな顔をしているのかは分からないが、ずっと沈黙を維持しているのでまだ多少は悪戯しても許されるだろう。
そう思い、今度は先程よりもゆっくり長く息を吹きかけてみる。
しかし先程のような反応は見られずじっとしたままで、些かつまらなさを感じてしまった。
それならばと思い、右側の耳を指先ですりすりと柔く撫でながら、左耳を唇で食んでみた。
すると少しだけ身動ぎしたものの、やはり反応は薄かった。
(やっぱり平静を意識したら動じないのかな)
相手の強い精神力に感心しつつも、やはりどこか物足りなさを感じていた時だった。
「…真尋」
「あ、ハイ」
いつもより低い行冥の声色に、思わず抱きついていた手を離し彼の背後で正座になると、咄嗟に敬語で返事していた。
何をしてもそうそう怒らないと思っていたけれど、さすがにからかい過ぎたかもしれない。
相変わらず顔は見えないまま、行冥は静かに言葉を続けた。
「……それは煽っているのか」
まずい、これは恐らく…喧嘩を売っていると思われている?
人の弱点を弄ぶのもいい加減にしろということだろうか。
さすがに調子に乗りすぎたことを反省した私は、素直に謝罪した。
「ごめんなさい、調子乗りすぎました!その…煽ってるつもりは全然無くて…」
しかし向こうからの返答は無く、ただ室内には気まずい沈黙が流れた。
これはひょっとして、本気で怒らせてしまったのだろうか。
恋人という肩書きを良い事に、色々と図に乗った自身の軽率な行動を後悔するも、今となっては最早手遅れである。
(ここは一度、撤退して後からまた謝るべきかな…)
気まずさに耐えられなくなった私はそう判断し、そろそろと背を向けゆっくり音を立てずに座したまま、にじり移動してこの場を離れようとした時だった。
「ぅ、わっ…!?」
突然、後ろから行冥に抱きすくめられた。
私が苦しくない程度ながらも、確実に逃げられない強さでまわされた腕には力がこもっている。
怒ったにしてはとらないであろう行動に、私は戸惑い困惑する。
すると、背後から耳元近くで囁く声がした。
「……君はそのつもりは無くとも、こちらとしては"誘い"としか受け取れない…」
誘い?何の?と思ったが、その言葉と今の状態から察して弾き出された答えは─
(あ、「煽ってる」ってそっちの…!?)
弱点を弄って遊んでいたつもりだったけれども、まさか"怒り"ではなく"情欲"を煽っていたとは。
無意識とはいえそんな状況になっていたとは思わず、私は内心おろおろとするも何を言えば良いのか、そして身動きも取れずにいるため必然的に無言となってしまった。
そんなこちらの反応に、行冥は肯定と判断したのか
「っ…!?」
突然のくすぐったさにびくりと肩が跳ねる。
しかし腕ごとすっぽりと収まり抱き締められているため、抵抗も出来ずに相手のなすがままに身を委ねるだけの選択しか、私には許されていなかった。
何度もうなじや首筋に柔く口付けを落とされ、くすぐったさの中に何だかもどかしいような不思議な心地良さと焦れったさが生まれ始める。
身体の芯が疼くような感覚を覚え始めていた頃に、不意に口付けとは違う感触が首筋を這った。
「あっ…、…!!」
その違う感触に思わず変に艶っぽい声が出てしまい、はっと我に返った私は急に恥ずかしくなり顔が一気に熱くなる感覚に襲われた。
「……真尋は首筋が弱いのか」
「ち、違う……と、思う…」
「では、今の声は」
「…………」
それは聞かないでほしい。
羞恥心と身体の疼きで黙り込んだ私を行冥は楽しんでいるのか何なのか、また先程の感触をうなじに与えてくる。
それが、首筋に舌を這わせているのだと気づくのにそう時間はかからなかった。
性行為の前戯ともとれるその行動に、益々疼きが強まる。
それを察したかのように、相手の大きく無骨な手が私の腹部を擦り、優しく撫で上げるように徐々に胸部へと向かってくる。
「ん、ぅ…」
これ以上変な声を出さないようにと唇をきつく結ぶも、相手の行動の全てが快感になり自然と漏れ出てしまう。
もっと抱き締めて触れてほしい、求めてほしい。
行為の"先"を期待してしまう中、不意に相手の腕の力が緩み、腕や身体の動きが解放された。
私は体ごと後ろに振り向き、行冥の方に向き直るとすかさず抱きついた。と同時に、唇を重ねた。
相手もこちらを抱き締め返し、片手は私の後頭部辺りに添えられて口付けから逃れられないようにされた。
お互いに舌を絡め、息継ぎも忘れるくらいに何度も口付けた。
少し息も荒くなった頃、唇を離して目を開くと相手も情欲を抱いた様子の表情がそこにあった。
しかし先程、行冥は「任務がある」と言っていたのを不意に思い出す。
私は一応、それを忘れていないか確認のためにぽつりと呟くように訊ねる。
「…行冥、この後任務あるんだっけ」
「……ああ、いい加減身支度を整えなければな…」
このまま一夜を共にしたいという私の願望が叶わないことが確定し、何だかもどかしいような残念じみた心地につい不満が声色と共に言葉について出た。
「むー…何だか中途半端に昂った感じ…」
「…それはこちらとて同じだ」
後頭部に置かれていた相手の手が、優しく私の頭を撫でる。
「……続きは、互いの
「…ん」
その約束の言葉に、私は気恥しさを抱きながらも嬉しさを確かに感じていた。
それを察知したかのように行冥は少しだけ微笑むと、こつんと額を軽く小突き合わせる。
その「互いの暇」がいつになるんだか、といった可愛くない発言は呑み込み、私はただ今この不完全燃焼な状態に、不満な表情をするばかりだった。