短編
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その日、私はいつものように鍛錬と鎹鴉の育成の合間に行冥の元へと訪れていた。
が、任務か鍛錬か何処かに行っていたようで、中庭やそこから屋敷内を覗いてみても無人で、ただ暇を持て余していた。
もしかしたらじきに戻ってくるかもと思い、縁側に座ったりそこでごろごろ寝転がったりしてみたが、一向にその気配は無かった。
(うーん、また後日出直すかな…)
ため息と共に立ち上がり、そこから立ち去ろうとした時、ようやくこの家の主が戻ってきた。
「…来ていたのか」
「あ、丁度出直そうかと思ってたとこだったんだ!良かった、会えて」
今日は会えないとばかり思っていたので、行冥の姿を見かけた途端鏡を見なくても分かるくらいに自身の顔が綻ぶのを感じた。
そしてこちらの嬉しい声色と雰囲気を察知したのか、相手の口元も少しだけ緩く弧を描いた。
そんな愛おしく思う人の姿は全身濡れていて、隊服の上着と羽織は手にしている状態から察するに、どうやら滝行の鍛錬をしてきた後らしい。
「鍛錬に行ってたんだ、お疲れ様」
「今着替え来る、中で待っていると良い」
「うん、ありがとう。…………」
相手のその気遣いはもちろん嬉しく感じる。が、私の視線はつい目の前の人物の身体に釘付けになった。
普段から酷な鍛錬で鍛えているのは分かっていたけれど、こうして羽織も上着も脱いでおり、ましてや着物も濡れているとなると、その鍛え上げられた筋肉がはっきりと目視できる。
特に私の視線の高さは相手の胸元に来るため、まじまじとその大胸筋を見つめてしまう。
「…………」
「…真尋、どうかしたのか」
黙り込んだ私の様子と熱い視線に気付いたのか、行冥は少し訝しむように訊ねてきた。
しかし私の脳内は、とある疑惑が浮上していた。
─私の胸より行冥の胸の方が大きいのでは…?
思わず自分のそれを両手で触り確認する。
そしてそのままその手は、目の前の人物の方へと伸びて半ば無意識に鷲掴みにしていた。
「…!?」
唐突過ぎる私の行動に、行冥は驚き固まった。
まあ、無理もない。いきなり恋仲相手から胸を鷲掴みにされたら、誰だってそうなるだろう。
しかも女の方から男に対してである。
しかし今の私は全神経を手のひらに集中していて、最早それどころではなかった。
「……やっぱり大きい…」
相手のものは筋肉なので形や柔らかさは異なるものの、手の中に収まる質量は私のそれよりも多い気がする。
軽く揉んだりしてみたが、やはり負けているような気がしてならない。
真剣に胸を吟味する私に対し、固まって思考停止していた行冥は、ようやく口を開いた。
「…真尋……君は一体何を…」
「んー、私より胸が大きいんじゃないかって思って触って確かめてるんだけど…」
「……ひとまず、手を離せ」
言われるがまま渋々手を離すと、相手は困惑したような何とも言えない表情で話す。
「まず、私と君の間柄とはいえいきなり胸部を触るのは如何なものかと思う…」
「うん、それはごめん」
「君も突然私にそうされたら困るだろう」
「うーん……困りはしないし、どちらかと言えば嬉しい…?」
「……は…」
普段から行冥はあまり身体的な接触をしてこないから、この際胸でも何でも"私に触れたい"という行動があるだけでも嬉しいと思う。
そう考えて返答したのだが、相手はこちらの言葉に戸惑った様子だった。
「行冥がそうしたいと思うなら私は受け入れるし、むしろ…今は触って確認して欲しい、かな」
言いながら、私は隊服の上着の
シャツ越しからでも目視する限り、やはり大きさは私の方が負けている気がしてならない。
これは相手にも、ぜひ大きさ比べをしてもらいたいところだ。
「…どうぞ?」
上着を両手で広げはだけさせてワイシャツだけの姿になると、相手にも触るよう促した。
しかし目の前の人物は再び固まった様子のまま無反応で、一向にこちらに手を伸ばしてくる気配がない。
「……行冥?」
表情からも何も読み取れず、私は不思議に思い首を傾げながら名前を呼んだ。
すると、突然相手はくるりと背を向け、ぼそりと呟くように返答してきた。
「…もう一度滝に打たれてくる」
「え、何で!?今行ってきたばかりでは!?」
「それと、君は色々と自覚を持った方が良い…」
「何の!?何の自覚!?」
せっかく一緒にすごす時間ができたのに!という私の思いも虚しく、行冥は本当に滝のある方に行ってしまった。
結局"自覚"というのも謎のまま、胸の吟味は私だけの確認で相手は一切触れずに終わった。
しかし一人だけで大きさを審査するのも不公平なので、これにめげずにまた後日、行冥に申し込んでみようと思う。