6.睦語
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
最早逃げることも出来ない状況に、途端に心の中に焦りが生まれる。
「え。えっ、今っ…!?」
「…嫌か?」
(その聞き方はずるいっ…!!)
今しがた、私の方から「嫌じゃない」と言ったばかりの手前、拒否なんかできる訳がなかった。
しかしまさか今すぐ事が始まるとは予想だにせず、内心の焦燥感はますます増していく。
(此処で良いの!?私はどうすれば良い!?こっちからも何かするべき!?)
そんな、ろくに心構えすら出来ていない状態で頭が混乱している中、相手の右手が私の頬を撫でた。
位置を確かめるように親指が唇に触れ、そしてその手は輪郭沿いに添えられる。
相手の顔が近づき、私は反射的にぎゅっと目を瞑ると、唇に柔らかな感触がして、両手で自身の衣服を握り締めた。
重ねるだけの口付けだったけれども、私が怖がらないようにと優しく気遣ってくれているのが伝わってきた。
唇が触れている感触が無くなり、そっと瞼を開けると間近に行冥の顔があり、私の様子を伺っているようだった。
「…今ならば、まだ止めれるが」
私の、彼に抱いた"こわさ"に勘づいているのだろうか。
本当は欲のままに手を出したいだろうに、強い理性で踏み止まりこちらを気遣ってくれる優しさに心苦しくなる。
相手の欲求に応えたい、自身でもよく分からないこわさを乗り越えたい。
それらの気持ちが芽生えた私は、自ら彼の内にある枷を外すことにした。
腹部に置いてあった両手を伸ばし、行冥の頬を包むようにして顔を引き寄せた。
そして今度はこちらから口付けをした。
しかし先程のようにただ重ねるだけではなく、舌を相手の口腔内に割り込ませる。
「…!」
目を閉ざしているから見えないものの、向こうが驚いているのは確かに分かる。
私は構わず自身の舌と相手のそれを絡ませた。
ぬるりとした初めての感覚と、大胆なことをしている背徳感に背筋がぞくりと震える。
上手いかどうかなんて何も分からないけれど、ただ本能のままに舌を動かして相手の歯列をなぞったりもした。
そうしているうちに、お互い夢中になって深い口付けを交わしていた。
段々と頭がぼんやりとしてきた頃、どちらともなく唇と舌を離す。
目の前の恋人は、頬が上気してどこか扇情的に見えるけれども、それはきっとこちらも同じ表情をしていることだろう。
相手の顔を包むようにしていた手の片方を動かし、指先で耳の輪郭を優しく撫ぜながら言葉を紡いだ。
「…いいよ。行冥の好きにしても」
どうなっても、何をされても構わない。
相変わらず心臓はどきどきと高鳴っていたけれど、先程まで感じていたこわさはいつの間にか薄らいでいた。
私の言葉を受け、相手は余計緊張した面持ちになった様子だったものの枷を外すには十分なものだったらしい。
徐に、頬に触れていた私の両手首を掴むと、そのまま床に抑えつけられた。
行冥の大きい掌と逞しい腕でそうされたのなら、到底逃げられないだろう。
そして首筋に顔を埋められ、柔く口付けをされた。
「ん…」
くすぐったさと好きな人に触れられる気持ち良さとで、微かに声が漏れ出た。
相手の熱い息も首筋に当たり、私の心もじわじわと昂り始めていた時だった。
「カァーッ!伝令!伝令!」
突如として縁側の方から鴉の声がし、その驚きのあまり心臓が止まるかと思った。
いきなり現実に振り戻したかのようなその声は、私の鎹鴉の冬暁のものだった。
「羽把岐 真尋ニ緊急指令!増援ノ依頼有リ、至急目的ノ場所ニ向カエ!!」
あれ、今日の私って休暇じゃなかったっけ。
そう思うものの、柱に緊急の依頼が入ることは度々あることだ。
そうして私と行冥で唖然としながらその鴉の方を見て固まっていたが、冬暁はぽつりと話す。
「…ゴメンネ真尋、オ取リ込ミ中ナノニ」
私達の今の体勢を見て、冬暁から気遣われてしまった。
急に気恥しさが戻ってきて、私は努めて明るい声で返事をした。
「…!!ぜっ、全然気にしないでいいよ!すぐ支度しに戻るから先に家で待ってて!!」
「分カッタ」
冬暁はそう答えると、ばさりと羽音を立てて飛び去った。
後に残された私達はしばし呆然としていたけれども、私に緊急指令が入ったのでいつまでも呆けている場合ではない。
「……ごめん行冥!続きはまたいつかっ…!!」
抑えつけていた相手の手は力が緩んでいた為、私は素早くその手を解き、するりと身体を抜け出させた。
そして慌ただしく縁側の踏石に置いてあったブーツを履くと、留め具もしないまま逃げるようにして行冥の屋敷から離れた。
(何で緊急指令なんか…!いやでも助かった…のかな…?)
悶々とした気持ちを抱えながら、自宅まで走る。
突然の任務に残念な気持ちと、助かったという気持ちが混ぜこぜになっていた。
結局私は、あのまま抱かれることにどういう感情を抱いていたのか、自分でも分からなくなってしまった。
その後鴉の言う場所に赴き、先にいた隊士達と合流して夜には鬼と対峙したが、私の八つ当たりの気持ちも相まってなのかほぼ瞬殺だった。
その為、また行冥の屋敷邸に行く時間はあったものの、今更戻るなど恥ずかしくて出来ずに結局は「続きはいつか」の言葉は本当に"いつか"になってしまった。