1.壮途
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私が初めて殺した鬼は、実父だった。
私の父方の家は、代々武士の家系だったそうだ。明治時代以降は軍隊に所属し、それなりに地位のある階級に属しているのだと、いつだか酔っ払っていた時にそんな自慢話をしていた。
そして、そんな父と妾である母との間に産まれたのが私だった。
母は私が物心がついた頃から「お前が男だったら良かったのに」と、ことある毎に口にしていた。
思い返せば、妾である母の立場からすると"男児ならば、正妻がいなくなれば跡取りを口実に確実な後妻の後釜を狙える"という、悪どい魂胆があっての発言だったのだろう。
しかし幼い私はその言葉をそのまま受け止めてしまい、女らしい柔らかく淑やかな口調からはかけ離れ、髪を短く切り、家事や畑仕事の合間に手作りの木刀を振るったりと、どうにかして母の望む"男の子"に近づこうと奮闘していた。
結論から言ってしまえば、男に近付いた部分は精神面と背丈だけくらいなのだが。
だが、どうやらその程度のことでは母の望む考えには追いつかなかったようで、擦り傷やアザをつけながら家の裏手にある野山を駆け回る私に対し、ある日「みっともないからやめなさい」と忌々しいように制したのだった。
…じゃあ、どうすれば良いのだろう?どうすれば母の望みに応えられるのだろう?
一方で"男なら良かったのに"と言いながら、もう一方では"みっともない"と言う。
そんな矛盾した発言の板挟みになった私は、日々悶々としたやるせない想いを抱えていた。
そんな私に対し、時折ふらりと現れる父親はこちらに特段興味は無さそうで、ただ手土産に街中で流行っている小説や玩具を渡しては「これをやるから、しばらくどこかに行っていなさい」とだけ言い渡すばかりだった(これらも今思い返すと、母との逢瀬の為に適当な物で釣って、厄介払いしたかったのだろう)。
そんな餌のような感覚で貰った手土産の中でも、特に気に入ったのは百人一首だった。遊んでくれる相手は居なくとも、歌人の詠んだ詩の意味を調べたりしてはその人の考えなどに思い馳せたりする一方で、相変わらず木刀を振るうのは何故だか止められなかった。
元々身体を動かすのが好きだったのもあるのだろうが、もしかしたら父親の家系の"武士の血"が騒いでいたのかもしれない。