6.睦語
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「あの姉妹がしばらく家に居着いていた時はどうするかと思ったが…しかし真尋の言う通りだ。後は天命に委ねるしかないのだろう」
「そうそう、こっちは待……ん?」
家に居着いた、とは。
その言葉に引っかかった私は再度彼に訊ねた。
「…今、居着いたって言った?」
「?ああ、言ったが」
それが何か、と言わんばかりの様子の行冥。
しかし私の気持ちは一気に羨望に染まってしまった。
まだ見ぬその姉妹達に対し、羨ましさに心が支配されつつある中で、つい口をついて出た言葉は─
「…ずるいっ!!」
妬み丸出しのものだった。
そんな私の発言を受けた相手は、何が"ずるい"のか理解していない様子で不思議そうな面持ちをこちらに向けるばかりだった。
「その姉妹ちゃん達、行冥の家に泊まったってことでしょ…!私だって一緒にご飯食べたり寝落ちするまで語り合ったり日がな一日過ごしたいのに…!」
「…そんな羨むことでもない気がするが」
半ば呆れたように隣の人物はそう言うが、こちらにしてみれば何だか先を越されたような感覚になってしまう。
私は黙ってブーツを脱ぎ、縁側の踏石にそれを置く。
そしてずかずかと中に上がり込み、畳の上に大の字で寝転んで宣言した。
「決めた。今日ここに泊まってく」
「…!?」
私の一連の行動を見守っていた行冥は、その言葉にひどく驚いた素振りを見せた。
途端、焦りとも困惑ともとれる様子で私に話しかける。
「い、いや、それは……突然それを言われても…」
「…何か問題が?」
「問題…と言うよりかは…」
普段は見せないどこか慌てたような態度に、妙に不信感を抱いてしまう。
私が泊まることに何か不都合な事があるのだろうか?その助けた姉妹は良かったのに?私は駄目ということなのか?
どんどんとその不信の芽が成長する中、行冥は思い悩んだ様子でしばし何かを考えていたが、神妙な面持ちになると、すっと立ち上がり私の傍に来て正座した。
「…真尋」
「なに?」
「君は子供がどうできるのかは知っているのだろうか」
「ちょっと待って馬鹿にされてる?」
重々しい雰囲気を醸し出して、いきなり何を言い出すのかと思えば。
男女の睦事など、子供の頃に両親のそれを目の当たりにしたりで、とうの昔に性的な知識は備わっている。
何なら私の存在が無いかの如く、事に及び始めた親に心が虚無になったことすらある。
それらの事実をありのまま言ってやろうかと思ったが、どうやら行冥にとっては至って真面目な質問だったらしい。
「いや、馬鹿にしているつもりは無い…ただ、君がそういう事柄に疎いのかと思った次第故……泊まりと言っても、その姉妹達の場合は擬似的な親子のようだった、とでも言うべきか…」
遠回しで歯切れの悪い口調に、彼が言わんとしている真意が中々見えてこない。
きっと今の私は不思議そうな顔を浮かべており、向こうもそれを察知したのだろう。
行冥は意を決した様子ながらも、たどたどしく言葉を紡いだ。
「…つまり、恋仲である君と一夜を共にする中で私の自制心が……必ずしも効く、とは限らない…ということだ…」
「……あっ、そういうこと!?」
そこまで言われて、ようやく理解できた。
しかしまさか彼からそんな言葉が出てくるとは思わず、私の心境は照れ云々よりも驚きの方が勝っていた。
「え、行冥にもそういう欲ってあるんだ!?」
「…君は私のことを聖人君子か何かと思っているのではないだろうか」
「だって、今までそんな素振りとか無かったし…」
何をするにしても、私に対しては穏やかで優しい態度ばかりで、もしかして男性としての欲求は無いのかな、と感じるくらいには性的なものには清廉潔白な人だと勘違いしていた。
しかし今の発言からして、少なからず私に対してそういう欲求を抱いている、ということだ。
そう考えると、ようやく恥ずかしさというものが私の胸中にじわじわと広がり始めた。
私は手足を伸ばした大の字状態から、膝を立てて両手をお腹の上に置き、少し身体を縮こませた。
何だか相手の顔を見るのも照れくさくなり、ふい、と背けたところ、その人物は私が機嫌を損ねたのだと思ったのだろう。
「…今、真尋が嫌だと言ってくれれば、絶対に手出しはしないと誓おう」
「………嫌、ではないよ」
私は右手をそっと伸ばして、手探りで行冥の着物の袖の端を掴み、言葉を続けた。
「その…気恥しいのはあるけれども、行冥からされる事は何も嫌だとは思わないし…むしろ、触れてくれるのは嬉しい…というか…」
こうして話している間も、どんどんと羞恥心は強く増していく。
顔が熱を帯びていくのを感じる中、不意に掴んでいた右手の中の着物が動く感覚がした。
「…?」
驚きそちらの方を見ようとしたが、私の視線は頭上で止まった。
右手の中のものが動いたのは相手が動いたからで、その人物は今私の上に覆い被さるようにしていた。
自分は今押し倒されたような体制でいるのだと気付くと、心臓が一度強く高鳴った。
相手の表情は緊張が強く現れているものの、いつもと違うのは男性としての欲を抱いている空気を纏っているところだった。
この中性的な見た目と高身長のせいか、今まで異性からまともに情欲を向けられたことは無かった。
しかし今こうしてはっきりと分かるその欲と、簡単に手篭めにされるという力関係を目の前にして、少しだけ行冥のことを「こわい」と思ってしまっていた。