6.睦語
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しばしそのままの状態でいた中、私は更にその上の要求をしてみる。
「…キスはどうする?」
「………」
「……あっ、まさか西洋語だと分からない!?接吻!口付け!ちゅー!」
「意味は知っている…」
向こうは寺育ちと言っていたから、古めかしい言葉でしか知らないのかもと思ったが、どうもそうではなかったらしい。
様々な言い換えを口にした所、少し呆れ気味ながらも冷静にそう返された。
こちらの要望を呑んでくれたのか、不意に彼の片手が私の頭を覆い、緩く数回撫でた。
そしてどこかぎこちない動きながらも、顎下の輪郭沿いに手を添えられ、顔を上に向くように促される。
すると相手の顔がいつもより近い距離にあり、心臓が一際大きく高鳴った。
行冥の表情はものすごく緊張しているものだったけれども、きっと私も同じ顔をしているだろう。
見えていないはずのその目から視線を逸らせないでいると、背中に回されている片腕に、ぐっと力が入るのが分かった。
「…!」
思わず目を瞑る。
しかしひと間おいて何かが触れる感触がしたのは、唇ではなく額の方だった。
「…あ、あれ?」
予想した箇所に口付けされなかった事に疑問を抱いた私は、再度相手の顔を見た。
「い…今はこれで、納得してもらいたい…」
…めちゃくちゃ照れている。
いつもは凛々しかったり悲嘆に暮れる表情ばかりなのに、今は眉を八の字にして伏し目がちになり、困惑したような顔で頬に赤みがさしている。
普段見かけないその表情に、私の心臓は鷲掴みにされたような感覚に陥った。
「…ふーーーん……」
行冥の反応に、思わず顔がニヤついてしまう。
何だかいじらしさすら感じるその相手を目の前にして、私の眠っていた嗜虐心が微かに疼くのが分かった。
油断していたのか、行冥は私の引っ張る力に負けて頭の位置が少し下がり、背伸びすればこちらの唇がどこでも届く高さになった。
私はつま先立ちになると、相手の頬にキスをした。
「…お返し」
耳元でぽそりとそう呟き、私は襟首から手を離すとそのまま体ごと引いて距離をとった。
頬ではあるもののこちらからも口付けをしたという事実に、段々と羞恥心が湧き始めてしまう。
その気持ちを悟られないよう半ば照れ隠しのように、私は相手に向けて指をさしながら言い放った。
「つ、次は唇にするから!油断するな!じゃっ!!」
ちょっと声が上ずりながらも、そう謎の宣言をしてそそくさとその場を離れようとした時だった。
「…真尋!」
呼び止められ、思わず身体が竦む。
何か機嫌を損ねるような事をしただろうか。いや、それとも向こうからも何か要求が?
どちらにせよ、気恥しい今はとにかくこの場から逃げ出したかった。
そう思っていたが、行冥が呼び止めたのはどちらの理由でもなかった。
「日輪刀を忘れている」
「………」
言われてみれば、私の両手は空のままだ。
そして私のその武器は、門近くの塀に立て掛けたままである。
無言で行冥の方に戻り、置きっぱなしにされていた自身の武器を手にする。
相手の顔は見れないまま、私は脱兎の如くその場から逃げ出すしか出来なかった。
正直、口付け云々よりもこちらの方が恥ずかしかったのはここだけの話である。