6.睦語
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秋が一層深まり、山の色合いも緑から赤や黄色が増してきていた。
空気も冷たさが増し、徐々に冬の気配がしてきている。
この時期になると、日の入りも随分と早まり鬼の活動する時間が長くなってくる。
その分、鬼殺隊の隊士は任務に当たる時間も長くなり、柱の面々も負担が増えていた。
そんな中でも、私は時間を見付けては行冥の元を訪れたり、以前のように百人一首の問いを投げかけたりと彼との接点を絶やさないようにしていた。
それらのささやかな交流があるだけでも、もちろん胸が高鳴り愛おしさが溢れて私の心は満たされていた。…のだが。
「…今までと変わらない」
朝日が昇り、次第に明るくなる空の下でまだ人気の無い森の道。
任務も無事に完遂し、私はたまたま帰路が一緒になった行冥と歩いていた中で、蓄積されていた不満が口をついて出た。
「…?」
私の呟きを耳にした隣の人物は、何がだ、とでも言いたげにこちらを見た。
「私と貴方は恋仲になったのに…全然それらしい感じがしない…!!」
「それらしい感じ、とは」
「それはこう、何か……ぐあっ!となるような感じ、みたいな…?」
「………」
あまりにも抽象的過ぎる私の表現に、行冥は何とも言えない表情で閉口していた。
どうやら私の熱意はいまいち伝わらなかったらしい。
もっと伝わりやすいよう、私は考慮しながら言葉にすることにした。
「うーん…恋人同士ならもっとこう…親密な感じになるような感じのものがあるはずで…」
「例えば」
「うん、それなんだよね」
今までの言葉を交わし談笑する以外にある、恋仲ならではの交流。
過去に読んできた小説や人伝いで聞いた話など色々と思い出す中で弾き出された例えは─
「あ、そうだ抱きしめ合うとかキスとか!」
「…!?」
閃いたようにしれっと発言をする私に対し、隣の人物は些か驚いたような態度が見受けられた。
しかし今の私達の関係ならばそれらのやり取りがあっても何ら問題は無いし、むしろ今まで何故なかったのかと思うくらいだ。
場所も丁度私の屋敷の前辺りまで来ていたしで、少しくらい睦まじい事をしていても今時間ならば誰も通りがかったりはしないだろう。
「ということで、はい!」
私は自分の日輪刀を傍の塀に立て掛けて置くと、満面の笑みで両手を広げた。
しかし一方で、行冥は困惑した表情を浮かべている。
「…どうすれば良い」
「どうって…そっちも手を広げて、受け入れ態勢とってよ」
「……こうだろうか」
言いながら、向こうは私と同じように日輪刀を傍らに置くと、少しぎこない動きで私を受け止めるような姿勢をとる。
そして抱擁しようとこちらからじりじりと近付くも、相手は何故か同じ距離感のままじりじりと後ずさっていく。
「ちょ、なぜ逃げる!」
「いや、逃げてるつもりは…」
「これじゃ柔道の組み手寸前みたいじゃん!!」
このまま襟首つかみ合って、どっちか一本取るような試合が始まるのか?いっそ大外刈りや一本背負いでもするか?
そんなことを考えていたら、無性に笑えてきて仕方なかった。
「あっははは!何か良い雰囲気どころじゃなくて笑えてきた…!」
「…面目ない」
「ふふ、いいよいいよ」
少ししゅんとした様子の行冥に対し私はひとしきり笑った後、気を取り直して彼と向き合った。
そして不意打ちとも言えるような格好ではあるが、懐に飛び込むようにして抱き着いた。
「……!」
どん、とぶつかる感覚に行冥は驚いているようだったが、私は構わず彼の背中に手を回してしっかりと抱きしめる。
見た目以上にがっしりとした体幹に、自分の左右の手は届きそうもなかった。
そして私が抱き着いたのをきっかけに、向こうもおずおずとしたぎこちない手つきで私の背中に手をまわしてきた。
重量のある日輪刀を軽々と扱うくらいの太く逞しい腕なのに、まるで壊れ物を扱うかのようなその動きに妙に愛おしさを感じる。
そのまま耳を胸元に押し当てると、相手の心音が聞こえてきた。
大きなその拍動は、少し調子が速い気がする。
「……緊張してる?」
「…今までまともに女人と接触した事は無かった故に、戸惑っている」
「あは、私だってそうだよ。すごくドキドキしてる」
お互い
しかし確かに緊張はするけれども、私はそれ以上に幸福感を強く感じられた。
大好きな人と触れ合えるのが、こんなにも愛おしくて嬉しいものだとは思わなかった。