5.恋詠
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山道を歩いていると、さっきまでの意気込みが段々と萎れていき足取りが重くなった。
(任務か訓練かに行ってて、居ないと良いなぁ…)
殆ど勢い任せに来たためそんな事をつい考えていたが、そんな願いも虚しく屋敷まで辿り着くと、何やら中庭側から物音が聞こえた。どうやら家主は在宅らしい。
ここまで来たら退く訳にもいかず、私は徐々に鼓動が早まるのを感じながらも、そっと中庭の方へと足を運んだ。
中庭と言っても、山の木々に面したそこは草木や岩など自然の形が数多く残っており、それらが望める縁側に意中の人はいた。
日輪刀である武器の手入れをしているようで、鎖部分の汚れを拭っている様子だった行冥は、私が声を掛けるよりも先にこちらの存在に気づいた。
「…真尋か。何かあったのか」
「あ、いや、暇が出来たからちょっと…遊びに来た感じ、みたいな…」
内心どきまぎしながら、私は彼に近付きそのまま縁側に腰を下ろした。
「…こっちから声をかけるよりも先に、よく私だって分かったね?」
「足音に特徴がある故、すぐ分かった」
(やった…!!)
新調された靴のおかげで、私の望んでいた意図が的中し内心大喜びしてしまう。
しかしそれを態度に出さないよう、必死で平静を保ち歓喜する気持ちを押し殺した。
そしてそのまま適当に話を続けようと思ったのだが、妙に意識してしまうと不思議と話題が何も出てこない。
つい勢いで来たは良いものの、相手がこちらをどう思っているのか全く分からない、ということに今更ながら気がついてしまった。
(…え。もしかして私、行冥の気持ちを全然把握していない…?)
こちらが一方的に好意を寄せているだけで、向こうはただの同期や友人と思っているかもしれない。
むしろ恋愛対象外の可能性だってある。
そんな中でいきなりこちらの想いを告げられても、相手からしてみればただただ迷惑かもしれない。
(えぇ…ここはやっぱり出直すべき…?)
腕組みをして頭を捻り、思わず考え込んでしまう。
そんな私を尻目に、行冥は黙々と日輪刀の手入れをしていた。
そうして沈黙が続いていた中、隣の人物は不意に声を掛けてきた。
「…何か思い悩んでいるのか」
「え!?ああ、まあ…悩みといえばそう…かな」
「それを私に相談しに来たのではないのか?」
「んんー…!!」
確かに言いたい事はある。
あるにはあるのだが、私が今言いたいのは"相談"ではなく"告白"である。
もういっそのこと好意を伝える二文字の言葉を口にしてしまった方が早いか、とも思ったが、いざその場面になると中々その言葉が出てこない。
もどかしさと歯痒さに追い詰められた私の口から、遂に飛び出した言葉は─
「百人一首、十七番!」
いつもの戯れの、問いかけだった。
「…"ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは"」
私の突然の問いに、行冥は作業の手を止めることも無くすらすらと答える。
うん、相変わらず記憶力が素晴らしい。などど称賛している場合ではない。
何とかして私の想いを伝える方面に持って行かなくては…!
しかしその時、一つの歌が頭を過ぎった。
古の歌人が、恋焦がれた想いを伝えるために詠んだ歌。
きっとその人も、今の私のような気持ちだったのかもしれない。