5.恋詠
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「はぁぁ…」
人気のない場所で、私は盛大にため息をついた。
現在は、鳥舎から少し離れた林の中で颯を遊ばせている。
鎹鴉の育成ばかりにかまけていると、相棒の鷲が拗ねるのでこうして時々構ってやるのだ。
この時間はよく息抜きや休憩を兼ねていたのだが、今の私はこれしきの癒しで満たされる心地ではなかった。
その原因は、勿論周囲からの羨望の眼差しを裏切りたくないという、己自身で被った"猫被り"もあるのだが。
それ以上に、想い人の存在がこのやわな心を苦しめていた。
今、行冥はどこで何をしているのだろう。
誰かといるのだろうか、親しい人はいるのだろうか。
暇がある時間は何をし、何を考えているのだろうか。
油断すると、その人物の事をすぐ脳裏に思い浮かべてしまう。
(恋とはこんなにも頭を悩ませ、苦しむものなのか…)
生まれてこの方初めての恋とやらに私の心は振り回されっぱなしで、また一つため息が漏れ出た。
そうしてぼんやりとしていた所為だろうか、背後から急に声を掛けられて私は盛大に驚いてしまった。
「よぉ、何ンな所で突っ立ってんだ?」
「うぅわっ!?……いきなり背後に立つんじゃない、心臓が止まるかと思った…」
声の主を見て、私は恨めしい眼差しをその人物に向けた。
その向けられた人─宇髄天元は、私の驚愕っぷりを見て可笑しそうにからからと笑っている。
「勘づかれたら忍失格だろうがよ!…ま、お前のその様子だと、例の旦那絡みなんだろうけどよ」
「う…」
宇髄の言う"旦那"とは、勿論行冥のことを指している。
図星を突かれ、私は気まずい気持ちで視線を泳がせるしか出来なかった。
この宇髄という男は最近鬼殺隊に入隊したそうなのだが、元々忍で身体能力も高く戦闘経験も富んでいるようで、すぐに柱にでもなるだろうと専ら現在の柱達の間でも噂されていた。
そんな人物とつい先日、共に組んでの任務に赴いたのだが、その噂は本当だった。
知識、判断力、広い視野に洞察力など、どれをとっても申し分無い。
また素晴らしい逸材が来たものだ、と思っていたのだが、どうもこの人物と私はどこか似通った部分があるらしい。
歳が一つ違いというのもあるかもしれないが、根底の部分に何か通ずるものがある気がした。
恐らく子供っぽい一面が潜んでいる部分が似通っているのだろうと思っている。
実際、任務先で悪ノリの勢いのまま後片付けに来ていた隠達に悪戯する場面があったりもした。
まるで昔からつるんでいる悪友のような感覚だ。
そんなことで、その初対面時から宇髄とはやけに意気投合してしまったのだ。
そしてその任務終わりに偶然行冥と遭遇し、私の跳ね上がった心音で恋心も速攻でバレたのである。
気づかれてしまったのなら仕方ないと思い、今はこうして意中の人への片想いを募らせている事も、包み隠す事なく話すようになっていた。
宇髄は誰かから頼まれたのであろう、一つの包みを私に渡しながら話す。
「ほらよ、鴉どもの薬。任務行く前に通り道だからよ、届けに来てやったぜ」
「ああ、ありがとう。季節の変わり目のせいか、鴉も風邪をひいてね」
育成中の鎹鴉のうち数羽が、声が枯れて微熱もあったのだが、まだ人の言葉を発せないので育成係の隠にその事実を伝えれなかったらしい。
鳥の言葉が分かる私がその子らと対話し、状態を確認した後調薬を頼んでいたのだが、今回は彼が届けてくれたようだった。
「じゃあ、私はこれで…」
「おいおい、それだけかよ?旦那との進展はどうなってんだ?」
「……進展も何も無いよ。現状維持」
どうやら宇髄は私と行冥の関係が気になる様子らしい。
適当な隠の人に頼まずわざわざこうして自ら申し出て薬を届けに来たのも、恐らく探りを入れるためなのだろう。
(人の恋路を娯楽感覚で楽しんでいるな…)
宇髄の表情からして、その意識があるのは薄々勘づいた。
だがしかし、偶然遭遇した日以降に私と行冥との間に浮いた話や進展は何も無かった。
その事に、目の前の男はさもつまらなさそうな表情を浮かべる。
「あぁ?つまらねぇな…さっさとド派手に想いぶつけてくればいいだろうが」
「それができたら苦労しないよ…」
「つーか、んな長く燻ってたら他の誰かに盗られるぜ?」
「…!?」
思いもよらぬ言葉に、私は思わず宇髄の顔を見た。
目が点になっているであろう私の表情を見て、彼はにやりと笑う。
「アンタも柱だから分かるだろ?柱っつーだけで隊士や隠達から人気あるのは」
「そ、それは…」
「あの旦那なら、頼りがいあるし堅物そうだしハマる奴はハマるんじゃねぇのかな。ある日突然"伴侶ができた"っつって、女連れて来る可能性だってあるぜ」
「……死ぬ…」
私の知らない所でそんな展開がありそんな光景を目の当たりにする想像をしただけで、心が粉々に砕け打ちのめされそうになった。
しかし宇髄は構わず話を続ける。
「或いは男を手玉にとる悪女とかにも、あの旦那引っかかるかもな。何か奥手っぽそうだしよ」
「……コロス…」
「お前さっきから物騒な事しか言ってねぇな」
行冥を掌の上で転がし弄ぶなど言語道断、そんな女がいたら殴り掛かるかもしれない。
宇髄が何か言っていたが、最早私の耳には届いていなかった。
「ま、そんな事にならねぇ為にもさっさとド派手に当たって砕けて来れば良いんじゃねぇのか」
「待って、何で玉砕前提なの」
まだ砕けると決まった訳ではないのに!と思うものの、その可能性も全くゼロではない。
しかし、今もこうして宇髄の言った通りに、行冥の元に誰かが訪れて親睦を深めている可能性もあるのだと思うと、とうとういても立ってもられなくなった私は─
「…決めた。行ってくるよ」
「お」
「玉砕でも粉砕でもしてきてやる!!」
「よし、行けっ!骨くらいは拾ってやるからよ!!」
何だか上手く焚き付けられた気もしないでもないが、私の決意は固まった。
宇髄に見送られ、とりあえずは颯を回収した後に風邪の鴉達に薬を与えてひと仕事を終えた後、私は行冥のいる屋敷に向かった。