4.孵化
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鳥になった夢を見た。
雲がたなびき澄んだ青の上空を、悠然と舞う夢だった。
地上には家々や川などが小さく見える。
両翼となった腕は風を捉え、無駄な力を使わず空中を舞っていた。
上空の空気は薄いはずなのに、身体中に酸素が巡っているのが分かる。
─ああ、鳥は空を飛んでいる時でも苦しくないのは、息を吐く時もこうして酸素を取り入れているからか。
人間の普通の呼吸ではなく、鳥独自の特殊な呼吸法だというのに、不思議なことに夢の中の私は難なくそれを理解していた。
鳥としてこうやって羽ばたくのは、何て心地が良いのだろう。
肩の力を抜き、風を切って進む感覚をこのまま永遠に感じられたら─
そこで、夢から突然覚めた。
空を悠々自適に舞っていたはずの身体は、医務室の寝台に横たわっていた。
むくりと起き上がり、周囲を見渡す。
室内は薄暗く、窓から見える白んだ空は橙色を淡く滲ませ始めていたが、未だ日の出は迎えていない様子だ。
(…身体が軽い)
室内に日めくり型の暦表があったが、どうやら一週間程眠っていたようだ。
それだけ眠っていたのならば体も訛っているはずなのに、今の私は軽やかに駆け出せそうなくらい身軽だ。
半ば無意識に、傍らに置かれてあった愛刀を手にすると、裸足のまま床に降り立つ。
少しひやりとした感覚が足裏から伝わる。
そしてまだ眠っている隊士を起こさないように、そっと部屋を後にした。
廊下を通り抜け、中庭に出た。
まだ夢で見た感覚が身体に残っている。
私は一度、大きな深呼吸をした。
秋の朝の冷えた空気が肺を満たし、頭も心も冴え渡るようだった。
(肩の力を抜いて、身体中に酸素を巡らせるように)
三節刀を構え、鳥の羽ばたき始めの動作を脳裏に思い描く。
風の呼吸とも違う呼吸法で、そのまま両手に構えた刃を振るった。
─鳥の呼吸・壱ノ型
両刃から繰り出されたのは、鬼の首を素早く一撃で落とせるかのような鋭い斬撃。
その時、確かに私の眼は鳥の翼を捉えた。
それは鳥の雛が、初めて羽を大きく伸ばしてはばたくような強く鮮烈なものだった。
「…あ、えっ!?羽把岐さん!?」
不意に背後から声がしてそちらに振り向くと、医療班の隠と思わしき人がそこにいた。
気付けば空は橙色が強まり、日の出を迎えたようだった。
「…おはよう」
どこまでも澄み渡った様な心地のまま、私は無意識に微笑んで挨拶をした。
これが、私独自の呼吸を確立した日だった。
そしてこの日から約一ヶ月後。
私は鳥柱となった。
─余談ではあるが、この時の起きがけからの勝手な行動は、後から医療班の隠の人からこっぴどく叱られたのは、今となっては良い思い出である。