4.孵化
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
身体を横にしてもらい、大人しく手当を受けている間も、私は
「……最近の君は、随分と無理をした戦い方や鍛錬をしていると師範である風柱から聞いた」
右腕に包帯を巻きながら、行冥は
「…関係ない。強くなるためなら、無茶でも何でもする」
「"無謀"と"覚悟"は別物だ。真尋、今の君はその前者の方だ。…時には養生し、自身を労り冷静に力量を見極めることで君の力は躍進するだろう」
「………別に。その"無謀"で死んだなら死んだで、それでいい」
行冥の包帯を巻いている手が止まった。
それと同時に、その人物から微かに怒りの気配がした。
「……何故、命を粗末にする。何故自ら生命を軽んずるのか、理解し難い」
「………」
その問いに、私は答えられなかった。
両親から散々蔑ろにされ、誰からも大切にされなかったこの命を今更どう大切にしろと言うのか。
いっそこの鬼殺隊の中で、多少無茶をしてでも鬼と戦い死んだ方が、有益で誉なのではないかとすら最近は思っている。
きっと、こんな惨めな気持ちはこの人には分からないのだろう。
そう思うと、少しばかり苛立ちが芽生え始めた。
私は文句の一つでも言ってやろうと、ようやくその人物の方を見た。
…苛立ちのままに、嫌味でも何でもぶつけてやろうと思っていた。
だが行冥の顔を見た途端、その気持ちはどこかへ消え失せてしまった。
包帯を巻いていた彼の手には少し力が入っており、纏う空気には確かに怒りの気配はする。
しかしそれとは裏腹に、悲痛な面持ちでぼろぼろと涙を流していた。
その表情を見た瞬間に、まるで心臓を掴まれたかのように胸の奥が一際痛んで苦しくなった。
(私は、この人にこんな表情をさせたくないのに)
私ごときの命程度で、涙なんか流さないで欲しい。
何も悲しまないでいて欲しい。
私には、死ぬよりもよっぽど恐ろしいことがある。
(……?)
不意に、自身の心情に疑問が沸いた。
私が死より恐れることとは何だろう?
何を動機にして、懸命に柱となろうとしていたのだろう。
何故、あんなにも激しい焦燥感に駆られていたのだろうか。
「…私は」
自問自答しながら、私は噤んでいた口を開いた。
「元々、自分の命を軽視しているのには自覚してた。だから、死ぬのもあまり恐くは感じなかった」
「………」
私の紡ぐ言葉に、行冥は黙って耳を傾けてくれている。
自身の心情を吐露すると、こんがらがっていた頭や胸中が早急に回り始めて、正しく整理されるような気がした。
そのままの勢いで、私は胸の内を言霊にして吐き出す。
死よりも私が恐れるもの。それは─
「…行冥が柱になったと聞いた時、何だか急に遠い存在になった気がした。それに焦りを感じてどうにか追いつきたくて、鍛錬も任務も毎日ひたすらこなしてた。……でも、駄目だった」
言葉にする内に、目頭が熱くなって視界がぼやけ始めた。
泣くまいと思えば思う程、瞳に涙が溜まっていく。
「……このまま追いつけずに遠いままでいたら、そのうち置いて行かれるんじゃないか、忘れられるんじゃないかって……私にとっては、その方が死ぬよりも、よっぽど嫌だ…」
とうとう目尻から涙が流れ落ち、私は悔しさなのか情けなさなのか分からないそれをとにかく隠したくて、左腕で目元を覆った。
私が恐れていたのは、彼に忘れられることだった。
疎遠になると今までの絆も思い出も全て薄らいで、やがて私の存在は数多の隊士の一人になるのではないかと思い、それが焦燥感を煽っていたのだ。
ようやく理解出来た自分の心に納得していると、不意に頭を撫でられる感覚がした。
驚いて覆っていた手を除けると、行冥は相変わらず涙を流しながら、私の頭をそっと撫でていた。
彼の表情や空気からはもう、怒りの気配は消えていた。
「…真尋の思いは解った。だが、志半ばで命を落としていては元も子も無いだろう。…自身や隊の為にも、まずは己の身を顧みることから始めるべきだ」
「……うん」
優しく諭すような声と、がっしりとした大きな手が緩く撫でてくれる感覚が心地良かった。
その声に、ぐちゃぐちゃになっていた感情が少しだけ落ち着いて、私は素直に肯定の言葉を短く返した。
その返事に行冥も少しだけ微笑んで、ようやく涙も止まった様子だった。