4.孵化
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町外れの片田舎、月明かりが照らす下で私は道にへたり込むようにして座っていた。
その鬼はどうやら毒の類なのか、創傷部周囲の運動神経を麻痺させる血鬼術を扱えるようで、そうとは知らずに右腕と両足を負傷した私は最早立ち上がることすら出来ずにいた。
皮膚の感覚はあるのに、力が全く入らない。
ままならない己の四肢に苛立ちながらも、未だ負傷していない左手で三節刀を構えた。
鬼は高さのある
私が油断した、その一瞬の隙を突こうとしているのだろう。
他の隊士の加勢は、期待は薄かった。
一度逃亡を図ったその鬼を、私一人が突出し深追いしてここまで来たので、こんな辺鄙な所にいるのを速やかに発見するのは困難と思われる。
(反撃をしくじれば、私はここで死ぬ)
もしそうなれば、身動きを取れない状態で生きたまま貪り食われる感覚を、ゆっくりと味わいながら絶命するのだろう。
「…趣味の悪い」
思わず舌打ちをし、潜んでいる叢の方を睨み付ける。
そうしてしばらくの間は膠着状態が続いた。
集中力を切らせば死ぬ。
そう頭で分かっていても、日々の不摂生が祟ると同時に負傷による出血により、目眩が現れ始めた。
ちかちかとする視界に何度か瞬きをした際、失血なのか動かない足元が不安定だったのか、体幹がぐらりと少し傾く。
その瞬間、叢で隙を窺っていた鬼が飛び出し襲いかかってきた。
「ッ…!!」
体勢が崩れた所を狙われ、最早
死の覚悟を決め、私は鬼を見据えて左手の武器を確りと握り締めた。
刹那。
背後から重たい鎖の音が響いたかと思うと、飛んできた鉄球が鬼の頭を吹き飛ばした。
鬼の体の方は私の傍にどさりと落ち、そのまま塵になって行く。
「……あ…」
見覚えのあるその武器に、私は安堵感を覚えると同時に「今は会いたくなかった」という気持ちを抱いた。
一撃で鬼を葬ったその攻撃は、私が以前から「見てみたい」と熱望していたはずのそれだったのに、いざ目の当たりにすると力の差を見せつけられたような心地だった。
「…無事か、真尋」
聞き慣れた声が、私の名を呼び掛ける。
それでも私は返事をすることも振り向くことも、何も出来ずにいた。
呼び掛けた声の主、行冥はこちらに近付くと、片膝立ちで怪我の具合を見る。
「創傷の数は少ないようだが…動けないのか」
「…爪に毒の類いの血鬼術仕込んでいたのか、運動神経を麻痺させられた。皮膚感覚はある」
半ば報告業務的な返事をしながら、私はじっと地面に視線を落としていた。
相手の顔は、見れなかった。
「……手当てをしよう」
手足の怪我が、未だじわじわと血を滲ませているのを察知したのか、行冥は相変わらず静かな声でそう気遣ってくれた。