4.孵化
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鬼殺隊に入隊してからの日々は、それは過酷なものだった。
毎日の鍛錬に、鬼の討伐の任務が入れば師範について行く。
その合間に時間を見つけては鳥舎へ行き、鎹鴉達の育成。
日々目まぐるしく働く中で、確かに忙しいながらも私は充実感を感じていた。
そんな多忙な日々を送っていれば、月日はあっという間に流れるもので、気付けば私が鬼殺隊に入隊してから半年が経とうとしていた。
季節は移ろい、秋の気配があちこちに見て取れた。
夏よりも少し冷えてきた空気が心地好く、微かに色付き始めた木々の葉からは紅葉の匂いがし始めていた。
その日、私は任務が無いため鳥舎に行こうと道を歩いていたのだが、その途中で見知った背中を見つけた。
少し懐かしさすら感じたその姿に、私は嬉しくなり思わず呼び掛けていた。
「おーい、行冥ー!」
呼ぶ声に振り返るその人物に、私は駆け寄り近付いた…のだが。
「あれ。何か……全体的に大きくなってる…?」
私の記憶の中の彼は最終選別の時のままなので、高身長且つ細身の印象だったけれども、今目の前にいる人は本当に同一人物なのかと思うくらいの変わりっぷりだった。
腕周りや胸板の筋肉量が随分と増しており、身長も前より見上げる顔の角度が上がっている。
「成長期?」
「……食事内容の質向上と、日々の鍛錬による賜物だろう」
何の考えも無しな私の間抜け過ぎる一言に、行冥は律儀にも真面目な返答をしてくれた。
ふと、これから任務があるのか彼の手にある武器が目に付いた。
手斧の柄尻に鎖が繋がれており、輪状に纏めて幾重かあるその終わりには棘のある鉄球。
鍛錬か何かに使うものかな、と思っていたが、手斧に「悪鬼滅殺」の文字があるので、それが日輪刀だと気付いた時思わず感動の声を上げてしまった。
「え、それ日輪刀!?すごい、かっこいい!!」
後々自覚するのだが、私はどうやら素朴な設計の通常の刀よりも変わり武器の方が好みのようである。
でなければ彼のその武器を、こうして目を輝かやかせて見つめるなんてことはしないだろう。
「…鎖の反響音で、鬼等の位置や動きを把握出来る。この形状が私に合っていると、鍛冶師に提案された次第」
行冥は片手に持っていたその武器を少し持ち上げると、じゃらりと重たい鎖の音が鳴った。
そんな大層重量のありそうな手斧や鉄球を自在に扱うのかと想像すると、否応なしに憧憬を抱いてしまう。
「いいなぁ、行冥の戦っている所見てみたいなぁ…」
迫力のある戦いぶりを勝手に頭の中に思い浮かべていると、今度は行冥の方から訊ねられた。
「真尋の方も、随分と変わった日輪刀のようだが」
「あ、これ?」
私は背負っていた自身の、折り畳まれていた武器を広げて見せた。
「じゃん、三節刀!」
三節棍の両端に、二対の刀を取り付けた日輪刀。それが私の愛器だった。
やはり慣れ親しんだ武器が良い、と我儘を言って打ってもらったもので、ちなみに"三節刀"と名前を付けるのに、"三節両刃刀"だの"対三節棍刀"だのと鍛冶師とあれこれ約半日悩んだのは、ここだけの話である。
「やっぱり刀よりこの武器の方が手に馴染んで、おかげで任務も順調!」
ふふん、と得意げになる私に対し、目の前の人物はまるで子供の成長を見守るかのような優しい表情を浮かべていた。
「そうか。活躍も好調のようで何よりだ」
口元に仄かに微笑みを滲ませるその様子に、何だか歳上の余裕のようなものが見受けられて「私だけが競争意識を抱いているようだ」と思うと、ちょっとだけ悔しいようなもどかしいような心地になった。
それからは、お互い暫し進む方向が同じなので歩きながら近況を交えた様々な雑談をした。
と言っても、話す割合は私の方が圧倒的に多く、行冥は相づちをうったり私の質問に答えるような形ではあったが。
そうして色々話すうちに、あっという間にお互い進む方向の別れる分岐点まで来てしまった。
「じゃあ、私はこっちの道だから。任務頑張れ!」
「ああ、真尋も健闘を祈る」
背を向けて歩き出す行冥。
私はその背中に、思い出したように声をかけた。
「あ、そうだ。最後に一つ」
「……?」
「百人一首、八十七番!」
「…"村雨の 露もまだひぬ まきの葉に 霧立ちのぼる 秋の夕暮れ"」
「正解!」
最終選別の時に、暇つぶしに覚えたものを未だ覚えているかな、と試しに問いかけてみたが、今でも確りと百首もの歌を記憶しているらしい。
腕で大きく丸を作る私に対し、行冥は心做しか可笑しそうにする表情が見受けられた。
あんな表情もするんだな、と思いながら、私達はそれぞれの作業や任務のためにそこを離れた。