短編
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鎹鴉の一羽が、老衰で息を引き取った。
現役の時は伝達や連絡に重宝され、育成中の鴉達にも言葉を教えたりと多方面に優秀な子だったらしい。
私はその亡骸を布で包み、埋葬する場所へと向かっていた。
鎹鴉達を葬る場所は、隊士達の墓地からもう少し山の方へと入った場所にあるとのことで、私は昼間の山道を歩き、その目的地へと進んでいた。
右手は布で包んだ鴉の亡骸、左手は山道の脇に咲いていたリンドウの花を摘んだ束。
夏の日差しは当たれば肌がじりじりと灼けるように強く、額に滲んだ汗も滴り落ちるものの、両手はそれらで塞がっており、それを拭うことも出来ずにただ黙々とひた歩いていた。
志半ばに散っていった隊士達が眠る場所を突き進む中、不意にどこからか読経の声と数珠の擦れる音が聞こえてきた。
きょろきょろと周囲を見回しながら歩き、聞き覚えのあるその声の主を探す。
程なくして、斜面上方にある一つの墓場の前にその人物はいるのを見つけた。
私は付近の石段を登り、上段の墓石が並ぶ道に出てその人に近付く。
「南無阿弥陀仏…」
「…丁度終わった所だったかな」
読経が終わり、合掌をする行冥に声をかけた。
双眸からは涙が零れ落ちており、悲痛な面持ちで墓石の方を向いていた。
「知り合いの人のお墓?」
「…先日、任務を共にした者だ。重傷を負い医務室で生死の境をさまよっていたそうだが…」
その後の言葉は紡がずとも、結果はこの墓石が示していた。
一命を取り留めたものの、予後が悪く命を落とすというのは鬼殺隊の中でもよくある話だ。
「…少し、花を供えても良いかな」
私は左手に持っていた花束のうちの幾つかを、この墓前に捧げることにした。
右手に抱えていた鎹鴉の亡骸を彼に託し、適当に数本の花を見繕う。
行冥は私から渡された布の中身が何かを察したようで、変わらず悲しげな表情のままだった。
「…鎹鴉か」
「うん、老衰で今朝亡くなってね。…最期は私の腕の中で眠るように、だったよ」
花立てにリンドウの花を挿しながら、私はその今朝方の光景が脳裏に蘇った。
鎹鴉としての役割を終えたその子は、鳥舎で隠の人達に隠居生活をお世話されていたそうなのだが、晩年は人の言葉も忘れて普通の鴉のように鳴いていたらしい。
そこで鳥の言葉が分かる私に、そのお世話係としての白羽の矢が立ったのだ。
その子が鳴いて頭に響いてくる言葉は「ご飯が欲しい」「外の空気が吸いたい」といったごくありふれた要望で、私はできる限りその希望に応えていた。
それらの願いを叶えていたおかげなのか、息を引き取る直前にその子は小さくか細い声で"ありがとう"と鳴いて、穏やかな様子で長い眠りについた。
左手の花束を一度地面に置き、目の前の墓前に手を合わせる。
(…この隊士の人も、死ぬ前に色々と望みや願いもあっただろうに)
最期にそれに応えてくれる人はいたのだろうか、と思い馳せてしまう。
その人の個人的な願い等は今となっては分からないが、鬼殺隊隊士としての全員の願い"鬼舞辻無惨を倒し、鬼をこの世から無くす"という想いは、残った者たちが引き継げる。
きっとそれが、今私達のできるせめてもの餞なのかもしれない。
隊士への弔いを終え、私は行冥から鎹鴉の亡骸を受け取る。
「今から埋葬に行くのか」
「うん、鴉達の墓場はこの先にあるからね。土を掘る道具とかは向こうに置いてあるみたい」
「…手伝おう」
「あ、本当?助かるよ、ありがとう」
お経もあげてもらおうね、と腕の中で眠っているその子に声を掛けたところ、不意に思い浮かんだ事を目の前にいる人物に伝える。
「そうだ、行冥に一つお願いしたかったんだけど…この子の場合、悲しい気持ちというよりも"お疲れさま"って気持ちでお経をあげてほしいなって」
確かに亡くなったことに対して悲しい気持ちはあるが、今まで隊士達の助けとして働き支援していた分、労いたい気持ちの方が私の中で上回っていたのだ。
その旨を伝えたところ、行冥はその意図を汲んでくれた様子だった。
「その鴉の最期は、真尋が看ていたのだろう。…君がそう思い望むのであれば、そうしよう」
「…うん、ありがとう」
私なりの弔う気持ちに寄り添ってくれるその人の存在に、少しばかり悲しい気持ちが和らいだ。
この隊にいれば、今後も様々な"死"と向き合うことになるだろう。
もしその瞬間が来る時はこの人の隣にいたい、と願うのは過ぎた願いだろうか。
日差しはまだ弱まることを知らず、生命を謳歌する蝉の声がやけに煩かった。