3.鳳声
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藤襲山の山中で、隠の人が戻るのを待つ間に私は颯に大人しく隣に待機するように指示し、鎹鴉の冬暁と和解しようと奮闘していた。
最初は警戒して物陰に隠れていた冬暁だったけれども、鳥に特別好かれやすい私の説得もあってか物陰から姿を現し、少しずつじりじりと距離は狭まっていた。
そんな場面の最中、隠の人がようやく戻ってきた。
「お待たせしました。羽把岐さんには柱の元へ向かう前に、先にお館様に会っていただくことになりました」
「……はい!?」
お館様こと産屋敷耀哉様に会うのはまだまだ先のことだろうと思っていたのだけれども、予想外の対面する機会に度肝を抜かれた。
…一体何の話が?最終選別で何かやらかした?
もやもやと心配が募る中で、隠の人と鎹鴉に急かされ、私は案内されるがままに走らされた。
鴉の導きで辿り着いたのは、藤襲山からそう遠くは無い場所にある屋敷だった。
出立の直前、隠の人は「お館様は湯治で別邸の屋敷に来ており、普段は滅多に会えないのだ」と話していた。
(湯治ということは、体の調子が悪いのか病なのかな……うーん、運が良いのか悪いのか…)
想定より早い対面に内心不安を感じつつ、その屋敷にいた別の隠の人に案内され、私はとうとう隊の総括的存在であるお館様と接見することになった。
「し…失礼します」
おずおずと襖を開け、三指をつき頭を下げる。
とりあえず、最低限の礼儀作法にはなっているはず。
まともな作法の教育を受けてこなかった上、堅苦しい場面が苦手な私は、緊張で無作法になっていないかの不安が付きまとっていた。
そして、鬼殺隊をまとめあげる人物なのだから、果たしてどんな恐ろしい人物なのだろうと思っていたのだが。
「やあ、よく来たね。真尋」
ひどく優しいその声に、今まで抱えていた緊張感は一気に忘れてしまった。
思わず顔を上げると、そこに居たのは私とそう歳の変わらない青年が一人、座っていた。
奥に見える中庭には藤棚があり、そこでも藤の花が咲き誇っている。
それを背景にしたその人は、威厳がありつつも優しい雰囲気を纏っていて、穏やかな表情でこちらを見つめていた。
「こちらにおいで。君とは色々話したかったんだ」
「…はい」
促されるがまま、私は室内に足を踏み入れてお館様の近くに腰を下ろした。
「隠からの報告を聞いたよ。行冥と共闘して鬼を殆ど倒したそうだね」
「はい。…でも、私は陽動するだけで首を落としていたのは向こうでした」
「それでも真尋の活躍もあってこそだよ。行冥も真尋も、二人とも隊の未来を担う可能性の塊だ。こんなに嬉しいことはないよ」
優しい声で紡がれる言葉に、胸の内が蕩けるような心地になった。
確かに満たされていく嬉しさと、この人の期待に応えたいという気持ちがどんどんと芽生え始める。
(不思議な人だな…)
初対面だというのに、声を聞き姿を眺めるだけで安心感を抱いてしまう。
思わず忠誠心を捧げたくなるような、そんな魅力のある人だと思った。
お館様は私のことについて色々と報告を受けていたようで、今度は颯のことについて触れた。
「そういえば、君は鷲を相棒にしていると聞いたのだけれども…鳥の扱いに長けているんだね?」
「はい、あの…」
一瞬躊躇したが、それでも"この人になら鳥の声が分かることを話しても大丈夫だ"という確信があった。
何を根拠にしたのかは分からないが、本能的にそう感じた。
「私、鳥の言葉が分かるんです」
「…それは、どんな風に聞こえるんだい?」
お館様は、馬鹿にする訳でもなく疑う様子すら無くただ、相変わらず穏やかな微笑みを湛えたまま私の言葉を素直に受け止めてくれた。
そのことが、無性に嬉しかった。
私は出来る限り解りやすいように、その特殊な能力について説明をした。
たどたどしい説明になってしまったが、目の前の人は終始穏やかな表情で私の言葉にずっと耳を傾けてくれていた。
颯の事はもちろん、日常的に見かける鳥とのやり取りの話や、最終選別では山にいた梟にこっそりと話を聞いていた事。
「なるほど…その力のおかげで、藤襲山の鬼の居場所をすぐに把握出来たんだね」
「はい。その梟も山に長く居着いていたみたいで、近道とか色々なことを教えてくれました」
最終選別の時、その山に梟がいることに気付いた私は、行冥と少し離れる機会があった際にその梟と接触を図った。
梟は私の持っていた餌と引き換えに、鬼の居場所の情報を提供してくれていたのだ。
「それは素晴らしい力だね。真尋、その力はもっと誇っても良いと私は思うよ」
「…恐縮です」
本当に嬉しそうに話すものだから、私は気恥しさと嬉しさの入り交じった心地になり、もじもじと身動ぎして正座を組み直したりしてしまった。
そんなこちらの様子を見て、お館様は優しく微笑む。
「…その力を見込んで、君に頼みたいことがあるんだ」
「わ、私に出来ることであれば…!」
この人の期待に応えたい。沢山褒めてくれる言葉が欲しい。
すっかりお館様に忠誠心を抱き始めていた私は、その頼みごとについて気を引き締め、改めてしっかりと聞く姿勢をとった。
「実はね、鎹鴉たちの育成をお願いしたいんだ」
「鎹鴉…あの喋る子たちですか?」
「うん、既に隠で育成係はいるにはいるのだけれども…」
お館様の表情が少しだけ曇る。
話を聞くに、どうやらあの鴉たちを育て上げるのは相当難しいそうで、今いる隠の人達では数を中々増やせないでいるそうだ。
そこで、鳥の言葉が解る私が入れば一気に鎹鴉の成長を見込む事が出来、数を増やしてその結果として隠も含んだ隊全体の連携が取りやすくなる、といったことだった。
「訓練に加えての仕事になるから、真尋の負担になってしまうけれど…どうかな、頼めるかな?」
少し眉尻を下げて、小首を傾げて私に尋ねるお館様。
そんな申し訳なさそうに言われてしまっては、私だって受けて立ちたくなるというもの。
「お任せください!立派な鴉の調教師にもなりますし、そのうち柱にだってなっちゃいますから!」
ふんふんと息を巻き張り切る私を見て、お館様は嬉しそうに笑った。
「ありがとう。期待しているよ」
そうして私は、風柱の継子として鍛錬をすると同時に、鎹鴉たちの育成係としての掛け持ちの生活が始まったのだった。