3.鳳声
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それから私達は、七日間行動を共にする事にした。
先陣は私が切り、首を狙うふりをして鬼の意識をこちらに陽動させる。
そして気が逸れた所を、主戦力の行冥が首を落とす。
出会ってからそう時間が経っていないとは思えない程の連携に、私達は大きな怪我をすることも無く次々と鬼を狩って行った。
そうして鬼を討伐しながら、最終選別を受けた人達の救助にも入ろうと二人で行動していたのだが、私達が駆けつけた時には皆誰もが既に手遅れで、次々と命を落としていった。
その度に行冥は涙を流し、名前も知らない人々の死を悼んでいた。
彼が元来涙脆いであろうことは薄々理解し始めていたので、その点については今思えばあまり気をかけなくても良かったのかもしれない。
だが、それでも私はその人が悲痛な面持ちで泣いている姿を見ると、何だか胸の奥がちく、と痛むような感覚がしていた。
"悲しい気持ちが少しでも紛れるように"
いつしかそんな思いを抱いていた私は、行冥が涙する度に何か適当に話題を振ったり、市井の話をしてみたりと鬱ぐ気分が紛れるような言動をとるようになっていた。
そんな経過もあってか、私達は少しずつ会話を交わしてお互いの事を知って行った。
彼は私より三つ歳上の十八歳で、この鬼殺隊の選別に参加する前は寺育ちで、身寄りの無い子供達といたそうだ。
しかしある日の夜に鬼に襲われ、子供達は殆ど亡くなり、戦って唯一守り抜いた子からも裏切られ、それからは子供には苦手意識があるのだと、ぽつりぽつりと話してくれた。
"鬼殺隊に"と勧誘された同じ立場だが、私とのあまりに違う境遇に愕然とした。
大切な人が死ぬ悲しみも苦しみも知らない私にとって、彼の心境を推し図ることは到底不可能だった。
(…行冥の傷ついた心は、いつか癒える時が来るんだろうか)
この人の悲しみがいつか無くなり、心から笑える時が来ることを、何故か無性に願わずにはいられなかった。
ちなみに私の両親のいざこざを含んだ身の上話もしたのだが、案の定彼はぼろぼろと涙を流した。
「別に泣くことはないよ、実際私は悲しい訳じゃないし」
「…しかし、父親が鬼となったのだろう」
「確かにそうだけど…でも私にとって"良い父親"じゃなかったからなぁ」
今思い返しても、腹の立つ事ばかりの思い出が蘇る。
薄情かもしれないが、死んで清々したとはこういうことなのだろう。
それでも何か一つくらいは良い思い出があるだろうと記憶を呼び起こす中、唯一気に入った物があった事をふと思い出した。
「そうそう、百人一首を貰ったときだけは嬉しかったかな」
「…百人一首?」
「うん、まあ一緒に遊んだりしてくれた訳じゃないけどね。…百人一首、知ってる?」
「その物自体は理解しているが…歌の方までは」
話を聞くに、どうやら彼は全ての書面を読むことまでは出来ないらしい。
半紙に筆で書いたものなら、紙質の手触りでどうにか読めるらしいが、木版や印字となると非常に困難なのだそうだ。
百人一首も、読み札は印字で取り札は木札に書かれている。
となると、身近に教えたり読んだりする人がいなければ縁の無いものなのだろう。
「そうだ、その歌教えようか!」
「…羽把岐は知っているのか」
「勿論!全部暗記している!」
最終選別も、今日で五日目となる。
この日数になると山に潜む鬼と遭遇する確率もかなり下がっており、少し暇を持て余していた私達だったのだが、気分転換にもなるだろうとそう提案してみた。
行冥は少し俯き何かを考えていた様子だったが、私に顔を向けふと表情を緩ませて返す。
「鬼も近くにいないようだしな…羽把岐に倣って、私も百首を暗記しようか」
「よし!…あ、それと。名字じゃなくて名前の方で呼んでもらった方が良い…かな」
名字だと家族の縛りが未だにあるように思えて苦手だ、と説明すると、私の身の上を知ってくれていた彼は納得してくれたようだった。
そうして五日目は、百人一首の短歌とその現代翻訳を教えて過ごしたのだが、この行冥という人物はどうやら膂力以外にも暗記力もとてつもないらしい。
一度教えただけで、すんなりと百人一首の歌とその意味を覚えていった。
…過去の幼い私が、毎日毎日繰り返して覚えた努力とは一体。