第1章
夢小説設定
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美雨が目を覚ましたのは、まだ空が白んでいる頃だった。山あいの集落を見下ろす丘の上、小さな祠の傍らに敷いた寝床の上で、静かにまぶたを開ける。
薄く冷たい朝の空気に銀の髪がさらりと揺れ、青い瞳が空を映した。
──夢を見ていた。
夢の中の声は優しくて、あたたかくて、遠かった。
「……もう、いかんな。私はここまでだ…」
最後にそう言って、微笑んだ人の顔を思い出す。
「……雨水様……」
ぽつりと呼んだ名は、もう帰らない人のものだった。
懐に手を入れて、銀のペンダントを握る。何も語らないそれは、ただ美雨の胸の上で静かに揺れた。
牛魔王蘇生を目論む者たちによって李家が襲撃された夜──全てが変わった。
勾玉は奪われ、家族も、家も失った。
美雨は、また一人残された。
……でも、まだ終わっていない。
「……必ず、取り戻す」
心の奥底に、静かに決意が灯る。
美雨は立ち上がり、身支度を整える。脇差の感触を確かめるように腰に手をやった。懐の術符も蓄えは充分。道具の確認を終えると、「永明」と小さく呟く。
ポンっと音が響くと同時に、そこには小さな黒い狐が1匹現れた。狐は「この荷物を運べばいいですか?」と美雨に訪ねると身体に煙を纏わせて大きな四足歩行の獣へと姿を変化させる。
その姿は艶のある漆黒の体毛に鋭い牙を持つ、まるで虎の様な生き物である。
獣は荷物を口に咥えるとヒョイっと軽く背に乗せ、どうぞ、と美雨の前にしゃがみ込む。美雨は獣の背中に跨ってそっと背中を撫でる。
彼女達は静かに進み出す。
空はすっかり白み、東の空に朝日が昇ろうとしていた
________________________
天界の高殿。空気は澄みきっているが、張り詰めた気配が漂う。
「……彼女を一人で向かわせるとは、少々無謀かと存じますが」
後ろから声をかけたのは、二郎神。真面目な声音に、観世音菩薩は立ち止まりもせず答えた。
「大丈夫だろ。どうせあの四人と一緒になる。放っといてもな」
「……なぜ、そう言い切れるのですか?」
「勘だよ、勘。――あいつらは縁が深ぇんだよ。本人らは気付いてねぇかもしれねぇがな」
観世音菩薩は、遠くの地上を見やった。
「忘れてるだけで、どこかで見た顔ってのはあるだろ?そういうもんさ」
風が吹く。二人の視線の先には、ひとり静かに旅路をゆく白銀の少女姿が、確かにあった。
薄く冷たい朝の空気に銀の髪がさらりと揺れ、青い瞳が空を映した。
──夢を見ていた。
夢の中の声は優しくて、あたたかくて、遠かった。
「……もう、いかんな。私はここまでだ…」
最後にそう言って、微笑んだ人の顔を思い出す。
「……雨水様……」
ぽつりと呼んだ名は、もう帰らない人のものだった。
懐に手を入れて、銀のペンダントを握る。何も語らないそれは、ただ美雨の胸の上で静かに揺れた。
牛魔王蘇生を目論む者たちによって李家が襲撃された夜──全てが変わった。
勾玉は奪われ、家族も、家も失った。
美雨は、また一人残された。
……でも、まだ終わっていない。
「……必ず、取り戻す」
心の奥底に、静かに決意が灯る。
美雨は立ち上がり、身支度を整える。脇差の感触を確かめるように腰に手をやった。懐の術符も蓄えは充分。道具の確認を終えると、「永明」と小さく呟く。
ポンっと音が響くと同時に、そこには小さな黒い狐が1匹現れた。狐は「この荷物を運べばいいですか?」と美雨に訪ねると身体に煙を纏わせて大きな四足歩行の獣へと姿を変化させる。
その姿は艶のある漆黒の体毛に鋭い牙を持つ、まるで虎の様な生き物である。
獣は荷物を口に咥えるとヒョイっと軽く背に乗せ、どうぞ、と美雨の前にしゃがみ込む。美雨は獣の背中に跨ってそっと背中を撫でる。
彼女達は静かに進み出す。
空はすっかり白み、東の空に朝日が昇ろうとしていた
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天界の高殿。空気は澄みきっているが、張り詰めた気配が漂う。
「……彼女を一人で向かわせるとは、少々無謀かと存じますが」
後ろから声をかけたのは、二郎神。真面目な声音に、観世音菩薩は立ち止まりもせず答えた。
「大丈夫だろ。どうせあの四人と一緒になる。放っといてもな」
「……なぜ、そう言い切れるのですか?」
「勘だよ、勘。――あいつらは縁が深ぇんだよ。本人らは気付いてねぇかもしれねぇがな」
観世音菩薩は、遠くの地上を見やった。
「忘れてるだけで、どこかで見た顔ってのはあるだろ?そういうもんさ」
風が吹く。二人の視線の先には、ひとり静かに旅路をゆく白銀の少女姿が、確かにあった。
