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「ねえ、いいじゃないですか」
黒革のソファに浅く腰掛ける男に、女はゆっくりとのし掛かった。はぁ、と悩ましそうな吐息をのせて。女はそのまま、男のネクタイを引きずるように解く。煌びやかな照明の下、漂うのは不埒な空気。それも全て、妖艶な雰囲気を持つこの女に掌握されているのだが。
固まったままの男から眼鏡を外し、女は弧を描くように微笑んだ。
「ここからは長くなりそうね」
男が言おうとしていた言葉は、リップ音と共に飲み込ませてしまった。
───という、スパイ物の洋画で赤面してしまうほど、自分はうぶな人間であった。ただ、その時優位に立っていた女性の表情に惹きつけられていたのも事実である。そのため、一種の憧れと背徳感を感じつつ見たこのシーンは、今でも忘れがたいワンシーンになっていた。
それがいつしか時は経ち、今では恋人なる人と出会うことができた。相手は年上の余裕を持って振る舞う人で、それはキスをする際も例外ではなかった。
自然な流れのまま、こちらへ優しげに微笑んでからキスをする。その一連の行動と、キスの後に見せる伏し目も含め、トレイ先輩という人は余裕に満ちた色気を持っていた。
別にその現状に対して、文句を言おうとは思わない。逆にこんな冴えない自分を選んでくれたというだけでも、喜ばしいことには違いないだろう。しかし、こちらも「相手をリードする」という余裕を、一度は味わって見たいと思ってしまったのだ。イレギュラーで構わないから、一度だけ。
「トレイ先輩、ちょっとこっちに寄ってもらってもいいですか?」
そんな決意を胸に、傍らに座るトレイ先輩へ声をかける。この日は久しぶりに2人きりになれたということもあり、部屋は恋人らしい雰囲気に包まれていた。
「...ん? ああ、わかった」
今座っているソファが軋む音と、心臓がどきりとする音が重なったような気がした。少し視線をずらすと、恋人補正を差し引いても端正な顔立ちのトレイ先輩が目に映る。それだけでも心音が忙しなく動くが、この自然なシチュエーションを逃すわけにはいかなかった。
「どうした? 何かしたいことでもあるのか?」
こっちが恥ずかしくなる前に、間髪入れずにトレイ先輩の眼鏡へ手を伸ばした。彼の眼鏡を上へずらし、後に続くはずだった言葉ごと唇で蓋をする。数秒間の静寂の後「ずっと、こうしたかったんです」と余裕げに微笑むのも忘れずに。
「だって、こっちはいつもリードされる側じゃないですか。今回こそは不意打ちしてみたいなって思いまして」
「……はは、これは一本取られたな」
突然キスをされた本人は、少し照れたように笑う。これまで一度も見たことがない、トレイ先輩のはにかむような笑みを見れただけでも満足だった。
ただ、当のトレイ先輩は満足していなかったようで。
「でも、まだまだだな。もっと練習が必要なんじゃないか?」
おもむろに眼鏡を外し、彼はこちらへにやりと笑ってみせる。それは彼が時折見せる、底の見えない笑みに間違いなかった。
こっちも余裕がないんだ、お前ならわかってくれるだろう?
悩ましそうな吐息が、自身の耳元に囁かれる。ぼんやりとした照明の下、妙に艶かしい空気が漂っていた。そして、見たことがない程の色気を纏った彼こそが、間違いなくこの場の雰囲気を掌握していた。
現実は、あの時に見たものよりもずっと耽美なものであると、この時初めて知った。
「……長くなりそうだが、付き合ってもらうぞ」
待ってほしい、その言葉は、リップ音と共に飲み込まされてしまった。
黒革のソファに浅く腰掛ける男に、女はゆっくりとのし掛かった。はぁ、と悩ましそうな吐息をのせて。女はそのまま、男のネクタイを引きずるように解く。煌びやかな照明の下、漂うのは不埒な空気。それも全て、妖艶な雰囲気を持つこの女に掌握されているのだが。
固まったままの男から眼鏡を外し、女は弧を描くように微笑んだ。
「ここからは長くなりそうね」
男が言おうとしていた言葉は、リップ音と共に飲み込ませてしまった。
───という、スパイ物の洋画で赤面してしまうほど、自分はうぶな人間であった。ただ、その時優位に立っていた女性の表情に惹きつけられていたのも事実である。そのため、一種の憧れと背徳感を感じつつ見たこのシーンは、今でも忘れがたいワンシーンになっていた。
それがいつしか時は経ち、今では恋人なる人と出会うことができた。相手は年上の余裕を持って振る舞う人で、それはキスをする際も例外ではなかった。
自然な流れのまま、こちらへ優しげに微笑んでからキスをする。その一連の行動と、キスの後に見せる伏し目も含め、トレイ先輩という人は余裕に満ちた色気を持っていた。
別にその現状に対して、文句を言おうとは思わない。逆にこんな冴えない自分を選んでくれたというだけでも、喜ばしいことには違いないだろう。しかし、こちらも「相手をリードする」という余裕を、一度は味わって見たいと思ってしまったのだ。イレギュラーで構わないから、一度だけ。
「トレイ先輩、ちょっとこっちに寄ってもらってもいいですか?」
そんな決意を胸に、傍らに座るトレイ先輩へ声をかける。この日は久しぶりに2人きりになれたということもあり、部屋は恋人らしい雰囲気に包まれていた。
「...ん? ああ、わかった」
今座っているソファが軋む音と、心臓がどきりとする音が重なったような気がした。少し視線をずらすと、恋人補正を差し引いても端正な顔立ちのトレイ先輩が目に映る。それだけでも心音が忙しなく動くが、この自然なシチュエーションを逃すわけにはいかなかった。
「どうした? 何かしたいことでもあるのか?」
こっちが恥ずかしくなる前に、間髪入れずにトレイ先輩の眼鏡へ手を伸ばした。彼の眼鏡を上へずらし、後に続くはずだった言葉ごと唇で蓋をする。数秒間の静寂の後「ずっと、こうしたかったんです」と余裕げに微笑むのも忘れずに。
「だって、こっちはいつもリードされる側じゃないですか。今回こそは不意打ちしてみたいなって思いまして」
「……はは、これは一本取られたな」
突然キスをされた本人は、少し照れたように笑う。これまで一度も見たことがない、トレイ先輩のはにかむような笑みを見れただけでも満足だった。
ただ、当のトレイ先輩は満足していなかったようで。
「でも、まだまだだな。もっと練習が必要なんじゃないか?」
おもむろに眼鏡を外し、彼はこちらへにやりと笑ってみせる。それは彼が時折見せる、底の見えない笑みに間違いなかった。
こっちも余裕がないんだ、お前ならわかってくれるだろう?
悩ましそうな吐息が、自身の耳元に囁かれる。ぼんやりとした照明の下、妙に艶かしい空気が漂っていた。そして、見たことがない程の色気を纏った彼こそが、間違いなくこの場の雰囲気を掌握していた。
現実は、あの時に見たものよりもずっと耽美なものであると、この時初めて知った。
「……長くなりそうだが、付き合ってもらうぞ」
待ってほしい、その言葉は、リップ音と共に飲み込まされてしまった。