twst夢
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ときたまに夢を見るのだ。体が小さくなる液体を飲み干したり、ドードー鳥たちのチキンレースを見たりと、不思議な夢を。それらのほとんどが明晰夢であったが、それにしては現実に似すぎているものばかりであった。煤を吸い込んだ時の息苦しさやマッシュルームを咀嚼する感覚は、これが「夢」だと言う認識を大きく揺るがせた。そんな夢が、連日のように続いている。ある時からぱったりと見なくなったと思えば、また悪夢とも言えぬ夢を見続ける羽目になっていたのだ。
その日も、その前の日と同じように不思議な夢から目を覚ました。起きてすぐ、時計を確認して胸を撫で下ろす。今日も、ちゃんと朝を迎えることができた。そう確認することで、やっと過呼吸気味の息遣いが戻っていく。もうこの頃には、程々に辛い現実よりも底の見えない夢から逃げたいという気持ちの方が強くなっていた。鬱屈とした気分、目覚めは最悪だった。
それでも、日常生活は止まってはくれない。重い体を引き摺るように、ぎしぎしと音を立てるパイプベッドから降りる。
「……制服を着替えて、顔を洗って、ご飯を食べて、それから」
これからするべきことを呟きつつ、クローゼットへ足取りを進めてゆく。夜の温度が残るフローリングは冷たく、まだ夢心地の脳を突き刺すようだった。
使い古したクローゼットを開けて、いつも通り制服を取る。ボタンを閉めて、ネクタイを結んで、最後に鏡で微調整。それからいつも通りの日常が始まる。
はずだった。
「あれ?」
確か、ネクタイなんて自分の高校の制服ではなかったはず。けれども、自分の手にはしっかりとモノクロのネクタイが握られていた。記憶が正しければ、ネクタイ自体持っていなかった気がするが、鏡には黒のブレザーと白黒のネクタイを締めた自分が映っている。それを認識した瞬間、さあっと血の気が引いていった。
「夢……なの? さっきのも、今のも」
この現実じみた夢、もしくは夢みたいな現実から、目を背けたくてたまらない。恐怖に取り憑かれたせいか、ネクタイは乱雑に外して、床へ叩きつけてしまった。
捻れた世界の中、自分の目を閉じて「覚めろ…夢から覚めろ!」と狂人のように祈りを捧げた。しかし、先ほど感じた夢から覚める感覚はまだやってこない。その現状に痺れを切らし、再び目を見開いた。
「諦めた方がいいんじゃないか? 夢は現実になってしまったんだから」
鏡には、よく見知った青年が映っていた。木蔭色の髪に、トパーズを閉じ込めたような瞳、それと自分が今着ている制服と同じものを纏った男の人。あの夢の中から、抜け出してきたのだろうか。嫌な予想が頭を巡った。
ごぷりと鏡面が揺らめいたかと思えば、向こうの世界からあの人の手が伸びてくる。その手はフローリングに落ちたネクタイを拾い上げ、しわの寄ったそれを直し始めた。
「…駄目じゃないか。制服をこんな粗末に扱うだなんて」
金属のように冷えた視線が突き刺さる。ナイフで心臓を撫でられているような感覚に陥ったせいで、自分の身体は身動き一つ取れないでいた。
「結び直してやるから、こっちにおいで。監督生なら、わかってくれるだろ?」
口角をぐにゃりと歪ませて、優しさを演出するかのように彼は微笑む。それはよく見知った、食えない男らしい表情だった。
「さあ、この手を取るんだ」
抵抗する間もなく、半ば強制的に鏡の中へ引き込まれてゆく。バランスを崩しそうになり彼の胸へ倒れ込むと、少し甘い香りがした。それは、今感じている恐怖とは裏返しの、懐かしさという感情を抱かせた。
そのせいだろうか。
「ずっと、お前と再会することを夢見ていたんだ」
という言葉に頷いてしまったのは。
「鏡面に落ちる」
その日も、その前の日と同じように不思議な夢から目を覚ました。起きてすぐ、時計を確認して胸を撫で下ろす。今日も、ちゃんと朝を迎えることができた。そう確認することで、やっと過呼吸気味の息遣いが戻っていく。もうこの頃には、程々に辛い現実よりも底の見えない夢から逃げたいという気持ちの方が強くなっていた。鬱屈とした気分、目覚めは最悪だった。
それでも、日常生活は止まってはくれない。重い体を引き摺るように、ぎしぎしと音を立てるパイプベッドから降りる。
「……制服を着替えて、顔を洗って、ご飯を食べて、それから」
これからするべきことを呟きつつ、クローゼットへ足取りを進めてゆく。夜の温度が残るフローリングは冷たく、まだ夢心地の脳を突き刺すようだった。
使い古したクローゼットを開けて、いつも通り制服を取る。ボタンを閉めて、ネクタイを結んで、最後に鏡で微調整。それからいつも通りの日常が始まる。
はずだった。
「あれ?」
確か、ネクタイなんて自分の高校の制服ではなかったはず。けれども、自分の手にはしっかりとモノクロのネクタイが握られていた。記憶が正しければ、ネクタイ自体持っていなかった気がするが、鏡には黒のブレザーと白黒のネクタイを締めた自分が映っている。それを認識した瞬間、さあっと血の気が引いていった。
「夢……なの? さっきのも、今のも」
この現実じみた夢、もしくは夢みたいな現実から、目を背けたくてたまらない。恐怖に取り憑かれたせいか、ネクタイは乱雑に外して、床へ叩きつけてしまった。
捻れた世界の中、自分の目を閉じて「覚めろ…夢から覚めろ!」と狂人のように祈りを捧げた。しかし、先ほど感じた夢から覚める感覚はまだやってこない。その現状に痺れを切らし、再び目を見開いた。
「諦めた方がいいんじゃないか? 夢は現実になってしまったんだから」
鏡には、よく見知った青年が映っていた。木蔭色の髪に、トパーズを閉じ込めたような瞳、それと自分が今着ている制服と同じものを纏った男の人。あの夢の中から、抜け出してきたのだろうか。嫌な予想が頭を巡った。
ごぷりと鏡面が揺らめいたかと思えば、向こうの世界からあの人の手が伸びてくる。その手はフローリングに落ちたネクタイを拾い上げ、しわの寄ったそれを直し始めた。
「…駄目じゃないか。制服をこんな粗末に扱うだなんて」
金属のように冷えた視線が突き刺さる。ナイフで心臓を撫でられているような感覚に陥ったせいで、自分の身体は身動き一つ取れないでいた。
「結び直してやるから、こっちにおいで。監督生なら、わかってくれるだろ?」
口角をぐにゃりと歪ませて、優しさを演出するかのように彼は微笑む。それはよく見知った、食えない男らしい表情だった。
「さあ、この手を取るんだ」
抵抗する間もなく、半ば強制的に鏡の中へ引き込まれてゆく。バランスを崩しそうになり彼の胸へ倒れ込むと、少し甘い香りがした。それは、今感じている恐怖とは裏返しの、懐かしさという感情を抱かせた。
そのせいだろうか。
「ずっと、お前と再会することを夢見ていたんだ」
という言葉に頷いてしまったのは。
「鏡面に落ちる」