揺らぐことのない太陽へ/フロイド夢
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最初こそ、どうせ気分屋な彼のことだ、入学前にでも忘れてしまうだろうと思っていた。でも、別れの時には「待っててね」なんて言ってきたものだから、期待は意に反して膨れ上がっていった。
その後、彼は陸の学校へ。私は変わらず海の中で、彼と陸への密かな期待を抱いている。何度か葉書やレターが届くこともあったが、陸で過ごす彼の近況が楽しそうに綴られていたのを覚えている。
彼の気ままな筆跡を目で辿るたび、陸への憧れは増していった。昔々、赤髪の人魚が抱いていたのはこんな心地だったのかと、御伽噺と自分を重ねる日があったように。
しかし、こんなにも愉快で忙しない生活の中、あの日のやりとりは忘れられているに違いない、とも思った。どうせ、子供の口約束なんて早々に薄れていくものだとは前から理解していた。けれども、一度抱いた期待と憧憬はすぐには消えてくれないものだ。この淡い感情たちを、私は仕舞い込んでおくことしかできなかった。
そして、厚く張った氷が溶け始めるはずの季節にて。今回も届いた手紙へ返信するため、私はインクを紙面に滑らせていた。こちらの近況は程々に、何か面白いことはあったのか、などなど聞きたいことを山程綴っていく。だが、
「今度のホリデーは会いに来てくれる?」
というフレーズは、迷ったのちに書くのをやめた。というのも、彼が陸へ行ってから一年が過ぎたが、いつもホリデーの時には、なんだかんだで海にいる私に毎度会いに来てくれていた。しかし、今年の寒波は中々引き揚げる様子がなく、例年よりも氷が融けるのが遅くなっていた。そのため、春でも薄氷の張ったこの時期に来てほしいと催促するのは自分でも図々しいかと、筆をひとまず置いた。
「……早く融けますように」
冷たい水温の海中に、言葉の泡が浮かんで消えていった。
その後、彼は陸の学校へ。私は変わらず海の中で、彼と陸への密かな期待を抱いている。何度か葉書やレターが届くこともあったが、陸で過ごす彼の近況が楽しそうに綴られていたのを覚えている。
彼の気ままな筆跡を目で辿るたび、陸への憧れは増していった。昔々、赤髪の人魚が抱いていたのはこんな心地だったのかと、御伽噺と自分を重ねる日があったように。
しかし、こんなにも愉快で忙しない生活の中、あの日のやりとりは忘れられているに違いない、とも思った。どうせ、子供の口約束なんて早々に薄れていくものだとは前から理解していた。けれども、一度抱いた期待と憧憬はすぐには消えてくれないものだ。この淡い感情たちを、私は仕舞い込んでおくことしかできなかった。
そして、厚く張った氷が溶け始めるはずの季節にて。今回も届いた手紙へ返信するため、私はインクを紙面に滑らせていた。こちらの近況は程々に、何か面白いことはあったのか、などなど聞きたいことを山程綴っていく。だが、
「今度のホリデーは会いに来てくれる?」
というフレーズは、迷ったのちに書くのをやめた。というのも、彼が陸へ行ってから一年が過ぎたが、いつもホリデーの時には、なんだかんだで海にいる私に毎度会いに来てくれていた。しかし、今年の寒波は中々引き揚げる様子がなく、例年よりも氷が融けるのが遅くなっていた。そのため、春でも薄氷の張ったこの時期に来てほしいと催促するのは自分でも図々しいかと、筆をひとまず置いた。
「……早く融けますように」
冷たい水温の海中に、言葉の泡が浮かんで消えていった。