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しっぽや(No.70~84)

俺の動揺には気づかず、ひろせは笑顔を見せながら
「よかった、着替えるのに間に合ったみたいさ
 あの、これ、誕生日プレゼントなんです
 着てみてくれると嬉しいなって」
そう言ってTシャツを手渡してきた。
「ありがとう」
そんなひろせの健気な気遣いが嬉しくて、俺は感動してしまう。
「ちょっと、子供っぽいデザインかな」
ひろせは悪戯っぽい顔で舌を出す。
「?青一色でシンプルだと思うけど?」
俺は貰ったシャツの背中側を何気なく見て、そのセリフの理由に気が付いた。
前面は柄が無くシンプルな青いTシャツだが、後ろには白抜きで猫の前足が描かれていたのだ。
しかも、しっかりとシャツにしがみついている感じで描かれている。
「可愛い!」
思わず俺が叫ぶと、ひろせはエヘヘッと嬉しそうに笑った。

早速、新しいシャツに袖を通してみる。
「似合う?」
そう聞いてみると
「はい!でも本当は、僕がいつもこうやってタケシにしがみついていたい」
ひろせは、そっと手を添えてきた。
俺はそんなひろせを抱きしめる。
「俺の心にはいつだってひろせがいるから」
安心させるように囁くと
「僕の心にも、いつもタケシがいます」
ひろせは幸せそうに、俺の胸に顔を埋めた。

シャワーの後に、お手製のフルーツゼリーを堪能する。
よく冷えたゼリーが、火照った体に気持ちいい。
「今日は、土鍋で鯛飯を炊いてみたんです
 丁度、手頃な大きさの鯛が売ってました
 タケシの誕生日、おめでたいですからね
 食べる前に少しだけ温め直しますよ
 後は野菜たっぷり鯛のカルパッチョ、ピーマンとしいたけの肉詰め、ササミと冬瓜のスープを作りました」
「やったー、ひろせの作る肉詰め大好き」
思わずはしゃぐ俺を、ひろせは嬉しそうに見つめてくれる。
「ケーキは、フルーツタルトです」
「すごい!レストランみたい!」
こんなに素敵な誕生日ってあったかな、と俺は幸せに包まれた。
そんな俺の思いを感じ、ひろせもまた幸せそうに微笑むのであった。

まだ夕方であったが、俺達は早めの夕飯を食べることにした。
俺も少し手伝って、あっという間にテーブルの上が豪華になる。
ご飯と一緒に土鍋に丸ごと入っている鯛をひろせがほぐしてくれるのを見て、俺のテンションは上がりっぱなしだった。
「一応、食べるときに骨が残っていないか確認してくださいね
 鯛の骨は固いですから
 それで、これはオマケです」
鯛のお腹が不自然に膨らんでると思ったら、ひろせは中からゆで卵を取り出した。
「固茹でになってしましましたが、鯛の出汁がしみてますよ
 明日の朝は残りのご飯に出汁をかけて、鯛茶漬けにしましょう」
俺のために朝から頑張って料理を作ってくれたひろせに、愛しい想いが増していく。
「最高の誕生日だよ」
俺の言葉に、ひろせは誇らかな笑顔を見せた。

ひろせの料理はどれも美味しかった。
「ひろせと暮らしたら、俺、幸せ太りしそう
 でも、早く一緒に暮らしたい」
食後にアイスミルクティーとフルーツタルトを食べながら、俺は幸せな思いでそう言葉を口にする。
「極端に太らないよう、メニューに気を付けます
 タケシが健康でいられる物を作らなきゃ
 でも、記念日は豪華にしないとね」
ひろせは悪戯っぽく微笑んだ。

デザートを食べ終わり暫くすると
「僕も、シャワーを浴びてこようかな」
ひろせが頬を染めて立ち上がる。
「あ、うん、サッパリしてきなよ」
俺は何気ない風を装って、ひろせを送り出した。
また、緊張で気分が高まっていく。
見るともなしに付けていたテレビのチャンネルを色々変えてみるが、内容は全く頭に入ってこなかった。

シャワーから戻ってきたひろせは
「これ、タケシとお揃いなんです」
Tシャツを指さしてエヘヘッと笑う。
シンプルなグレーのTシャツなのに何だろうと思っていると、ひろせはクルリと後ろを向いた。
フワリと柔らかで長い髪が揺れる。
Tシャツの後ろには俺の物と同じ、しがみつく猫の前足のイラストが黒で描かれていた。
「可愛い、そっちは黒猫なんだ!」
ひろせは俺の隣に座り
「お揃いって、何だか良いですよね」
頭をコツンと俺の肩にのせた。
俺はひろせの肩を抱き、その体をもっと密着させてみる。
ひろせからドキドキとした嬉しさが伝わってきて、彼に対する想いが抑えきれなくなってきた。
「ひろせ、愛してる」
そう言って唇を合わせると、彼もそれに応えてくれた。
俺達はいつもより深く、濃厚に唇を合わせあった。
思い切って舌を入れようとすると、ひろせはすぐに受け入れてくれる。
舌を絡ませあう大人の深い口付けに、俺は頭がクラクラしてきた。

「して、良い…?」
囁く俺を見るひろせの上気した顔は、とても美しかった。
彼はうっとりとしながら頷いてくれた。


俺達はベッドに移動する。
今までにもひろせを抱いて寝たことは何度もあった。
けれどもそれは、飼い猫と一緒に寝る、という行為の延長線上にあるものだ。
今日は、恋人と共に過ごす初めての夜である。
ひろせが嫌な思いをしないよう、俺は注意しながら彼に触れていく。

Tシャツを脱がせると、白磁器のような滑らかな肌があらわれた。
俺は頬から喉元を辿り、鎖骨、胸へと唇を移動させていった。
「あ…、タケ…シ…」
ひろせが甘い吐息と共に、俺の名前を囁いてくれる。
胸の突起を舌で転がすと、ひろせの身体がビクリと跳ねて反応を返してくれた。
それだけで、俺も興奮してしまう。
俺の唇が触れている彼の肌が、一気に熱を帯びていった。
ひろせからは絶え間なく、俺に対する愛の想念が流れ込んでくる。
『愛してる』
俺もひろせに想いを伝えていた。

服の上からひろせ自身に指を這わせると、激しく反応しているのがわかった。
「タケシ…タケシ…」
ひろせは俺にしがみつきながら、腰を押しつけてくる。
俺は身につけていた物を脱ぐと、同じようにひろせの服も全て脱がせていった。
熱くなったひろせ自身に直に指を絡ませ刺激する。
「ひっ…」
彼は白い喉を仰け反らせ、長い髪を波打たせた。
それは感動すら覚える美しい光景で、俺も彼と一つになりたいという欲望を抑えることが出来なくなってきた。

俺はひろせの足を抱え上げ、あらわになった箇所に自身をゆっくりと進めていった。
「ああ…、あ…ん…」
俺に貫かれたひろせの吐息が、いっそう甘くなる。
動き出す俺の腰に併せ、彼も妖しく腰を蠢かせた。
初めての刺激に、頭が真っ白になる。
俺はすぐにひろせの中に欲望を解放してしまう。
しかしそれは、彼も同じであった。
俺達はまだ繋がったまま見つめ合い、唇を合わせた。

「飼い主に契ってもらえるなんて、感動です
 僕のような物の怪と…」
ひろせは涙を浮かべた目で俺を見た。
「ごめん、俺、初めてで…
 その、大丈夫?体とか…」
間抜けな問いかけをする俺に、ひろせは艶やかな笑みを浮かべ
「気持ち良かったです」
そう言って俺の肩を引き寄せ、キスをねだった。
俺達はまた、むさぼるように相手の唇を求めだす。
「ん…ふっ…」
合わせた唇の間から甘い吐息が漏れ、イヤらしく湿った音が室内に響いていった。

俺の腹に当たっているひろせ自身が、再び欲望で満たされていく。
俺を離すまいときつく締め上げてくるひろせに、俺自身の欲望もとっくに回復していた。
俺達はまた、繋がったまま妖しく動き出す。
胸の中では、お互いに対する愛が溢れかえっていた。

俺達はその後も、欲望の限り何度も繋がり合った。
汗を流すために一緒に入ったシャワールームでも、さらに繋がり合ってしまう。
やっと落ち着いて共にベッドに入ったときには、真夜中を過ぎていた。


「最高の誕生日だったよ」
俺は腕の中のひろせに語りかけ、髪を優しく撫でた。
「僕にとっても大切な記念日になりました」
ひろせは甘えるように頬を胸にすり寄せてくる。
「今日も仕事だろ?大丈夫?ごめん、ちょっと夢中になりすぎちゃった」
「タケシが僕に夢中になってくれたなんて、誇らしいです」
ひろせは嬉しそうにウフフッと笑う。
「僕は依頼がなければ控え室で寝てられるから
 タケシこそ、学校があるのに大丈夫ですか?」
「俺も、休み時間とかに寝てられるからね
 あー、授業中も、ちょっと」
俺はヘヘッと笑って舌を出した。

「夏休みに、タケシが泊まりに来てくれるのが楽しみです」
「うん、俺も凄く楽しみ」
「まだ先の話ですが、タケシと一緒に暮らせるのも楽しみでしかたありません」
「俺だって!大学行くようになったら、一緒に住みたいくらいだよ
 って、まずは大学に受からなきゃ、だけどさ」
俺達は顔を見合わせて笑いあった。

俺は楽しい未来を思い描きながら、愛しい恋人と共に居られる幸せを噛みしめる。
15歳だった時より大人になれているのかは、まだわからない。
でも、ひろせと一緒なら俺は頑張っていけると確信した。
もっともっと大人になって、ひろせに楽しい思い出を与えてやりたかった。
ナガトのように、ひろせにもいつも幸せな顔をしていた欲しかった。
ずっと、俺の隣に居て欲しかった。


いつの間にか俺の腕の中で安らかな寝息を立て始めたひろせの髪を、もう一度優しく撫でてみる。
昨日より今日、今日より明日、ゆっくりでも確実に大人になっていこう。

恋人にそう誓うと、俺もひろせのいる夢の時間に落ちていくのであった。
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