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しっぽや(No.198~224)

面白くなってきた俺は、さっきより真剣に石を物色し始めた。
透明なものが良い、と思っていたが不透明なその石を見たとき、あまりにも神秘的な色合いで一目で気に入ってしまった。
「これすごいキレイ、青に金の模様が入ってて何か地球みたい!」
俺が見つめる石を見て、ミイちゃんは感心したような顔になった。
「それはラピスラズリ、とても古くからお守りとして珍重されてきた石よ
 邪気を払い幸運を引き寄せると言われているわ
 直感力や創造力を高めるとか、水晶に負けないくらい万能ね
 深い濃青色か、黄鉄鉱がバランスよく入っているものは価値が高く高値なの
 私が用意できたのはそこまでの物ではないけれど、気に入ってもらえたならきっと日野と相性が良いのね
 装飾品ではなくお守りとして作るのだから、相性の方が大事だわ」
ミイちゃんにそう言ってもらえると、本当に特別な石に感じられた。

「それではこのラピスとフローライト、それに水晶で組みましょう
 フローライトの色が多いから、これ以上種類を混ぜない方が良さそう
 手にとって気になる石をこちらに置いてください
 深く考えずキレイだと思った石で大丈夫ですよ」
ミイちゃんにケースを渡され、俺は石を手に出してみる。
夏なのにヒンヤリと冷たくて、なめらかな触り心地が気持ちよかった。
『値段高そうだしあまり多くない方がいいのかな』
ドキドキしながら、触っていて特に気持ちいいなと思った石を選んで布の上に置いていく。
少し大きめのラピス3個、色を織り交ぜて中くらいのフローライトを15個選んだ。
「繋ぎの水晶は私が選んでいいかしら?」
ミイちゃんに問われ、俺はコクコクと頷いた。
石を小さなビニール袋にまとめてメモもその中に入れる。
「出来上がったら波久礼にお使いを頼むわ」
未来の自分への贈り物が入った袋の存在が、とても嬉しかった。


一段落ついたタイミングを見計らったように、荒木と白久が母屋に来たと陸が呼びに来た。
時計を見るといつの間にか11時を回っている。
「これ、ブランチって言うか普通にランチの時間だよね」
俺は苦笑して、明日はこうならないようちゃんと起きようと思った。


「荒木、おそよう」
大広間にいる荒木に笑って声をかける。
「日野、遅くなってごめん、疲れて超爆睡してた」
荒木は申し訳ないやら恥ずかしいやら、と言った風情で頭をかいていた。
少し掠れた声と、この暑いのにシャツの1番上のボタンをはめているところが、全てを物語っているようだった。
「今日のブランチはピザトーストって料理番が言ってたけど、もう普通にランチにした方が早そうじゃん」
俺の言葉に応えるように
「そう思って、ランチ用にボリュームアップしといたぜ」
「日野の情報のおかげで事前に準備できたんだ」
料理番が大皿にピザトーストを山のように乗せて持ってきた。
「暑いし、焼きたてじゃなくてもいけるだろうって思って、大量に焼いといたぜ
 チキンサラダと根菜のサラダもあるから」
「それとこれ、薄切り食パンにハムとチーズを挟んで端をフォークでつぶして留めて揚げてみた
 今回の新作!ホットサンドとは、また違った感じになってると思うぜ」
早く食べたくてしょうがない武衆の犬達が配膳を手伝っていたので、あっという間にテーブルの上は美味しそうな料理で満たされた。

「はい日野ご所望のマヨコーンピザトースト、他にツナマヨも作ってみたよ」
「荒木、寝起きにピザは重かったか?茹でればソーメンや冷や麦もあるからな」
料理番達は他の武衆の犬に比べて細やかだ。
これは飼い主の『おもてなし』を見ていたからだろう。
俺と荒木という人間をもてなしたくてしかたがない、そんな健気な思いに胸打たれるのだった。


大満足のランチを終えて、俺たちはデザートにスイカと桃を堪能しながら今日の予定を話し合っていた。
「遅くなっちゃったけど、今日も川に遊びに行ってみる?
 明るいうちに山か庭の散策とか、でもこの時間は暑いか」
庭に視線を巡らせる荒木に
「それも楽しそうだけど、俺、ミイちゃんと天然石ブレスの打ち合わせしたいんだ
 まだ黒谷用の石を選んでないから
 良かったら荒木も白久の分と一緒に選んでみない?」
俺はそう誘ってみる。
「でも俺、石のこととか知らないしな
 意味とか組み合わせとかあるんだろ?」
荒木は興味深そうにしつつも躊躇していた。

「そーゆーの深く考えないで、気に入った石を選ぶだけで良いんだって
 相性の方が大切って言ってたぜ
 俺より荒木の方がデザインセンスあるから、色的にも良いの選べるんじゃない?
 俺、そっちはさっぱりだから」
肩を竦めてみせると
「でもお前、前にストラップ作ってたじゃん
 あれシンプルだけど、格好良い出来だった」
荒木は少し拗ねた顔になる。
「あれは余った石を直線に繋げただけで、デザインも何もあったもんじゃなかったろ」
俺は慌てて訂正するが、荒木に褒められたことが嬉しかった。



結局俺たちはミイちゃんと過ごすことにした。
「また、石を買い足しておくわ
 次は違う石が2人の気に入る物になるかもしれないし」
と言うミイちゃんの言葉を貰ってばかりで申し訳なく思ったが
「ナリが天然石の良いお店を知っているのよ、また連れて行ってもらいましょう
 側にあるパンケーキのお店が美味しいの!柔らかくトロケて、あっという間に口の中から無くなってしまうのよ
 喫茶店のイタリア栗のモンブランは、山で穫れる栗とは違った美味しさだったわね
 甘味処のクリーム白玉あずきや、フワフワのかき氷も美味しかったわ
 ナリは素敵なお店を選ぶプロね
 ふかやは良い方に飼っていただけたわ」
どうも彼女は天然石を買いに行くことを口実に、ナリと甘味巡りをしたいようだった。
『ミイちゃんを餌付け出来るって凄い』
俺はナリの能力に感心するのだった。


荒木がどんな石を選ぶか興味があり、黒谷の物を選びながら横目で見ていると
「やっぱ、こーゆー色合いが白久っぽくて惹かれるな」
そう言って乳白色の石を手にしていた。
「ミルキークォーツ、子を守りたい母性を感じさせる石よ
 白久を守りたいと思っているのね」
ミイちゃんの説明に荒木は照れていた。
「あと、この辺が可愛くて良いね」
荒木が示した先にはピンク、黄色、水色、緑と言った色とりどりの石がある。
どれも淡く白っぽい感じで、俺的には色んな味のミルクキャンディのようで美味しそうだった。
「日野と同じような物を選びましたね」
ミイちゃんはクスクス笑っているが、俺が選んだフローライトはもっとクリアなものだ。
不思議に思っていると
「これは全部同じ石、ベリルも色が豊富な石なんですよ」
ミイちゃんが教えてくれた。
「え?こんなに色合いが違うのに?」
「だって、ピンクと水色って全然系統違う色じゃん」
驚く俺たちに
「微量に含まれる元素の影響で様々な色になるんですって
 これも、ナリの受け売り」
ミイちゃんは悪戯っぽく笑ってみせた。

「自分で石を選びますか?」
俺には聞かなかったことを彼女は荒木に問いかけた。
俺は自分で選ぶこと前提だったのだろう。
荒木は慌てて頭を降り
「俺、良いの選べる自信ないから、ミイちゃんが選んで
 白久のも選んでくれると嬉しい」
自信なさそうにそう答えていた。
ミイちゃんは荒木と白久のためにミルキークォーツと何色かのベリルを選んで確認させる。
「間に入れる水晶は、後から選んでブレスの大きさの調整をします」
「よろしくお願いします」
荒木はホッとした顔で頭を下げていた。

その後、俺は黒谷のためにオニキスとタイガーアイ、ルチルを選んだ。
「これは日野のブレスよりも強いお守りになるわね
 黒谷、このブレスに負けない強さで飼い主を守りなさい」
ミイちゃんに凛とした声で言われ、黒谷は神妙な顔で頷いていた。


「とは言え、天然石はお守りとしては強力ではないのよ
 きれいな物を身につけると楽しくなるし、その装飾品に意味が伴えば余計に気分が上がります
 精神力が上がるので、いつもより悪しき物を寄せ付けない
 漫然と持っているだけでは、プラスチックのビーズで作られたブレスと大差ないとナリは言っていましたね
 願わくばこのブレスが皆の心を守る一助となりますように」
ミイちゃんの言葉に、俺たちは背筋を伸ばして
「大事にします」
そう答えるのだった。



その後は荒木達と部屋を交換するため、荷物を離れに運んだ。
「夏だから乾燥機使わなくても洗濯物が直ぐに乾いて良いね」
荒木は自分と白久の服を鞄に入れ、ベッドに洗濯済みのシーツを敷いてくれた。
俺は持ってきた鞄をベッドの上に置き
「母屋の部屋に案内するよ」
そう言って先に立って歩き出した。
「俺たちは明日の朝食に間に合う時間に顔を出すつもり
 俺の分の朝飯、残しとけよ」
俺の言葉に
「マジか、タフだなお前ら
 と言うか、食欲のなせる技か」
荒木は驚きと呆れが混ざった顔で、マジマジと俺と黒谷を見ていた。


夕方になると暑い中に涼しさが感じられる風が吹いてきた。
俺たちは生け簀を見たり雑木林を散策し、自然を味わった。
それから最高の夕飯を味わい、温泉で汗を流す。
離れに帰りついたのは9時前という早い時間だった。

「12時に寝れば6時に起きても6時間寝れる
 今から頑張っちゃお」
俺は部屋にエアコンを効かせ、黒谷に抱きついた。
「寝るのは今から3時間後ですね、延びてしまったらすいません
 ずっと我慢していたので3時間で満足できる自信がなくて」
黒谷は性急に俺の唇を貪ってくる。
「俺も」
腰を黒谷にすり付けて、お互いの反応を確認しあいながら彼の唇を受け入れた。

触れられる距離に居たのに触れられなかった時間が長かったため、興奮し過ぎた俺たちは何度も歓喜の波に飲まれていく。
最後に想いを放ち気怠く視線を向けた先の時計の針は、2時を回っていた。


高くなった太陽に起こされた俺たちは、時計を確認して飛び起きた。
「アラームかけ忘れるとか、痛恨のミス!」

辛うじて身支度を整え母屋の大広間に滑り込み、俺と黒谷はギリギリで朝食にありつけたのであった。
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