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◆しっぽやプチ話◆

side<ARAKI>

昼休みの教室内で数人の友達と話をしていた俺に
「荒木、中川先生が呼んでるぞ」
そんな声がかけられた。
見ると、教室のドアの所に中川先生が立っている。
「荒木、何かやったの?」
その場にいる皆の目が俺に注目しているのを感じ
「いや、思い当たることはないけど…」
俺は弱気な返事を返す。
「こないだの小テストのことじゃね?」
「志望校無理だ、とか言う話だったりして?」
「担任じゃないのに?
 でも今から無理って言われたら、ちょっとキツいっしょ」
「やべー、次は俺が呼ばれたりして」
皆、口々に憶測を並び立てていた。
チラリと日野に視線を向けるが首を傾げているので、化生関係の事でも無さそうだ。
「ちょっと行ってくる」
俺は覚悟を決めて、先生に近付いていった。

「ごめんな、わざわざ呼び出して
 ちょっと、気になった事があってな」
先生は申し訳なさそうな顔で謝ってくる。
「こないだの小テスト、俺、そんなに酷い点数でしたか?
 もしかして、回答欄間違えるとか、凡ミス?」
俺はドキドキしながら聞いてみた。
「え?いや、野上は平均点だったよ
 そうじゃなくて、その、野上が今飼ってる猫のことを教えて欲しくて」
先生の言葉に、俺はビックリしてしまう。
「カシスのこと?
 雑種の黒猫で、毛は長め、瞳はカッパーアイって言うんだっけ?赤銅色って感じ
 羽生みたいにキレイな金じゃないけど、愛嬌あって可愛いんだ
 あ、写真見ます?でも黒猫だから、微妙なのが多くて
 黒猫って、本当、写真撮るの難しいんですよ」
成績に関係なさそうな話なので、俺は安心して猫バカ全開になった。

「いや、そーゆー事じゃなくてだな、その、ゲンさんに『すごい来歴の猫だ』って聞いたもんだから」
「ああ、波久礼が保護したってことかな?
 子猫だったカシス、紙袋に入れられて生け垣の奥に捨てられてたんだって、酷くないですか?
 波久礼が気が付かなかったら、確実に死んでましたよ」
俺は息も荒く説明する。
「それは、酷いな」
先生も顔をしかめた。
「あ、ただ、波久礼は化生だったからカシスに呼ばれたみたいなんです
 俺の家に届けるよう、お使い頼まれたって感じかな?
 化生なら、俺のこと知ってるってわかってたんでしょうね」
「子猫が、化生を知っていたのか?」
俺の言葉に先生は訝しげな顔をする。

「俺自身も微妙だと思うんですけど、カシスの魂って、以前に飼ってた猫の『クロスケ』とクッツいてるんだって
 『融合』とか黒谷は言ってたな
 クロスケは白久と想念交わしたことあるから、俺の側に化生がいること知ってたんです
 クロスケって、すっごく俺の親父に執着してたから、生まれ変わるまで待てなかったみたいでさ
 すぐに帰ってくるために、魂が子猫の体に入り込んだんだって
 でも、クロスケが死んだときカシスはまだ母猫のお腹の中にいて
 って、俺もよくわかってないんですけどね
 まあ、カシス見てると親父への執着がクロスケみたいだから、納得できるけどさ」
俺の曖昧な説明に
「そこまで、猫は人に執着するのか
 羽生も、俺に執着してくれて…あんな飼い方しか出来なかったのに…」
中川先生は神妙な顔になった。
それで俺はピンとくる。
「先生、羽生と何かあった?
 あいつこの頃、キラキラがパワーアップした大人の顔になったし、背も伸びてた!
 俺だって今年の健診で去年より身長1cm伸びてたのに、また引き離されたよ!
 どうやって身長伸ばしたの?
 先生、羽生に何食べさせてる?やっぱ、カルシウム?」
今度は逆に、俺が先生を問いただした。

「え?ミルク好きだから、低温殺菌牛乳をよく飲んでるが、身長と関係あるのかな」
先生は首を捻った後
「ありがとう、参考になった」
そう言って爽やかな笑顔を見せた。
「羽生のこと、可愛がってやってね」
俺が笑いながら言うと
「野上も、白久のこと大事にしてやれよ」
そんな返事を返し、先生は去っていった。

席に戻ると、皆が興味津々の顔で俺を見つめてきた。
「俺ん家の猫のこと聞きたかったんだって、猫でも飼うのかな」
何でもないことのように答えると
「何だ、猫か」
「あれじゃん、古文の田中先生が猫飼い始めて誰彼かまわず自慢してるから、羨ましくなったとか」
「田中先生、猫日記だから、とか言って急に授業内容に寛平御記(かんぴょうぎょき)入れるの勘弁してくれっての」
「受験に関係あんの?」
皆の興味は俺から逸れていった。
「でもあれ、日本最古の猫バカエッセイだぜ
 やっぱ、黒猫ってのは人を魅了するんだ」
「はいはい、荒木も立派な猫バカだ」
呆れ顔の友達を見ながら
『でも、俺が飼ってるのは超格好いい白犬だけどね』
俺は心の中でほくそ笑んだ。

意味ありげな顔で笑いかけてくる日野に、俺も二ヤッと笑い
「今日もバイト頑張るか!」
そう言って愛しい飼い犬の笑顔を思い浮かべるのであった。
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