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◆しっぽやプチ話◆

side〈HANYUU〉

コンコン

ノックしてしっぽや事務所のドアを開けると、黒谷と白久の姿が目に入った。
「お帰り羽生、依頼のあった子猫、発見できましたか?」
声をかけてくる白久に
「うん!飼い主がすぐに依頼しに来てくれたから
 逃げてから時間が経つと、子猫は虫とか追いかけてどんどん移動しちゃうんだ
 もう、飼い主のとこに返してきた」
俺は得意げに返事をする。
最近の俺は、子猫専門の所員として活躍しているという自負が出てきていた。
「捜索時間、短くなってきてるね
 優秀、優秀」
黒谷に誉められて、俺はさらに得意な気分になった。

「羽生、書類作成は後で良いから、お昼を食べておいで
 私が電話番をしてますので、クロも先にどうぞ」
白久がそう言ってくれたので俺はその言葉に甘えることにして、黒谷と一緒に所員控え室に移動する。
控え室の冷蔵庫に入れてあるお弁当を取り出すと、レンジで暖め直した。
「黒谷もレンジ使う?」
俺が聞くと
「僕はトースターで暖めるから大丈夫だよ」
黒谷はビニール袋を掲げてみせた。
「昨日、日野がお勧めパン詰め合わせを買ってきてくれたんだ」
黒谷は幸せそうな顔で、総菜パンをトースターに入れている。
「新発売のスープも付けてくれてね
 羽生も飲んでみるかい?これ、3袋入ってるから」
「うん、飲んでみたい」
俺が答えると、黒谷はマグカップに粉末スープを入れ、お湯を注いでくれた。
暖め終わったお弁当とスープをテーブルに置き
「いただきます」
俺達は、お昼ご飯を食べ始めた。

黒谷が俺のお弁当箱をのぞき込んで
「美味しそうだね、ずいぶん上手になったもんだ
 中川先生にも同じ物を作ってあげたのかい?」
そう、聞いてきた。
「うん、サトシ用はもっと大きいお弁当箱なの
 お昼ご飯いっぱい食べて、午後も頑張って欲しいから」
俺は少し誇らしい気持ちでそう答えた。
「今日のウインナーと卵焼きは美味しそうに焼けたんだ
 おにぎりの具は長瀞特性のフリカケにして、楽しちゃった
 煮物は昨日作ったから、味が染みてるんだよ
 こっちのタッパーは、キュウリとキャベツの浅漬け
 みんな、長瀞に教わったの」
エヘヘッと笑いながら説明すると
「たいしたもんだよ、中川先生も助かっているね」
黒谷は微笑んで誉めてくれた。
「サトシ、いつも残さず食べてくれるんだ
 それで『羽生は凄いね、今日のも美味しかったよ』って言ってくれるの」
俺は誉めてくれるサトシを思い出して、幸せな気分になった。

「飼い主のお役に立てるのは、嬉しいものだろう」
優しい顔で俺を見る黒谷に
「うん!嬉しい!黒谷も嬉しい?」
そう聞いてみる。
「ああ、嬉しいよ
 それに日野は、いつも僕のことを気にかけてくれてね
 何かと理由をつけて、会いに来てくれるんだ
 今まで会えなかった時間を、埋めようとしてくれてるんだよ
 僕も、もっともっと、彼の役に立ちたい」
黒谷はパンを口にしながら幸せそうな顔になった。
「あの時、消滅しないで良かった…」
しみじみと呟く黒谷に
「俺は化生できて良かった
 もう一度、サトシに会えて良かった」
俺も、少ししみじみと言ってみた。

「僕達は、同じ方に2度、飼ってもらえている
 それはとても幸運で、幸せな事だと思うよ
 まあ、僕の場合はちょっと特殊だけどね」
黒谷の言葉に俺は大きく頷いた。
「波久礼の師匠にもそう言われた
 『羽生は運が良い』って
 師匠も早く飼い主と会えるといいんだけどさ」
ため息を付く俺に
「あいつは今、猫達と打ち解けられて幸せそうに見えるよ」
黒谷は悪戯っぽく笑いながらそう言った。

「でも、長瀞もゲンちゃんといると凄く幸せそう
 やっぱり皆、化生出来て良かったんだよ」
ヘヘッと笑って言ってみる。
「そうだね、シロも荒木といると凄く幸せそうだ
 シロにはなかなか飼い主が現れなかったから、ヤキモキさせられたよ
 化生せずに転生していれば、すぐに飼い主がみつかったんじゃないかと心配していたんだ
 けれど、ちゃんと素晴らしい飼い主と巡り会えた
 化生出来たのは、やはり幸運だったのだね」
黒谷はホッとした顔でスープを口にした。

そろそろ冷めてきたかと、俺もスープを口にする。
「美味しい!これ、俺も買ってサトシのお弁当に付けようかな
 職員室にポットがある、って言ってたし」
「そうだね、きっと喜ばれるよ
 僕も、もっと頻繁に日野にお弁当を作ってあげられたらな」
羨ましそうな顔の黒谷に
「日野がバイトに来る日に作ってくれば?」
俺はそう提案してみた。
「そうか、その手があったか!
 お菓子ばかり食べさせないで、きちんとした間食をとらせた方が健康にも良いもんね
 ありがとう羽生、後で日野にメールして聞いてみるよ」
黒谷の笑顔に、俺も嬉しい気持ちになった。

「よし、午後も頑張るよ!
 まずは、さっきの依頼の書類作成しちゃおうっと
 いっぱい働いて、サトシに美味しいもの食べさせるんだ」
後片付けを始めながら、俺は飼い主のいる誇らしさと嬉しさに胸が熱くなるのであった。
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