◆しっぽやプチ話◆
side〈MINANO〉
「皆野の煎れてくれるお茶は美味しいですね」
しっぽや事務所の所員控え室で、お茶を飲んだ長瀞がそう声をかけてきた。
「長瀞の煎れたお茶だって美味しいですよ」
私はそう答えながらも、料理上手の長瀞に誉められて悪い気はしなかった。
長瀞は生前年輩の女性に飼われていたので、同じく年輩の女性の『お母さん』があのお方の私とは気が合うのだ。
「緑茶は皆野の方が美味しいと思います
あのお方は『はいから』な方で紅茶をよくお飲みになっていたし、ゲンはコーヒーが好きだから、私は日本茶を煎れるのは今一で」
長瀞はそう言って苦笑する。
「お父さんに美味しく飲んでもらいたいと、あのお方は色々試していました
猫だった時は気にしたこともなかったけれど、鼻が覚えているようで
『あのお方の煎れるお茶と同じ匂い』を再現しようとしているだけですよ」
私が笑うと、長瀞は『なるほど』と頷いた。
「猫の時は、お茶よりもお茶請けのオヤツをご相伴できるのが楽しみでした
あのお方は出汁を取った後の煮干しや鰹節を、私たち用のオヤツにしてくれていたのです」
懐かしく思い出す私の言葉に
「オヤツ?」
長瀞が首を傾げる。
「正確な作り方はわかりませんが、乾煎り(からいり)してくれていたみたいですね
出汁を取った後でも、香ばしく、美味しいものでした
たまに真似をして作ってみますが、あのお方の作るものにはかないません
それとも、化生して味覚が変わったんでしょうかね」
私が首を捻ると
「今なら乾煎りより、ごま油で炒めた方がコクのある味になって美味しく感じるかもしれませんね」
長瀞がそんな事を言い出した。
「なるほど、それを醤油で味付けすればご飯にあいそうですね」
私が感心して答えると
「出汁を取った後の昆布を細切りにして加えても良さそうだし
オヤツ、というよりフリカケにする方が良いかも
ハンドミルで昆布や煮干しを粗挽きして出汁パックを作って、出汁取り後にフリカケにすればエコロジーですね」
長瀞はフムフムと考え込んだ。
そんな会話を交わした数日後、私は長瀞から小瓶を手渡された。
「この前言っていたフリカケを作ってみました
ゲンには好評だったので、皆野にも食べてみてもらいたくて
どうぞ」
そう言って、長瀞は笑顔を見せた。
そのフリカケはとても美味しくて、化生の間でご飯の友として親しまれるようになる。
「あのお方のアイデアが、形は違ってもこうやって受け継がれるのは嬉しいものですね」
夕飯時、ご飯にフリカケをかけながら私が言うと
「まったくだね、長瀞は凄いなー」
明戸が笑顔を見せた。
「長瀞って料理が上手いとことか、ちょっとお母さんに似てるよね」
少し遠い目をする明戸に
「ゲンは明るいところが、少しお父さんに似てますね」
私はそう言葉をかける。
「うん、あの2人を見ていると、あのお方達を思い出すよ」
「あの2人が幸せそうだと、幸せな気分になります」
私達は同じ事を考えて、何だかしみじみとした気持ちになった。
そんな空気を払うように
「これさ、豆腐にかけても美味いんじゃないかな?」
明戸が明るい声で言い出した。
「ジャガイモに混ぜて、コロッケにしても美味しいかもしれませんね」
私も思いついたことを口にしてみる。
「良いね、美味しそう!皆野、今度作ってよ
豆腐は今すぐチャレンジしてみるか!
明日の味噌汁用にと思ってた豆腐だけど、食べちゃうね」
明戸はそう言うと、冷蔵庫に豆腐を取りに行った。
『たとえ形は違っても、あのお方の想いを形にして残したい』
そう言って自伝を書いている明戸の気持ちがわかるような気がする。
私は長瀞に貰った小瓶にあのお方の面影を見出して、懐かしく暖かな気持ちになるのであった。
「皆野の煎れてくれるお茶は美味しいですね」
しっぽや事務所の所員控え室で、お茶を飲んだ長瀞がそう声をかけてきた。
「長瀞の煎れたお茶だって美味しいですよ」
私はそう答えながらも、料理上手の長瀞に誉められて悪い気はしなかった。
長瀞は生前年輩の女性に飼われていたので、同じく年輩の女性の『お母さん』があのお方の私とは気が合うのだ。
「緑茶は皆野の方が美味しいと思います
あのお方は『はいから』な方で紅茶をよくお飲みになっていたし、ゲンはコーヒーが好きだから、私は日本茶を煎れるのは今一で」
長瀞はそう言って苦笑する。
「お父さんに美味しく飲んでもらいたいと、あのお方は色々試していました
猫だった時は気にしたこともなかったけれど、鼻が覚えているようで
『あのお方の煎れるお茶と同じ匂い』を再現しようとしているだけですよ」
私が笑うと、長瀞は『なるほど』と頷いた。
「猫の時は、お茶よりもお茶請けのオヤツをご相伴できるのが楽しみでした
あのお方は出汁を取った後の煮干しや鰹節を、私たち用のオヤツにしてくれていたのです」
懐かしく思い出す私の言葉に
「オヤツ?」
長瀞が首を傾げる。
「正確な作り方はわかりませんが、乾煎り(からいり)してくれていたみたいですね
出汁を取った後でも、香ばしく、美味しいものでした
たまに真似をして作ってみますが、あのお方の作るものにはかないません
それとも、化生して味覚が変わったんでしょうかね」
私が首を捻ると
「今なら乾煎りより、ごま油で炒めた方がコクのある味になって美味しく感じるかもしれませんね」
長瀞がそんな事を言い出した。
「なるほど、それを醤油で味付けすればご飯にあいそうですね」
私が感心して答えると
「出汁を取った後の昆布を細切りにして加えても良さそうだし
オヤツ、というよりフリカケにする方が良いかも
ハンドミルで昆布や煮干しを粗挽きして出汁パックを作って、出汁取り後にフリカケにすればエコロジーですね」
長瀞はフムフムと考え込んだ。
そんな会話を交わした数日後、私は長瀞から小瓶を手渡された。
「この前言っていたフリカケを作ってみました
ゲンには好評だったので、皆野にも食べてみてもらいたくて
どうぞ」
そう言って、長瀞は笑顔を見せた。
そのフリカケはとても美味しくて、化生の間でご飯の友として親しまれるようになる。
「あのお方のアイデアが、形は違ってもこうやって受け継がれるのは嬉しいものですね」
夕飯時、ご飯にフリカケをかけながら私が言うと
「まったくだね、長瀞は凄いなー」
明戸が笑顔を見せた。
「長瀞って料理が上手いとことか、ちょっとお母さんに似てるよね」
少し遠い目をする明戸に
「ゲンは明るいところが、少しお父さんに似てますね」
私はそう言葉をかける。
「うん、あの2人を見ていると、あのお方達を思い出すよ」
「あの2人が幸せそうだと、幸せな気分になります」
私達は同じ事を考えて、何だかしみじみとした気持ちになった。
そんな空気を払うように
「これさ、豆腐にかけても美味いんじゃないかな?」
明戸が明るい声で言い出した。
「ジャガイモに混ぜて、コロッケにしても美味しいかもしれませんね」
私も思いついたことを口にしてみる。
「良いね、美味しそう!皆野、今度作ってよ
豆腐は今すぐチャレンジしてみるか!
明日の味噌汁用にと思ってた豆腐だけど、食べちゃうね」
明戸はそう言うと、冷蔵庫に豆腐を取りに行った。
『たとえ形は違っても、あのお方の想いを形にして残したい』
そう言って自伝を書いている明戸の気持ちがわかるような気がする。
私は長瀞に貰った小瓶にあのお方の面影を見出して、懐かしく暖かな気持ちになるのであった。