◆しっぽやプチ話◆
side<HANYUU>
今は夏休みだけど、サトシは学校に行っている。
去年の夏より忙しそうで、俺と2人でゆっくり出来る時間が減っていた。
それでも、いつもより早い時間に夕飯を食べられるし、その後2人で居られる時間も長い。
俺はそれだけでも十分嬉しかった。
「羽生のお手製ゴマだれ美味しいね」
「夏はソーメンだって言ってたから、白久に教えてもらったの
これ、荒木が好きなんだって
それに、ゴマは体に良いから」
サトシとしゃべりながら食べる夕飯は、いつも楽しかった。
「天ぷらは出来合いの物を買ってきて楽しちゃった」
俺は舌を出す。
「かまわないよ、暑い日に揚げ物作るの大変だろ?
空豆の入った掻き揚げなんて、夏っぽいよ
エビは大きいし、イカは柔らかいし、最近のスーパーの総菜はあなどれないな」
トースターで温め直した天ぷらを、美味しそうに食べてくれる。
サトシが誉めてくれるだけで、凄いご馳走を食べているような気分になった。
「羽生、来週は少しのんびり出来るんだ
それで田中先生が田舎に行くって言うから、その間、チャトランをうちで預かってあげて良いかい?
慣れないペットホテルより、羽生と一緒に遊んでる方が良いかと思ってさ
4日間だし、俺も一緒に面倒みるから」
サトシの言葉は嬉しいものだった。
『チャトラン』は、以前1晩だけ家で預かった子猫なのだ。
そのとき俺はその子のことを『ちーちー』と呼んでいた。
「ちーちーが来るの?俺、遊んであげるよ!
サトシも居てくれるなんて最高!
俺、しっぽやの休みもらうから
お盆に黒谷が休むから、今のうちに皆で順番に休みを取って良いって言われてるんだ」
こうして、俺は初めて夏休みらしい夏休みを取ることになったのであった。
『パ~パ~、マ~マ~、ね~ね~、どこ行ったの~』
サトシが部屋に帰ってくる前から、パニクっているちーちーの鳴き声と想念がマンションの廊下に響き渡っていた。
今日はサトシがちーちーを迎えに行ったのだ。
時々知り合いの猫を預かっている長瀞からケージやトイレを借りてきてあるので迎え入れる準備は万端であったが、肝心のちーちーは何の説明も受けていないようであった。
『もう、影森マンションのことも俺のことも忘れちゃったかな』
ちーちーを預かっていたのはかなり前のことであったので、無理もなかった。
「ただいま羽生、電車の中では固まってたんだけど駅に着いたら泣き出しちゃって」
やっと部屋に到着したサトシは、困った顔を見せる。
「ちょっと話してみるね、暫く2人にしてもらって良い?」
俺はキャリーを受け取って、聞いてみた。
「ありがとう、助かるよ」
サトシはそ言ってキスをしてくれた。
教室として使っているホワイトボードが置いてある部屋のソファーに座り、足下にキャリーを置く。
ちーちーはまだ大きな声で泣いていた。
『ちーちー、久しぶり、元気だったか?にーにーのこと忘れちゃった?』
俺の送る想念に泣き声が少し弱まった。
『ちーちー、にーにーだよ』
もう1度話しかけると
『ちーちー?ぼくチャーちゃんだよ
チャーちゃんのとこには、パパとママとねーねーしかいないよ
にー?…誰?』
不思議そうな気配が返ってくる。
俺はキャリーの扉を開けてやり
「そうか、今は『チャーちゃん』なんだね
大事にしてもらってるんだ
怖くないからおいで、仲良くしよう、一緒に遊ぼうよ」
そう、声に出して話しかけてみた。
チャーちゃんは暫くキャリーの中で固まっていたようだが、少しずつ姿を現した。
姿勢を低くして、おっかなびっくり歩いている。
家にいた時は片手で持てる大きさだったのに、今では随分成長していた。
ぼんやりしていた体の縞も、キレイな模様を描いている。
「チャーちゃん」
俺が呼びかけるとオドオドとした瞳で見上げてきた。
「にーにーだよ」
そう言って手を差し出すと、警戒しながらも近寄ってきて匂いを嗅いでいた。
「にぃにー?にーにー?」
何か思い出したのか、チャーちゃんは俺の手に頭をすり付け始めた。
俺はその小さな頭を撫でてやる。
「暫く、家で俺と遊ぼうな
でも、寝室は立ち入り禁止」
笑いながら話しかけると、チャーちゃんはキョトントした顔で俺を見上げた。
チャーちゃんがサトシに慣れてくれるまで少し時間がかかったが、ヒモや猫じゃらしで遊んでやるとすぐに慣れてくれた。
『チャーちゃんね、パパもママもねーねーも大好き
ハニュとサトチも好き』
ハシャギ疲れて俺の腕の中で微睡みながら、チャーちゃんは幸せそうに呟いていた。
俺以外にサトシに救われた命があると思うと嬉しくなる。
「俺たち、本当に兄弟みたいだな」
チャーちゃんの頭を撫でながら
「サトシ、助けてくれてありがとう」
俺はソファーの隣に座るサトシに頭を預けた。
サトシは優しく髪を撫でて
「羽生、帰ってきてくれてありがとう」
そう言ってくれた。
去年は色々なことを覚えるのに必死で感じたことが無かったが
「夏休みって、楽しいね」
俺はチャーちゃんに引きずられて眠りの淵に落ちながら、笑ってそう呟いた。
「ああ、明日も皆で遊ぼうな」
優しく答えてくれるサトシの鼓動とぬくもりを感じ、俺はしばしの眠りにつくのであった。
今は夏休みだけど、サトシは学校に行っている。
去年の夏より忙しそうで、俺と2人でゆっくり出来る時間が減っていた。
それでも、いつもより早い時間に夕飯を食べられるし、その後2人で居られる時間も長い。
俺はそれだけでも十分嬉しかった。
「羽生のお手製ゴマだれ美味しいね」
「夏はソーメンだって言ってたから、白久に教えてもらったの
これ、荒木が好きなんだって
それに、ゴマは体に良いから」
サトシとしゃべりながら食べる夕飯は、いつも楽しかった。
「天ぷらは出来合いの物を買ってきて楽しちゃった」
俺は舌を出す。
「かまわないよ、暑い日に揚げ物作るの大変だろ?
空豆の入った掻き揚げなんて、夏っぽいよ
エビは大きいし、イカは柔らかいし、最近のスーパーの総菜はあなどれないな」
トースターで温め直した天ぷらを、美味しそうに食べてくれる。
サトシが誉めてくれるだけで、凄いご馳走を食べているような気分になった。
「羽生、来週は少しのんびり出来るんだ
それで田中先生が田舎に行くって言うから、その間、チャトランをうちで預かってあげて良いかい?
慣れないペットホテルより、羽生と一緒に遊んでる方が良いかと思ってさ
4日間だし、俺も一緒に面倒みるから」
サトシの言葉は嬉しいものだった。
『チャトラン』は、以前1晩だけ家で預かった子猫なのだ。
そのとき俺はその子のことを『ちーちー』と呼んでいた。
「ちーちーが来るの?俺、遊んであげるよ!
サトシも居てくれるなんて最高!
俺、しっぽやの休みもらうから
お盆に黒谷が休むから、今のうちに皆で順番に休みを取って良いって言われてるんだ」
こうして、俺は初めて夏休みらしい夏休みを取ることになったのであった。
『パ~パ~、マ~マ~、ね~ね~、どこ行ったの~』
サトシが部屋に帰ってくる前から、パニクっているちーちーの鳴き声と想念がマンションの廊下に響き渡っていた。
今日はサトシがちーちーを迎えに行ったのだ。
時々知り合いの猫を預かっている長瀞からケージやトイレを借りてきてあるので迎え入れる準備は万端であったが、肝心のちーちーは何の説明も受けていないようであった。
『もう、影森マンションのことも俺のことも忘れちゃったかな』
ちーちーを預かっていたのはかなり前のことであったので、無理もなかった。
「ただいま羽生、電車の中では固まってたんだけど駅に着いたら泣き出しちゃって」
やっと部屋に到着したサトシは、困った顔を見せる。
「ちょっと話してみるね、暫く2人にしてもらって良い?」
俺はキャリーを受け取って、聞いてみた。
「ありがとう、助かるよ」
サトシはそ言ってキスをしてくれた。
教室として使っているホワイトボードが置いてある部屋のソファーに座り、足下にキャリーを置く。
ちーちーはまだ大きな声で泣いていた。
『ちーちー、久しぶり、元気だったか?にーにーのこと忘れちゃった?』
俺の送る想念に泣き声が少し弱まった。
『ちーちー、にーにーだよ』
もう1度話しかけると
『ちーちー?ぼくチャーちゃんだよ
チャーちゃんのとこには、パパとママとねーねーしかいないよ
にー?…誰?』
不思議そうな気配が返ってくる。
俺はキャリーの扉を開けてやり
「そうか、今は『チャーちゃん』なんだね
大事にしてもらってるんだ
怖くないからおいで、仲良くしよう、一緒に遊ぼうよ」
そう、声に出して話しかけてみた。
チャーちゃんは暫くキャリーの中で固まっていたようだが、少しずつ姿を現した。
姿勢を低くして、おっかなびっくり歩いている。
家にいた時は片手で持てる大きさだったのに、今では随分成長していた。
ぼんやりしていた体の縞も、キレイな模様を描いている。
「チャーちゃん」
俺が呼びかけるとオドオドとした瞳で見上げてきた。
「にーにーだよ」
そう言って手を差し出すと、警戒しながらも近寄ってきて匂いを嗅いでいた。
「にぃにー?にーにー?」
何か思い出したのか、チャーちゃんは俺の手に頭をすり付け始めた。
俺はその小さな頭を撫でてやる。
「暫く、家で俺と遊ぼうな
でも、寝室は立ち入り禁止」
笑いながら話しかけると、チャーちゃんはキョトントした顔で俺を見上げた。
チャーちゃんがサトシに慣れてくれるまで少し時間がかかったが、ヒモや猫じゃらしで遊んでやるとすぐに慣れてくれた。
『チャーちゃんね、パパもママもねーねーも大好き
ハニュとサトチも好き』
ハシャギ疲れて俺の腕の中で微睡みながら、チャーちゃんは幸せそうに呟いていた。
俺以外にサトシに救われた命があると思うと嬉しくなる。
「俺たち、本当に兄弟みたいだな」
チャーちゃんの頭を撫でながら
「サトシ、助けてくれてありがとう」
俺はソファーの隣に座るサトシに頭を預けた。
サトシは優しく髪を撫でて
「羽生、帰ってきてくれてありがとう」
そう言ってくれた。
去年は色々なことを覚えるのに必死で感じたことが無かったが
「夏休みって、楽しいね」
俺はチャーちゃんに引きずられて眠りの淵に落ちながら、笑ってそう呟いた。
「ああ、明日も皆で遊ぼうな」
優しく答えてくれるサトシの鼓動とぬくもりを感じ、俺はしばしの眠りにつくのであった。