◆しっぽやプチ話◆
side<TAKESI>
「あっつ~」
駅の日陰部分に居るものの、あまりの暑さに俺は何度目になるかわからない呟きをもらしていた。
流れる汗をタオルで拭う。
早くしっぽや事務所に移動して、クーラーで涼みたかった。
今日は荒木先輩と日野先輩がバイトに来てくれる。
夏休みに入ってから予備校のある2人は思うように時間が作れないらしく、バイトに来れる日が激減していたのだ。
特に日野先輩は部活もやっているため、週に1、2回来れるかどうか、という状態である。
久しぶりに3人で会えるということで、俺達は駅で待ち合わせして一緒にしっぽやに向かう事にしたのだ。
行きがてに買い出しの荷物持ちをやらされることは分かり切っていたが、それすらも楽しく感じてしまう。
何だかんだ言っても、俺はあの2人の先輩が好き(もちろん、ひろせとは違う意味で)なんだと少し照れくさくなってしまった。
「タケぽん、お待たせ
1本早い電車で来たの?待たせてごめん」
荒木先輩と日野先輩が、ほとんど同時に姿を見せる。
「遠足前の小学生みたいに焦り過ぎちゃった」
俺が笑うと
「3人揃うの、久しぶりだもんな」
2人の先輩も楽しそうに笑ってくれた。
俺達は改札を抜け、しっぽやへの道を歩いていった。
「夏休みに入る直前くらいに、コンビニの側にお茶屋がオープンしてたよね
買い出しついでに、ちょっと見てかない?」
「何か、人気ある店の支店だって?
抹茶ソフトのバリエーションが豊富だって、雑誌に載っててビックリしたぜ
でも、アイスはこの暑さだと持ち帰るまでに溶けそうだな」
さっそく買い出しの算段を始める先輩2人に
「お茶に合いそうなお茶菓子も美味しいんじゃないですか?
抹茶クッキーとかないかな、ひろせが研究したがってたから」
俺もゆるんだ顔をしてしまう。
「白久が好きな、おかきとかあられがあると良いな」
そう言って荒木先輩も同じような顔になっていた。
やってきた真新しい店内には、チラホラとお客の姿が見える。
開店セールの期間は終わっているし、この時間はあまりの暑さのために客足が鈍いのだろう。
おかげで俺達は、ゆっくりと店内を見て回ることが出来た。
「いらっしゃいませ、君たちお使い?」
店主らしきオジサンがニコニコしながら話しかけてきた。
アイスコーナーならまだしも、お茶売場を熱心に見ているのは年輩の人ばかりなので俺達は目立ってしまったようだ。
「ここ、かなりの種類が置いてありますね」
荒木先輩が目を輝かせながら店内を見回した。
「うん、この近辺では1番取り扱い種類が多い店だと思うよ」
オジサンは笑顔をみせる。
「種類が多すぎて、小さい子には難しいかな?
お母さんに、どんなものを買ってきなさいって言われた?
君たち兄弟?小学生なのに夏休みにお手伝いするなんて、偉いね
あ、大学生のお兄ちゃんが夏休みで家にいるから、2人とも遊んで欲しくてたまらいのかな」
オジサンはにこやかに笑いながら、先輩たちに対し恐怖の地雷を踏んでくれた。
「大学生のお兄ちゃん、お茶買って~」
地獄の底から響くような声で、荒木先輩が腕を絡めてくる。
「大学生のお兄ちゃん、僕、アイス食べたい~」
シャツの裾を日野先輩に捕まれたときは、餓鬼に食らいつかれた気分になり倒れそうになってしまう。
「ア、アイス…?」
恐る恐る日野先輩を見ると、店のイートインコーナーを指さしている。
「おじさん、ビッグ抹茶ソフトのトッピング全部のせくださ~い
お兄ちゃんがお金払ってくれます
持って帰ると溶けちゃうから、今食べる」
「ビッグに全部のせだと、かなりの量になるよ?」
「大丈夫で~す」
かわいらしい子供のふりをして、日野先輩はとんでもないものを注文していた。
バケツみたいなカップに山のような抹茶ソフトが入り、その上をトッピング(白玉、小豆、黒蜜、きなこ、フルーツ、求肥、ウエハース)が埋め尽くしている。
それを渡された日野先輩は機械のような正確さで、黙々とスプーンを口に運んでいった。
「お兄ちゃん、代金税込み1800円ね」
オジサンはにこやかに告げてくる。
『アイス1個に1800円…』
心の声を飲み込んで、財布を取りだしてレジで精算していると
「僕はこれがいい~」
荒木先輩がお茶の袋を手渡してきた。
それは50g入りのお茶の袋2個で、その常識的な買い物量に俺はホッとする。
『やっぱ、荒木先輩って優しい』
安堵した俺は
「あ、すいません、これも一緒に買います」
お茶の袋をオジサンに手渡した。
「ずいぶん良い物をお使いで頼まれたんだね
これ種子島のやぶきた茶の新茶で、うちの店は今年はこの2個が最後だよ
天候不順だったから収穫量が少なくて、いつもよりちょっと高めなんだ
2個で税込み4000円です」
俺は遠くからオジサンの声を聞いていた…
「わ~い、ありがとうお兄ちゃん」
口角は上がっているのに目がちっとも笑っていない荒木先輩の顔を見ながら
『悪魔って実在するんだ』
あんなに暑かったはずなのに、背筋が凍るような思いに捕らわれる。
俺は早くしっぽやに行って、ひろせの優しい笑顔が見たくてたまらなくなるのであった。
「あっつ~」
駅の日陰部分に居るものの、あまりの暑さに俺は何度目になるかわからない呟きをもらしていた。
流れる汗をタオルで拭う。
早くしっぽや事務所に移動して、クーラーで涼みたかった。
今日は荒木先輩と日野先輩がバイトに来てくれる。
夏休みに入ってから予備校のある2人は思うように時間が作れないらしく、バイトに来れる日が激減していたのだ。
特に日野先輩は部活もやっているため、週に1、2回来れるかどうか、という状態である。
久しぶりに3人で会えるということで、俺達は駅で待ち合わせして一緒にしっぽやに向かう事にしたのだ。
行きがてに買い出しの荷物持ちをやらされることは分かり切っていたが、それすらも楽しく感じてしまう。
何だかんだ言っても、俺はあの2人の先輩が好き(もちろん、ひろせとは違う意味で)なんだと少し照れくさくなってしまった。
「タケぽん、お待たせ
1本早い電車で来たの?待たせてごめん」
荒木先輩と日野先輩が、ほとんど同時に姿を見せる。
「遠足前の小学生みたいに焦り過ぎちゃった」
俺が笑うと
「3人揃うの、久しぶりだもんな」
2人の先輩も楽しそうに笑ってくれた。
俺達は改札を抜け、しっぽやへの道を歩いていった。
「夏休みに入る直前くらいに、コンビニの側にお茶屋がオープンしてたよね
買い出しついでに、ちょっと見てかない?」
「何か、人気ある店の支店だって?
抹茶ソフトのバリエーションが豊富だって、雑誌に載っててビックリしたぜ
でも、アイスはこの暑さだと持ち帰るまでに溶けそうだな」
さっそく買い出しの算段を始める先輩2人に
「お茶に合いそうなお茶菓子も美味しいんじゃないですか?
抹茶クッキーとかないかな、ひろせが研究したがってたから」
俺もゆるんだ顔をしてしまう。
「白久が好きな、おかきとかあられがあると良いな」
そう言って荒木先輩も同じような顔になっていた。
やってきた真新しい店内には、チラホラとお客の姿が見える。
開店セールの期間は終わっているし、この時間はあまりの暑さのために客足が鈍いのだろう。
おかげで俺達は、ゆっくりと店内を見て回ることが出来た。
「いらっしゃいませ、君たちお使い?」
店主らしきオジサンがニコニコしながら話しかけてきた。
アイスコーナーならまだしも、お茶売場を熱心に見ているのは年輩の人ばかりなので俺達は目立ってしまったようだ。
「ここ、かなりの種類が置いてありますね」
荒木先輩が目を輝かせながら店内を見回した。
「うん、この近辺では1番取り扱い種類が多い店だと思うよ」
オジサンは笑顔をみせる。
「種類が多すぎて、小さい子には難しいかな?
お母さんに、どんなものを買ってきなさいって言われた?
君たち兄弟?小学生なのに夏休みにお手伝いするなんて、偉いね
あ、大学生のお兄ちゃんが夏休みで家にいるから、2人とも遊んで欲しくてたまらいのかな」
オジサンはにこやかに笑いながら、先輩たちに対し恐怖の地雷を踏んでくれた。
「大学生のお兄ちゃん、お茶買って~」
地獄の底から響くような声で、荒木先輩が腕を絡めてくる。
「大学生のお兄ちゃん、僕、アイス食べたい~」
シャツの裾を日野先輩に捕まれたときは、餓鬼に食らいつかれた気分になり倒れそうになってしまう。
「ア、アイス…?」
恐る恐る日野先輩を見ると、店のイートインコーナーを指さしている。
「おじさん、ビッグ抹茶ソフトのトッピング全部のせくださ~い
お兄ちゃんがお金払ってくれます
持って帰ると溶けちゃうから、今食べる」
「ビッグに全部のせだと、かなりの量になるよ?」
「大丈夫で~す」
かわいらしい子供のふりをして、日野先輩はとんでもないものを注文していた。
バケツみたいなカップに山のような抹茶ソフトが入り、その上をトッピング(白玉、小豆、黒蜜、きなこ、フルーツ、求肥、ウエハース)が埋め尽くしている。
それを渡された日野先輩は機械のような正確さで、黙々とスプーンを口に運んでいった。
「お兄ちゃん、代金税込み1800円ね」
オジサンはにこやかに告げてくる。
『アイス1個に1800円…』
心の声を飲み込んで、財布を取りだしてレジで精算していると
「僕はこれがいい~」
荒木先輩がお茶の袋を手渡してきた。
それは50g入りのお茶の袋2個で、その常識的な買い物量に俺はホッとする。
『やっぱ、荒木先輩って優しい』
安堵した俺は
「あ、すいません、これも一緒に買います」
お茶の袋をオジサンに手渡した。
「ずいぶん良い物をお使いで頼まれたんだね
これ種子島のやぶきた茶の新茶で、うちの店は今年はこの2個が最後だよ
天候不順だったから収穫量が少なくて、いつもよりちょっと高めなんだ
2個で税込み4000円です」
俺は遠くからオジサンの声を聞いていた…
「わ~い、ありがとうお兄ちゃん」
口角は上がっているのに目がちっとも笑っていない荒木先輩の顔を見ながら
『悪魔って実在するんだ』
あんなに暑かったはずなのに、背筋が凍るような思いに捕らわれる。
俺は早くしっぽやに行って、ひろせの優しい笑顔が見たくてたまらなくなるのであった。