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◆しっぽやプチ話◆

side<SATOSI>

お昼休みの職員室、俺はいつものように弁当を取り出してお茶を煎れると食べ始めた。
「お、今日は豪快なお弁当ですな」
そんな言葉と共に、古文の田中先生が俺の隣に座る。
「ご一緒してよろしいかな?」
弁当の包みを持ち上げて聞いてくる彼に
「どうぞ」
俺は笑って答えた。

「それ、爆弾おにぎりってやつですか?
 具が色々入ってて、遠足とか屋外で食べるのも良さそうですね」
田中先生は興味深げにのぞき込んでくる。
「食べてると色んな具が次々出てくるんで、楽しいですよ」
「焼きたらこと鮭を同時に味わうのも、何だか豪華な気分になりそうだ
 僕も今日は、ちょっと豪華なんですよ
 子供たちが遠足でして、そのおこぼれにありつけました」
田中先生は照れた顔を見せながら、弁当箱のふたを開けた。
そこにはキャラクターの絵が入ったカマボコや、ウインナーなどが入っている。
「へー、今はこんなの売ってるんですか」
俺が感心すると
「遠足用の特別弁当にしか入れないですけどね」
田中先生はまた照れたように笑う。

「中川先生の弁当って、もしかして羽生君が作ってるのかな?」
田中先生の言葉に、俺は食べていた物を吹き出しかけてしまった。
「いやー、こないだ家に伺った時カレー作ったとか言っていたから、料理好きなのかなって
 何だか、凄くきれいな子ですね、彼」
弁当を食べながら何気ない世間話のように、田中先生は言葉を続ける。
俺は動揺を押し隠すようにおにぎりにかぶりつきつつも
『ヤバい、流石にこの職業であんな年頃の子と同棲しているのは問題ありか?
 兄弟と言うには似てないし
 出会った頃に比べると成長して見えるようにはなってきたが、それでもまだ成人前って外見だもんな』
内心ではかなり焦っていた。

「羽生君、髪の毛が真っ黒で、きれいな毛艶ですよね」
そんな田中先生の言葉に、俺は違和感を感じる。
『毛艶?』
「いや、でもね、うちのチャーちゃんも顔のとこにきれいな縞がくっきり出てるんですよ
 精悍な顔立ちというか、将来羽生君に負けない男前になりそうです
 ああ、こないだの子猫『チャトラン』って名前にしましてね
 いや、僕の年代だとどうしても茶トラの猫を見ると、その名前が浮かんじゃいまして
 結局呼ぶのは『チャーちゃん』になっちゃうんですが」
田中先生はデレデレした顔になっていく。
「あの子、元気になりましたか」
「もうすっかり家族に馴れてくれましたよ
 カリカリもそのまま食べるし、水も飲めるようになったんです
 最初の2晩は、夜になると泣きまくってたんで心配しましたがね
 羽生君に言われてたから、あまりかまわず普通に過ごすようにしてました
 彼に助言もらっといて、助かりましたよ
 お礼言っといてください」
田中先生はそう言って頭を下げた。
「羽生も、短い間だったけど兄弟が出来たみたいだって言ってましたよ」
「そうか、中川先生の家ではお兄ちゃんと一緒だったから、チャーちゃん寂しくなかったかな」
田中先生は優しい笑顔をみせた。

何だか田中先生は羽生を人として見ながら、猫として扱ってるとしか思えない言い回しをしてくる。
それで俺は以前にゲンさんが
『動物好きな人は化生を見て「きれい、可愛い」とか思いつつも、最終的には「うちの子の方がもっと可愛い」って結論になっちまうようだぜ
 しかも自分ちの子と化生を比べてることに、本人違和感感じてねーの』
そう言っていたことを思い出していた。

「そうだ、中川先生に見せようと思って、今朝のチャーちゃんの写真撮ってきたんです」
田中先生は弁当を食べ終わると、いそいそとスマホを取り出した。
「ほら、これはまだオネムな顔、これはご飯をねだってるとき
 水を飲んでるときは動画の方が可愛いんですよ
 こう、小さなベロがせわしなく動いて可愛いのなんの」
田中先生は、完全に親バカと化していた。
「何だか家にいた時より大きくなってますね
 模様もハッキリしてきてる
 あれから1週間くらいしか経ってないのに、子猫の成長スピードって早いな」
俺は驚くと同時に胸が少し痛んでいた。
子猫だった羽生とは数週間しか過ごせなかったが、その間に成長したと実感できたことはなかったのだ。
あんなに小さいうちに死なせてしまったのに、俺を好きでいてくれて化生までしてくれた羽生が愛おしくてたまらなくなる。

「田中先生、その写真送ってもらって良いですか?
 羽生にも見せたいと思いまして」
俺が頼むと
「どれが良いですかね
 昨日撮ったのも可愛いし、一昨日の写真も可愛くて」
彼は写真を厳選し始めた。

『今日は帰ったら、羽生と一緒に写真を見ながらゆっくり過ごすか』
俺は子猫の写真を選びながらも、心は羽生の元に飛んでいるのであった。
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