しっぽや(No.32~43)
「そうだ、デザートにしてもらってもいいかなと、これも用意してみたんです
よろしかったら」
そう言いながら、カズハさんがお菓子の籠に色んな種類の小さな羊羹(ようかん)を入れる。
それを見て、俺は少しドキリとしてしまった。
羊羹も、白久がよく買うお茶菓子であったからだ。
何故、カズハさんがそれを知っているのか疑問がわいてくる。
「ああ、『モドキ』
よく知ってましたね」
しかし中川先生の言葉で、それは別の疑問に変わった。
「モドキ?」
図らずも、俺と日野が同時に声を上げてしまう。
「うん、羹(かん)ってのは『熱(あつ)もの』、スープのことなんだよ
元々は羊の肉を使ったスープだったんだな
確かモンゴル辺りの料理だったか
それが僧侶によって大陸から日本に伝わったとき、肉食が出来ない彼らは色んな物で代用していって、今の羊羹の形になったらしい
元の料理の影も形もないな
でも、羊羹は日本に根付いた立派な料理だと思うよ」
中川先生はわかりやすく説明してくれる。
「そうそう、夏は水ようかん、秋は栗羊羹、日本の季節を感じさせるぜ
マリモ羊羹は剥くのが楽しいし
羊羹の過去世なんて知らなくとも、羊羹は俺たちの心の友だ」
ゲンさんがそう言って、俺にウインクする。
「うん、そうですね
白久、最後にデザートでもらおうか」
俺の言葉に
「はい」
白久は嬉しそうに答えた。
たとえ過去の白久を知らなくても、現在の白久の笑顔が俺にとっての白久の全てだった。
11時を回り、楽しかった歓迎会も終わりを迎える。
今回は日野の大活躍により、料理はほとんど残っていなかった。
「名残惜しいけど、今回はこの辺でお開きだ
また、皆で集まって持ち寄りパーティーしようや
理由は何だって良い、楽しくやろうぜ
冬になったら鍋やるからな、鍋!」
笑顔のゲンさんに見送られ、俺たちは自分たちの部屋に帰る。
エレベーターで一緒に最上階まで行き、俺との別れ際
「今日は本当に楽しかった、皆と知り合えて良かったよ
荒木、友達でいてくれてありがとな」
日野がそんな言葉をかけてきた。
その目元が少し潤んでいるのを見て、俺も同じように目が潤んできてしまう。
「また、ゲンさんとこで集まろうぜ
俺たち皆、仲間だもんな」
へヘッと笑ってそう答え、俺たちはそれぞれの部屋に消えていった。
白久の部屋に帰ってシャワーを浴びた後クッションに座ると、心地よい疲労感に襲われる。
「ミッション、大成功だったね
日野のおかげで、ササミフライが太巻きの具になってビックリだけど
湯通ししたササミ、美味しかったよ
白久、作ってくれてありがとう」
俺が笑うと、白久も笑顔を見せた。
「荒木のお役に立てましたか」
「うん!」
微笑む白久を手招きし、俺は
「ご褒美」
そう言って屈んだ白久にキスをした。
それから、優しく頭を撫でてやる。
白久は、そっと俺に身を添えてきた。
「もう、寂しくない?」
白久の耳元で囁くと
「はい、私には荒木がおりますから」
しっかりとした答えが返ってくる。
「明日で夏休みが終わりだから、あんまり泊まりに来れなくなるけど
平気?」
畳みかける俺の問いに
「私の心には、いつも荒木がおります」
白久は揺るぎない口調で答えた。
「ちぇ、俺は白久と一緒に居られなくて寂しいのにな」
少し拗ねた感じで言う俺に
「荒木の心にも、いつも私がおりますよ」
白久は微笑んで俺を強く抱きしめた。
「そうだね」
俺は再び白久と唇を合わせ、その頬をそっと撫でた。
「今日も、気持ち良くして」
甘えるように言う俺の言葉に
「はい」
白久はすぐに答えて、情熱的に唇を合わせてきた。
そのまま俺を抱き上げてベッドまで運んでくれる。
いつものように、白久は俺の体の隅々にまで優しく激しい愛撫をしてくれた。
それは心がトロケるように気持ちよくて、俺たちは何度もつながり、お互いを確かめ合った。
俺にとって特別に意味のあった夏休みが終わる。
去ってしまう夏休みは惜しかったが、これから白久と過ごす未来が待ち遠しい。
そんな幸せな気持ちに包まれたまま、俺は白久の腕の中で意識を明日に手放すのであった。
よろしかったら」
そう言いながら、カズハさんがお菓子の籠に色んな種類の小さな羊羹(ようかん)を入れる。
それを見て、俺は少しドキリとしてしまった。
羊羹も、白久がよく買うお茶菓子であったからだ。
何故、カズハさんがそれを知っているのか疑問がわいてくる。
「ああ、『モドキ』
よく知ってましたね」
しかし中川先生の言葉で、それは別の疑問に変わった。
「モドキ?」
図らずも、俺と日野が同時に声を上げてしまう。
「うん、羹(かん)ってのは『熱(あつ)もの』、スープのことなんだよ
元々は羊の肉を使ったスープだったんだな
確かモンゴル辺りの料理だったか
それが僧侶によって大陸から日本に伝わったとき、肉食が出来ない彼らは色んな物で代用していって、今の羊羹の形になったらしい
元の料理の影も形もないな
でも、羊羹は日本に根付いた立派な料理だと思うよ」
中川先生はわかりやすく説明してくれる。
「そうそう、夏は水ようかん、秋は栗羊羹、日本の季節を感じさせるぜ
マリモ羊羹は剥くのが楽しいし
羊羹の過去世なんて知らなくとも、羊羹は俺たちの心の友だ」
ゲンさんがそう言って、俺にウインクする。
「うん、そうですね
白久、最後にデザートでもらおうか」
俺の言葉に
「はい」
白久は嬉しそうに答えた。
たとえ過去の白久を知らなくても、現在の白久の笑顔が俺にとっての白久の全てだった。
11時を回り、楽しかった歓迎会も終わりを迎える。
今回は日野の大活躍により、料理はほとんど残っていなかった。
「名残惜しいけど、今回はこの辺でお開きだ
また、皆で集まって持ち寄りパーティーしようや
理由は何だって良い、楽しくやろうぜ
冬になったら鍋やるからな、鍋!」
笑顔のゲンさんに見送られ、俺たちは自分たちの部屋に帰る。
エレベーターで一緒に最上階まで行き、俺との別れ際
「今日は本当に楽しかった、皆と知り合えて良かったよ
荒木、友達でいてくれてありがとな」
日野がそんな言葉をかけてきた。
その目元が少し潤んでいるのを見て、俺も同じように目が潤んできてしまう。
「また、ゲンさんとこで集まろうぜ
俺たち皆、仲間だもんな」
へヘッと笑ってそう答え、俺たちはそれぞれの部屋に消えていった。
白久の部屋に帰ってシャワーを浴びた後クッションに座ると、心地よい疲労感に襲われる。
「ミッション、大成功だったね
日野のおかげで、ササミフライが太巻きの具になってビックリだけど
湯通ししたササミ、美味しかったよ
白久、作ってくれてありがとう」
俺が笑うと、白久も笑顔を見せた。
「荒木のお役に立てましたか」
「うん!」
微笑む白久を手招きし、俺は
「ご褒美」
そう言って屈んだ白久にキスをした。
それから、優しく頭を撫でてやる。
白久は、そっと俺に身を添えてきた。
「もう、寂しくない?」
白久の耳元で囁くと
「はい、私には荒木がおりますから」
しっかりとした答えが返ってくる。
「明日で夏休みが終わりだから、あんまり泊まりに来れなくなるけど
平気?」
畳みかける俺の問いに
「私の心には、いつも荒木がおります」
白久は揺るぎない口調で答えた。
「ちぇ、俺は白久と一緒に居られなくて寂しいのにな」
少し拗ねた感じで言う俺に
「荒木の心にも、いつも私がおりますよ」
白久は微笑んで俺を強く抱きしめた。
「そうだね」
俺は再び白久と唇を合わせ、その頬をそっと撫でた。
「今日も、気持ち良くして」
甘えるように言う俺の言葉に
「はい」
白久はすぐに答えて、情熱的に唇を合わせてきた。
そのまま俺を抱き上げてベッドまで運んでくれる。
いつものように、白久は俺の体の隅々にまで優しく激しい愛撫をしてくれた。
それは心がトロケるように気持ちよくて、俺たちは何度もつながり、お互いを確かめ合った。
俺にとって特別に意味のあった夏休みが終わる。
去ってしまう夏休みは惜しかったが、これから白久と過ごす未来が待ち遠しい。
そんな幸せな気持ちに包まれたまま、俺は白久の腕の中で意識を明日に手放すのであった。