しっぽや【アラシ】(No.23~31)
黒谷から紹介された化生は『空』という、白とグレーの髪で背が高く、鋭い目つきのハスキー犬だった。
しかし陽気で人なつっこい上に、化生には珍しくカジュアルな服を着こなしているので今いち迫力に欠けている。
「顔はグラサンかければ十分迫力出るけど…
もうちょっとチンピラっぽい服、持ってないかな」
俺の言葉に空の飼い主というカズハさんが
「うーん、でも、空って上品で格好いいから、何を着ても柄が悪くは見えないよ?
どんな服も品良く着こなしちゃうんだよ
背が高いから迫力はあるけどね」
そう言って首を傾げてみせる。
『…この人も、親ばか全開だ』
きっと、化生の関係者はこんな人ばかりなんだろうと察しがついた。
結局、空には派手なアロハシャツを着てもらった。
グラサンをかけると、立派なチンピラに見える。
『こいつはバカだから、難しいことは頼めません
上手く誘導してください
日野は頭が良いので、上手く使いこなせるかと思います』
あんまりな黒谷の説明に、逆に俺は困ってしまった。
取り敢えずお盆明け、どのクラブも夏休みの最後の追い込みをしている学校に空を伴って行ってみた。
空には『ケンカした友達と仲直りしたい』と言ってある。
上手くあいつらを脅してくれるかは賭であった。
学校の校庭では様々なクラブが活動している。
校庭に入った俺たちを、やつらが目ざとく見つけて近寄ってきた。
「何だよ日野ちゃん、具合悪いんじゃなかったの?」
「俺たちのアレが恋しくなっちゃった?」
イヤラシい目つきで俺を眺め回す相手に、毅然とした態度を崩さぬよう
「俺が、パトロン見つけるの上手いのは知ってんだろ?
こいつ、今のパトロンが付けてくれた用心棒
俺に何かあったら、こいつが黙ってないから」
そう言って甘えるように空に腕を絡ませた。
空には会話の内容が理解できないのだろう。
訳が分からないといった感じで、小首を傾げてあいつらを見ていた。
しかしあいつらには、グラサンをかけた長身の男が挑発的に睨んでいるように見えるはずだ。
「校内で部外者がハバ利かせられるわけないだろ」
「なあ?」
やつらは怯えた様子を見せながらも、反論してくる。
そんな時、先生がこちらに近づいてくる姿が目に入った。
『ヤバい!』
内心、焦りまくる俺をよそに
「あ、中川先生!夏休みなのに、今日は学校に来てたんだ?」
空が気さくに先生に声をかけた。
「ああ、うん今日は集まりがあってね
何だ、部外者がいるって言うから見に来たら、空じゃないか
捜索?もしかして、学校に犬が入り込むって珍事が起こってるのかな?
他の先生には俺から言っておくから、早く探し出して帰してあげてね」
先生は一人で納得すると、そのまま校内に戻ってしまった。
俺もあいつらも毒気を抜かれてポカンとしてしまう。
そんなタイミングで空がサングラスを外し
「ま、何があったか知らないけどな
これからは日野と仲良くしてやってくれや
日野に何かあったら、俺が旦那にボコボコにされちまうからよ」
そう言って壮絶に凶悪な笑みを作ってみせた。
それであいつらには十分だった。
「あの、はい、わかりました」
やつらは素直に頷いて、すごすごと去っていく。
あまりにも上手くことが運びすぎて、俺はビックリしていた。
駅まで空を送っていく道すがら
「すごいよ、空、よくあんな凶悪な脅し顔出来たね!
これであいつら、俺に手出しはできないぜ!
ありがとう、本当に助かったよ!」
俺は興奮しながら礼を言う。
「脅し?俺、『仲良くしてね』ってニッコリ笑っただけだけど?
カズハは『空の笑顔は最高に癒される』って誉めてくれるんだ
後、『笑うと目が可愛い』っていつも言ってくれる」
空は得意げな顔になる。
『あの顔…本気で笑ってたのか…
カズハさんの感覚って、そーとーマニアックかも…』
俺は心の中で苦笑する。
「とにかく助かった
お礼に駅の側のパン屋で、俺のお勧めパンおごってあげるよ」
俺の言葉に
「パン?唐揚げとかメンチ入ってるのある?」
空が顔を輝かせた。
「パン屋の出会いは一期一会だから、行ってみないとわからないぜ」
「イチゴ?イチゴと生クリーム入ってるサンドもいいな~
イチエって何?あ、イチジクとエッグのタルトか何か?
最近のパン屋のスイーツって、あなどれないよな」
首を傾げる空に『こいつはバカだ』と言っていた黒谷の言葉を思い出す。
「一期一会は…、見てからのお楽しみってことかな」
俺は笑って、夏の暑い空を仰ぎ見た。
胸のすくような青い空に、真っ白な雲がクッキリと浮かんでいる。
俺の中で『人生最悪の夏休み』は『人生最高の夏休み』に変わっていた。
しかし陽気で人なつっこい上に、化生には珍しくカジュアルな服を着こなしているので今いち迫力に欠けている。
「顔はグラサンかければ十分迫力出るけど…
もうちょっとチンピラっぽい服、持ってないかな」
俺の言葉に空の飼い主というカズハさんが
「うーん、でも、空って上品で格好いいから、何を着ても柄が悪くは見えないよ?
どんな服も品良く着こなしちゃうんだよ
背が高いから迫力はあるけどね」
そう言って首を傾げてみせる。
『…この人も、親ばか全開だ』
きっと、化生の関係者はこんな人ばかりなんだろうと察しがついた。
結局、空には派手なアロハシャツを着てもらった。
グラサンをかけると、立派なチンピラに見える。
『こいつはバカだから、難しいことは頼めません
上手く誘導してください
日野は頭が良いので、上手く使いこなせるかと思います』
あんまりな黒谷の説明に、逆に俺は困ってしまった。
取り敢えずお盆明け、どのクラブも夏休みの最後の追い込みをしている学校に空を伴って行ってみた。
空には『ケンカした友達と仲直りしたい』と言ってある。
上手くあいつらを脅してくれるかは賭であった。
学校の校庭では様々なクラブが活動している。
校庭に入った俺たちを、やつらが目ざとく見つけて近寄ってきた。
「何だよ日野ちゃん、具合悪いんじゃなかったの?」
「俺たちのアレが恋しくなっちゃった?」
イヤラシい目つきで俺を眺め回す相手に、毅然とした態度を崩さぬよう
「俺が、パトロン見つけるの上手いのは知ってんだろ?
こいつ、今のパトロンが付けてくれた用心棒
俺に何かあったら、こいつが黙ってないから」
そう言って甘えるように空に腕を絡ませた。
空には会話の内容が理解できないのだろう。
訳が分からないといった感じで、小首を傾げてあいつらを見ていた。
しかしあいつらには、グラサンをかけた長身の男が挑発的に睨んでいるように見えるはずだ。
「校内で部外者がハバ利かせられるわけないだろ」
「なあ?」
やつらは怯えた様子を見せながらも、反論してくる。
そんな時、先生がこちらに近づいてくる姿が目に入った。
『ヤバい!』
内心、焦りまくる俺をよそに
「あ、中川先生!夏休みなのに、今日は学校に来てたんだ?」
空が気さくに先生に声をかけた。
「ああ、うん今日は集まりがあってね
何だ、部外者がいるって言うから見に来たら、空じゃないか
捜索?もしかして、学校に犬が入り込むって珍事が起こってるのかな?
他の先生には俺から言っておくから、早く探し出して帰してあげてね」
先生は一人で納得すると、そのまま校内に戻ってしまった。
俺もあいつらも毒気を抜かれてポカンとしてしまう。
そんなタイミングで空がサングラスを外し
「ま、何があったか知らないけどな
これからは日野と仲良くしてやってくれや
日野に何かあったら、俺が旦那にボコボコにされちまうからよ」
そう言って壮絶に凶悪な笑みを作ってみせた。
それであいつらには十分だった。
「あの、はい、わかりました」
やつらは素直に頷いて、すごすごと去っていく。
あまりにも上手くことが運びすぎて、俺はビックリしていた。
駅まで空を送っていく道すがら
「すごいよ、空、よくあんな凶悪な脅し顔出来たね!
これであいつら、俺に手出しはできないぜ!
ありがとう、本当に助かったよ!」
俺は興奮しながら礼を言う。
「脅し?俺、『仲良くしてね』ってニッコリ笑っただけだけど?
カズハは『空の笑顔は最高に癒される』って誉めてくれるんだ
後、『笑うと目が可愛い』っていつも言ってくれる」
空は得意げな顔になる。
『あの顔…本気で笑ってたのか…
カズハさんの感覚って、そーとーマニアックかも…』
俺は心の中で苦笑する。
「とにかく助かった
お礼に駅の側のパン屋で、俺のお勧めパンおごってあげるよ」
俺の言葉に
「パン?唐揚げとかメンチ入ってるのある?」
空が顔を輝かせた。
「パン屋の出会いは一期一会だから、行ってみないとわからないぜ」
「イチゴ?イチゴと生クリーム入ってるサンドもいいな~
イチエって何?あ、イチジクとエッグのタルトか何か?
最近のパン屋のスイーツって、あなどれないよな」
首を傾げる空に『こいつはバカだ』と言っていた黒谷の言葉を思い出す。
「一期一会は…、見てからのお楽しみってことかな」
俺は笑って、夏の暑い空を仰ぎ見た。
胸のすくような青い空に、真っ白な雲がクッキリと浮かんでいる。
俺の中で『人生最悪の夏休み』は『人生最高の夏休み』に変わっていた。