しっぽや【アラシ】(No.23~31)
「何だって?シロ、どういう事なんだ?」
黒谷が厳しく白久を問いつめる。
俺には白久が何を言い出したのか、さっぱりわからなかった。
「先ほど荒木の学校の側でお会いした方から、あのお方の気配がしました
日野様から感じた懐かしい感覚…
あのお方は、私の飼い主の生まれ変わりに相違ありません!」
白久は泣きながら黒谷に訴えた。
「転生…しておられたのか!」
黒谷の顔が複雑な表情を見せる。
それは、羨望ともとれる顔であった。
「私には荒木がいるのに…何故、今になってあのお方の転生体と巡り会ってしまったのか
クロ、私はどうすれば良いのでしょう
荒木をお慕いしているのに、あのお方の存在が心から離れない…
体と心が引き裂かれてしまいそうです」
白久の言葉は、俺にとってもショックなものであった。
『日野が白久の飼い主の生まれ変わり?!』
以前の飼い主が生まれ変わっている、そんな可能性など考えた事も無かった。
俺はどうして良いか分からず、不安な顔を黒谷に向ける。
黒谷は痛ましい者を見る目で俺と白久を見たが、すぐに毅然とした態度で
「シロ、しっかりしなさい
荒木に飼っていただけて、どれだけ幸せか思い出して!
あの、長きに渡る孤独から抜け出し、自分だけの飼い主と巡り会えたなにものにも代え難い幸福感を思い出すんだ!
君は荒木を選び、荒木は君を選んだ、そうだろう?
シロがお守りすべき相手は荒木だよ」
キッパリとそう言いのけた。
「相手は過去世(かこせ)の事は覚えていない、シロの事も覚えていない
今生(こんじょう)を生きているんだ
シロも、今生を生きてくれ」
黒谷は辛そうな顔で白久を諭してくれる。
「クロ…」
今度は何故か、白久が痛ましい者を見る目で黒谷を見つめた。
白久は涙を拭うと
「和銅様はクロと約束したのです
きっと、クロの事を覚えていますよ」
やんわりと言葉を口にする。
俺は会話の内容についていけず、黒谷と白久のやり取りをオロオロしながら見ているしかなかった。
「荒木、取り乱してしまい申し訳ありません
お見苦しいところをお見せしました」
白久が俺にペコリと頭を下げる。
「私は、荒木の飼い犬です」
白久は無理に微笑んでそう言うが、その顔には寂しそうな陰がさしていた。
「白久…」
こんな時、どうしてあげれば白久が安心してくれるかわからない自分がもどかしかった。
きっと、カズハさんなら毅然とした態度で安心できることを言えるんじゃないかと思うが、俺にはどうすることも出来ない。
それでも何かしてあげたくて、俺は白久に抱きついた。
「よしよし…」
そう言いながら白久の背中を撫でる。
端から見れば、俺の方が慰めてもらってるように見えるだろう。
それでも白久は甘えるように、俺を抱きしめ返してくれた。
「シロ、今日はもう上がっていいよ
保護した子は空にでも送ってもらうから
荒木、悪いけど少しシロに付いててあげて
シロが落ち着くまでで良いからさ」
心配そうな黒谷の言葉に
「はい!」
俺は素直に頷いた。
「クロ、でも…」
白久は何か言おうとするが
「シロ、落ち着くまで荒木に一緒にいてもらいなさい」
黒谷にピシャリと遮られた。
「はい…」
白久はションボリと返事を返す。
「じゃあ、マンションに帰ろう」
俺が努めて明るい声を出すと
「そうですね、今日は『ピザの注文』の仕方を教えてください
この間ゲン様と一緒に食べた際、自分でも注文出来ないかと長瀞にチラシを貰っておいたのです」
白久も笑い返してくれる。
「うん、注文できるようになれば、俺が居ないときとか黒谷と食べたっていいもんね」
俺の言葉に
「それは良いね、シロに注文の仕方を覚えてもらえば僕も美味しい目にあえるよ」
黒谷が少しおどけてそう言った。
マンションの部屋に戻ると、俺と白久はピザ屋のチラシを見ながら何を注文するか話し合った。
白久は、無理に明るく振る舞おうとしているように見えた。
しかしそれは、俺も同じだったかもしれない。
「この部屋は専用エレベーターじゃないと来れないから、エントランスに迎えにいくって事も伝えるんだよ」
俺の言葉に頷いて、白久がギクシャクと注文の電話をする。
ピザは注文通りのものが時間内にきちんと届いてくれた。
「ハーフ&ハーフ、組み合わせが難しいですが楽しいものですね
サイドメニューも色々あるし、出来立てを持ってきてもらえるのはありがたいことです
今度、クロと一緒に夕飯を食べる時にでも頼んでみます」
白久はテーブルにピザを広げながら笑顔で言った。
「うん、うちも母さんが残業の時とか頼むんだ
残っても、トースターで温め直せば美味しいし」
俺はピザを食べながら、他のデリバリーの注文の仕方も教えてあげる。
それは、いつも白久と過ごす楽しい時間と同じだった。
「荒木といると、勉強になります」
白久は嬉しそうに笑ってくれた。
食べ終わるとシャワーを浴びて、白久の部屋に置いている服に着替える。
お腹も満たされたし、少し落ち着いた気分になった。
白久もシャワーを浴びて、俺と一緒に買った服に着替えていた。
2人の思い出の服、そんなささやかな事が嬉しく思える。
「チワワの捜索、大変だった?ご苦労様」
「小型犬の方々は気の強い方が多いので、探し当てても説得が大変で
『自分は迷子になんてなってない!散歩に飽きたら、自分で帰れるから放っておけ』
と、取り付く島もないのです
空のように話術が巧みなら、もう少し上手く彼らの気を引けるのでしょうが」
白久は麦茶を飲みながら苦笑する。
「そっか、その辺、俺は手伝えないもんな」
俺は腕組みして考え込むが、白久の助けになりそうなアイデアなど浮かんでこなかった。
考えていると、思考が自然と先程の事に移行してしまう。
「日野…、本当に、白久の飼い主の生まれ変わりなの…?」
俯く俺に白久が近寄ってきて、抱きしめてくれる。
「荒木、申し訳ございません
荒木にそんな顔をさせてしまうなんて、私はダメな飼い犬ですね」
白久はすまなそうな顔で謝ってくれた。
「クロに言われて思い出しました
事務所に荒木が初めて入ってきた時の、心震える高揚感を
振る尻尾がないことがもどかしい感覚、どうやってこの喜びを体現すれば良いのか、そんな状態になったのは化生して初めての事でした
飼っていただけることになった時の喜びは、語り尽くせません」
白久が俺を強く抱きしめる。
「俺、最初は戸惑うことも多かったけど、今では白久が本当に好きなんだ
犬を飼うのは初めてだから、カズハさんみたく上手く接してあげられないのが自分でももどかしくて
ちゃんと犬の飼い方勉強するよ、白久が安心して従える飼い主になる
だから…、俺の飼い犬でいて」
言いながら、俺は不安が増してきて涙が出てきてしまう。
「ごめん、ちゃんと頼りがいのある飼い主になりたいのに
白久…俺の…側に居て…」
泣きながら白久にすがりつく俺に、白久はそっとキスをしてくれた。
「荒木、愛しい私の飼い主」
白久が優しい目で俺を見た。
「やはり、カズハ様より荒木の方がお可愛らしいですよ
今は2人きりなので、こーゆー事、口にしてもよろしいでしょうか」
白久が何度もキスをしながら聞いてくる。
「うん、白久も空より格好良いし、頼りになる」
俺も少し落ち着いてきて、笑いながらそう言って白久に身を任せた。
白久の舌が体中を這い、俺の快感を引き出していく。
いつものような優しい愛撫に、心が満たされていくのを感じる。
俺達は心も体も何度も1つに繋がり合い、熱い想いを解放し合った。
白久は確かに俺の隣にいてくれる。
白久の温もりが心地よかった。
「俺、今日は泊まっていこうか?
明日もバイトに出て、白久の側に居た方が良い?」
いつまでもその温もりを味わっていたかった俺が言うと
「明日はお友達と約束があるのでしょう?
私なら大丈夫ですから、楽しんでいらしてください
お友達とのお付き合いも、大事な事ですよ」
白久はキッパリと口にする。
「…うん」
後ろ髪を引かれる思いであったが俺は素直に頷いて、その日は帰路についてしまう。
その選択を、俺は後に深く後悔することになった。
黒谷が厳しく白久を問いつめる。
俺には白久が何を言い出したのか、さっぱりわからなかった。
「先ほど荒木の学校の側でお会いした方から、あのお方の気配がしました
日野様から感じた懐かしい感覚…
あのお方は、私の飼い主の生まれ変わりに相違ありません!」
白久は泣きながら黒谷に訴えた。
「転生…しておられたのか!」
黒谷の顔が複雑な表情を見せる。
それは、羨望ともとれる顔であった。
「私には荒木がいるのに…何故、今になってあのお方の転生体と巡り会ってしまったのか
クロ、私はどうすれば良いのでしょう
荒木をお慕いしているのに、あのお方の存在が心から離れない…
体と心が引き裂かれてしまいそうです」
白久の言葉は、俺にとってもショックなものであった。
『日野が白久の飼い主の生まれ変わり?!』
以前の飼い主が生まれ変わっている、そんな可能性など考えた事も無かった。
俺はどうして良いか分からず、不安な顔を黒谷に向ける。
黒谷は痛ましい者を見る目で俺と白久を見たが、すぐに毅然とした態度で
「シロ、しっかりしなさい
荒木に飼っていただけて、どれだけ幸せか思い出して!
あの、長きに渡る孤独から抜け出し、自分だけの飼い主と巡り会えたなにものにも代え難い幸福感を思い出すんだ!
君は荒木を選び、荒木は君を選んだ、そうだろう?
シロがお守りすべき相手は荒木だよ」
キッパリとそう言いのけた。
「相手は過去世(かこせ)の事は覚えていない、シロの事も覚えていない
今生(こんじょう)を生きているんだ
シロも、今生を生きてくれ」
黒谷は辛そうな顔で白久を諭してくれる。
「クロ…」
今度は何故か、白久が痛ましい者を見る目で黒谷を見つめた。
白久は涙を拭うと
「和銅様はクロと約束したのです
きっと、クロの事を覚えていますよ」
やんわりと言葉を口にする。
俺は会話の内容についていけず、黒谷と白久のやり取りをオロオロしながら見ているしかなかった。
「荒木、取り乱してしまい申し訳ありません
お見苦しいところをお見せしました」
白久が俺にペコリと頭を下げる。
「私は、荒木の飼い犬です」
白久は無理に微笑んでそう言うが、その顔には寂しそうな陰がさしていた。
「白久…」
こんな時、どうしてあげれば白久が安心してくれるかわからない自分がもどかしかった。
きっと、カズハさんなら毅然とした態度で安心できることを言えるんじゃないかと思うが、俺にはどうすることも出来ない。
それでも何かしてあげたくて、俺は白久に抱きついた。
「よしよし…」
そう言いながら白久の背中を撫でる。
端から見れば、俺の方が慰めてもらってるように見えるだろう。
それでも白久は甘えるように、俺を抱きしめ返してくれた。
「シロ、今日はもう上がっていいよ
保護した子は空にでも送ってもらうから
荒木、悪いけど少しシロに付いててあげて
シロが落ち着くまでで良いからさ」
心配そうな黒谷の言葉に
「はい!」
俺は素直に頷いた。
「クロ、でも…」
白久は何か言おうとするが
「シロ、落ち着くまで荒木に一緒にいてもらいなさい」
黒谷にピシャリと遮られた。
「はい…」
白久はションボリと返事を返す。
「じゃあ、マンションに帰ろう」
俺が努めて明るい声を出すと
「そうですね、今日は『ピザの注文』の仕方を教えてください
この間ゲン様と一緒に食べた際、自分でも注文出来ないかと長瀞にチラシを貰っておいたのです」
白久も笑い返してくれる。
「うん、注文できるようになれば、俺が居ないときとか黒谷と食べたっていいもんね」
俺の言葉に
「それは良いね、シロに注文の仕方を覚えてもらえば僕も美味しい目にあえるよ」
黒谷が少しおどけてそう言った。
マンションの部屋に戻ると、俺と白久はピザ屋のチラシを見ながら何を注文するか話し合った。
白久は、無理に明るく振る舞おうとしているように見えた。
しかしそれは、俺も同じだったかもしれない。
「この部屋は専用エレベーターじゃないと来れないから、エントランスに迎えにいくって事も伝えるんだよ」
俺の言葉に頷いて、白久がギクシャクと注文の電話をする。
ピザは注文通りのものが時間内にきちんと届いてくれた。
「ハーフ&ハーフ、組み合わせが難しいですが楽しいものですね
サイドメニューも色々あるし、出来立てを持ってきてもらえるのはありがたいことです
今度、クロと一緒に夕飯を食べる時にでも頼んでみます」
白久はテーブルにピザを広げながら笑顔で言った。
「うん、うちも母さんが残業の時とか頼むんだ
残っても、トースターで温め直せば美味しいし」
俺はピザを食べながら、他のデリバリーの注文の仕方も教えてあげる。
それは、いつも白久と過ごす楽しい時間と同じだった。
「荒木といると、勉強になります」
白久は嬉しそうに笑ってくれた。
食べ終わるとシャワーを浴びて、白久の部屋に置いている服に着替える。
お腹も満たされたし、少し落ち着いた気分になった。
白久もシャワーを浴びて、俺と一緒に買った服に着替えていた。
2人の思い出の服、そんなささやかな事が嬉しく思える。
「チワワの捜索、大変だった?ご苦労様」
「小型犬の方々は気の強い方が多いので、探し当てても説得が大変で
『自分は迷子になんてなってない!散歩に飽きたら、自分で帰れるから放っておけ』
と、取り付く島もないのです
空のように話術が巧みなら、もう少し上手く彼らの気を引けるのでしょうが」
白久は麦茶を飲みながら苦笑する。
「そっか、その辺、俺は手伝えないもんな」
俺は腕組みして考え込むが、白久の助けになりそうなアイデアなど浮かんでこなかった。
考えていると、思考が自然と先程の事に移行してしまう。
「日野…、本当に、白久の飼い主の生まれ変わりなの…?」
俯く俺に白久が近寄ってきて、抱きしめてくれる。
「荒木、申し訳ございません
荒木にそんな顔をさせてしまうなんて、私はダメな飼い犬ですね」
白久はすまなそうな顔で謝ってくれた。
「クロに言われて思い出しました
事務所に荒木が初めて入ってきた時の、心震える高揚感を
振る尻尾がないことがもどかしい感覚、どうやってこの喜びを体現すれば良いのか、そんな状態になったのは化生して初めての事でした
飼っていただけることになった時の喜びは、語り尽くせません」
白久が俺を強く抱きしめる。
「俺、最初は戸惑うことも多かったけど、今では白久が本当に好きなんだ
犬を飼うのは初めてだから、カズハさんみたく上手く接してあげられないのが自分でももどかしくて
ちゃんと犬の飼い方勉強するよ、白久が安心して従える飼い主になる
だから…、俺の飼い犬でいて」
言いながら、俺は不安が増してきて涙が出てきてしまう。
「ごめん、ちゃんと頼りがいのある飼い主になりたいのに
白久…俺の…側に居て…」
泣きながら白久にすがりつく俺に、白久はそっとキスをしてくれた。
「荒木、愛しい私の飼い主」
白久が優しい目で俺を見た。
「やはり、カズハ様より荒木の方がお可愛らしいですよ
今は2人きりなので、こーゆー事、口にしてもよろしいでしょうか」
白久が何度もキスをしながら聞いてくる。
「うん、白久も空より格好良いし、頼りになる」
俺も少し落ち着いてきて、笑いながらそう言って白久に身を任せた。
白久の舌が体中を這い、俺の快感を引き出していく。
いつものような優しい愛撫に、心が満たされていくのを感じる。
俺達は心も体も何度も1つに繋がり合い、熱い想いを解放し合った。
白久は確かに俺の隣にいてくれる。
白久の温もりが心地よかった。
「俺、今日は泊まっていこうか?
明日もバイトに出て、白久の側に居た方が良い?」
いつまでもその温もりを味わっていたかった俺が言うと
「明日はお友達と約束があるのでしょう?
私なら大丈夫ですから、楽しんでいらしてください
お友達とのお付き合いも、大事な事ですよ」
白久はキッパリと口にする。
「…うん」
後ろ髪を引かれる思いであったが俺は素直に頷いて、その日は帰路についてしまう。
その選択を、俺は後に深く後悔することになった。