しっぽや(No.11~22)
「そうですか、貴方達はここでの仕事を誇りに感じているのですね
ええ、そうです、貴方達は至高の存在です
美しく、徳高き魂です
だからこそ、人は貴方達と触れ合って癒される」
波久礼が猫を撫でながら、何やら呟いていた。
気が付くと、波久礼の周りには数匹の猫が寄り添っている。
他の客が、羨望の眼差しでそれを見ていた。
「ちょ、何だよあいつ、猫プロじゃん
よくまあ、猫の自尊心をくすぐる言葉をベラベラと
俺たちより猫と意志疎通出来る分、あいつの方が有利ってことか」
ゲンさんが悔しそうな顔になる。
多分、俺も同じ顔になっていた…
「ゲンさん、ランチの用意出来ましたよ」
受付の女の人が俺達を呼びに入ってくる。
「よし、いったん休憩だ」
ゲンさんは抱いていた猫をそっと下ろすと、波久礼を呼びに行く。
ゲンさんと一緒に近付いてきた波久礼は、心ここにあらず、といった様子であった。
イートスペースでオムライス(ケチャップで肉球が描かれていた)を食べながら
「ゲン殿、ここは素晴らしい場所ですね
猫達は安心しきって人に身を任せ、人は猫に癒される
しかも、ここにいる猫達は保護された者も多い
苦難の末に、あのもの達は安住の地にたどり着けたのです」
波久礼はしみじみと口にする。
「お前…いつの間にそこまで猫と意志疎通を!」
ゲンさんが驚いた顔を向ける。
かく言う俺も、驚いていた。
「ゲン殿、わかりました、これが猫と意志を通わせるということなのだと」
波久礼の猫バカ度は、格段にアップしているように見えた。
「ゲンさん、ご新規さん連れてきてくれたんだって?」
そんな言葉と共に、1人の人物が近付いてくる。
波久礼ほどではないが、白久と同じくらい背が高くガッシリとした体つきのオジサンだ。
アゴヒゲを生やしてるけど、柔和な顔で笑っているから威圧感はあまりない。
「どうも初めまして、ここの店長の熊谷(くまがや)です
僕のことはゲンさんみたいに、『クマさん』とでも呼んでください
いやー、男の猫好きさんが増えるのは嬉しい限りだね」
ニコニコ笑う店長さんに
「初めまして、俺は野上荒木です」
俺は椅子から立ち上がり、慌てて頭を下げる。
同じく立ち上がった波久礼を見て
「お、君、大きいね!目線が上の人と話すのは久しぶりで新鮮だ
僕達みたいなデカブツが猫好きだと、驚かれるでしょ」
クマさんはハハハッと笑った。
波久礼は頬を染め、潤む瞳でクマさんの事を見ていた。
それは、初めて会った時、白久が俺に向けた表情によく似ていてギョッとする。
「貴方様がこちらの責任者の方でございますか
私は波久礼と申します
ここは、本当に素晴らしい場所ですね
猫達はここにとても満足しております
貴方様は、なんと尊い場所をお作りになったことか!」
波久礼が、感に堪えないといった調子で話し出した。
「そんなに気に入ってくれた?嬉しいね
よし、じゃあ君たちには特別に良いもの見せてあげよう
ちょっと待ってて」
クマさんはそう言って去っていく。
波久礼は熱い瞳でクマさんが去った方を見つめていた。
俺とゲンさんは顔を見合わせる。
ゲンさんにも俺と同じ疑念が胸の内に生じたはずであった。
「あ、っと、波久礼?
もしかして、お前、クマさんに…?」
ゲンさんが恐る恐る話しかけると
「はい、あの方を見た瞬間、魂が震えるのを感じました!」
波久礼は頬を染めてキッパリと口にした。
「クマさんと波久礼…それ、クドすぎんだろ」
呆然と、ゲンさんが呟く。
失礼だけど、俺も同じ事を考えていた。
「あの方は私と同じ魂…
同じ、猫に使えるべき運命の元に存在する魂です!」
「「は?」」
俺とゲンさんは、あまりの想定外の波久礼の言葉に言葉を失った。
波久礼の猫バカは、取り返しの付かないところまで一気に加速していた…
「お待たせ、君たちちょっとこっちに来てみて」
クマさんが笑いながら戻ってきて、俺達を手招いた。
付いていくとクマさんは『staf only』のシールが貼ってある扉を開け
「驚かさないよう、そっと入ってね」
そう小声で囁いた。
その言葉に従い俺達が静かに部屋に入ると、そこにはやっと目が開いたばかりの子猫が2匹、母猫と一緒に段ボール箱の中に居るのが見える。
「先月保護した猫なんだけど、妊娠しててね
子猫2匹しか入ってなかったせいかスリムでさ、生まれるまで気が付かなかったんだ」
クマさんが苦笑する。
「この子達は、ワクチン接種が終わったら店に出して里親募集するよ
ゲンさん、誰か良い人がいたら紹介してくれないかな」
優しく笑うクマさんに
「ああ、お客さんに聞いてみるか
そうだ、うちの店に里親募集のポスター貼って良いぜ」
ゲンさんが気さくに答えた。
「貴女の最高傑作ですね!何と愛らしい…」
気が付くと、波久礼は優しく母猫に話しかけていた。
「抱かせていただいてかまいませんか?
大丈夫、絶対危害は加えません」
波久礼の言葉に、母猫は長い尻尾をパタリと振った。
波久礼が大きな手で2匹の子猫を抱き上げる。
子猫達はユラユラと不安定に体を揺らしながら、大人しく波久礼の手の中に収まっていた。
波久礼が指の腹でそっと子猫の頭を撫でると
「ミィー」
か細い声で泣いている。
「最初に見たカシスより小さいね」
俺が小声で話しかけると
「はい、しかしこの子達は母猫と一緒にいるので独り立ち出来るまで安心していられます
ここできちんと猫としての勉強をしてから里子に出されれば、可愛がっていただけますよ」
波久礼は優しい顔を見せた。
俺も、少し子猫を触らせてもらう。
カシスより小さな頭の感触に、かなり頬が緩んでしまった。
「君、猫の扱い上手いね、家でも飼ってるの?」
クマさんが波久礼に話しかけた。
「いいえ、今は一緒に暮らしておりません
故あって猫とともに暮らせる環境ではないのです
けれども、以前は複数の猫と暮らしておりました
それは、暖かく優しく懐かしい、何ものにも代え難い大切な空間でした」
波久礼は、遠い目をして答える。
クマさんは何か察したのだろうか、優しい目で波久礼を見ると
「うちで良かったら、時々顔出してこの子達触りに来なよ
歓迎するから」
そう言ってくれる。
波久礼は顔を輝かせて
「ありがとうございます!
困っている猫達に居場所を提供する、熊谷殿は何と素晴らしい事をなさっているお方なのでしょう
本当に、尊敬に値するお方です
私など、困っている猫が居ても何も出来ず、己の無力さに打ちのめされるばかりなのに」
尊敬の眼差しでクマさんを見ていた。
「え?照れるな~そんな『殿』だなんて『クマさん』で良いってば
うん、里親探すのは大変だけど、僕は猫と人の良い出会いを作れる場所を作りたいんだ
そうだ、もし君が猫を保護したらうちでも里親探し協力するよ」
クマさんの言葉に
「本当ですか?」
波久礼の瞳の輝きは、神様を見る人のようになっている。
「「げっ!」」
俺とゲンさんは、同じ焦りの悲鳴を上げていた…
その後、1時間延長して猫を堪能した波久礼はうっとりとした目をしながら帰路につく。
駅まで波久礼を送った俺とゲンさんは、その後ろ姿を見送りながら
「荒木少年は帰らねーの?」
「せっかくここまで来たから、白久と夕飯食べてから帰ります」
ぼんやりとそんな会話を交わしていた。
「こーゆーの、何つーか知ってる?」
「…やぶ蛇?」
「ご名答」
ゲンさんはふう、と大きなため息を吐いた。
「まあ、ミイちゃんとこ帰って、2、3発どついてもらえば正気に戻ると思うけどさ
ミイちゃんとこは山の中だから、捨て猫なんて拾う機会無いだろうし…」
ゲンさんが苦笑気味に言う。
「波久礼って、あんなに猫が好きだったんだね
ビックリした」
俺も苦笑してしまった。
「波久礼はな、生前、複数の狼犬と猫と一緒に暮らしてたんだと
あいつにとって『家族』って言える存在は、飼い主は別として『狼犬』と『猫』なんだろうな
きっと犬の化生は『仲間』であっても『家族』じゃない
家族が居ないと寂しい時もあるんじゃないかと、クマさんとこ連れてったんだが…
何だかなー」
そんなゲンさんの言葉に
『仲間達と共にいても、ふいに孤独に襲われることもありました』
以前白久が言っていた言葉が蘇ってきてドキリとした。
「波久礼も、早く飼い主と巡り会えると良いのにね
そうしたらさ、きっと寂しさなんて感じないよ」
俺がポツリと口にした言葉に
「…そうだな
全ての化生が飼い主と巡り会って、幸せになってくれる事を望むよ」
ゲンさんはしみじみと返事を返す。
「いや、荒木少年は優しいね
よし、夕飯もオジサンがおごってやろう!
白久と一緒に俺の部屋に来いよ、ピザとろうぜ、ピザ!
ナガトと2人だと、色んな種類頼めないからよ」
ゲンさんがいつもの調子を取り戻して、ヒヒヒッと笑いながらそんな事を言い出した。
「ピザだと野菜が足りないんじゃないの?」
俺が意地悪く言うと
「ナガトが馬に食わせるほどサラダ作るから大丈夫だって
割引クーポンがあったな、あれまだ使えたっけか?
部屋に帰って確認だ!
少年も一緒に行こう、うちで白久の仕事が終わるのを待ってりゃいいよ
白久にメールしてやんな」
ゲンさんは陽気に言葉を返す。
「じゃ、お邪魔しよっかな
俺、今キャンペーンやってる山盛りシーフードミックス食べたい」
「俺はバジルチキンかなー、しかしテリマヨチキンも捨て難い
ハーフ&ハーフにして、何種類も堪能しようぜ」
俺達は、何を頼むか相談しあいながら影森マンションへの道を歩いていった。
『白久には、もう寂しい思いはさせたくない』
俺は、改めてそう思い、早く白久の顔が見たくなるのであった。
ええ、そうです、貴方達は至高の存在です
美しく、徳高き魂です
だからこそ、人は貴方達と触れ合って癒される」
波久礼が猫を撫でながら、何やら呟いていた。
気が付くと、波久礼の周りには数匹の猫が寄り添っている。
他の客が、羨望の眼差しでそれを見ていた。
「ちょ、何だよあいつ、猫プロじゃん
よくまあ、猫の自尊心をくすぐる言葉をベラベラと
俺たちより猫と意志疎通出来る分、あいつの方が有利ってことか」
ゲンさんが悔しそうな顔になる。
多分、俺も同じ顔になっていた…
「ゲンさん、ランチの用意出来ましたよ」
受付の女の人が俺達を呼びに入ってくる。
「よし、いったん休憩だ」
ゲンさんは抱いていた猫をそっと下ろすと、波久礼を呼びに行く。
ゲンさんと一緒に近付いてきた波久礼は、心ここにあらず、といった様子であった。
イートスペースでオムライス(ケチャップで肉球が描かれていた)を食べながら
「ゲン殿、ここは素晴らしい場所ですね
猫達は安心しきって人に身を任せ、人は猫に癒される
しかも、ここにいる猫達は保護された者も多い
苦難の末に、あのもの達は安住の地にたどり着けたのです」
波久礼はしみじみと口にする。
「お前…いつの間にそこまで猫と意志疎通を!」
ゲンさんが驚いた顔を向ける。
かく言う俺も、驚いていた。
「ゲン殿、わかりました、これが猫と意志を通わせるということなのだと」
波久礼の猫バカ度は、格段にアップしているように見えた。
「ゲンさん、ご新規さん連れてきてくれたんだって?」
そんな言葉と共に、1人の人物が近付いてくる。
波久礼ほどではないが、白久と同じくらい背が高くガッシリとした体つきのオジサンだ。
アゴヒゲを生やしてるけど、柔和な顔で笑っているから威圧感はあまりない。
「どうも初めまして、ここの店長の熊谷(くまがや)です
僕のことはゲンさんみたいに、『クマさん』とでも呼んでください
いやー、男の猫好きさんが増えるのは嬉しい限りだね」
ニコニコ笑う店長さんに
「初めまして、俺は野上荒木です」
俺は椅子から立ち上がり、慌てて頭を下げる。
同じく立ち上がった波久礼を見て
「お、君、大きいね!目線が上の人と話すのは久しぶりで新鮮だ
僕達みたいなデカブツが猫好きだと、驚かれるでしょ」
クマさんはハハハッと笑った。
波久礼は頬を染め、潤む瞳でクマさんの事を見ていた。
それは、初めて会った時、白久が俺に向けた表情によく似ていてギョッとする。
「貴方様がこちらの責任者の方でございますか
私は波久礼と申します
ここは、本当に素晴らしい場所ですね
猫達はここにとても満足しております
貴方様は、なんと尊い場所をお作りになったことか!」
波久礼が、感に堪えないといった調子で話し出した。
「そんなに気に入ってくれた?嬉しいね
よし、じゃあ君たちには特別に良いもの見せてあげよう
ちょっと待ってて」
クマさんはそう言って去っていく。
波久礼は熱い瞳でクマさんが去った方を見つめていた。
俺とゲンさんは顔を見合わせる。
ゲンさんにも俺と同じ疑念が胸の内に生じたはずであった。
「あ、っと、波久礼?
もしかして、お前、クマさんに…?」
ゲンさんが恐る恐る話しかけると
「はい、あの方を見た瞬間、魂が震えるのを感じました!」
波久礼は頬を染めてキッパリと口にした。
「クマさんと波久礼…それ、クドすぎんだろ」
呆然と、ゲンさんが呟く。
失礼だけど、俺も同じ事を考えていた。
「あの方は私と同じ魂…
同じ、猫に使えるべき運命の元に存在する魂です!」
「「は?」」
俺とゲンさんは、あまりの想定外の波久礼の言葉に言葉を失った。
波久礼の猫バカは、取り返しの付かないところまで一気に加速していた…
「お待たせ、君たちちょっとこっちに来てみて」
クマさんが笑いながら戻ってきて、俺達を手招いた。
付いていくとクマさんは『staf only』のシールが貼ってある扉を開け
「驚かさないよう、そっと入ってね」
そう小声で囁いた。
その言葉に従い俺達が静かに部屋に入ると、そこにはやっと目が開いたばかりの子猫が2匹、母猫と一緒に段ボール箱の中に居るのが見える。
「先月保護した猫なんだけど、妊娠しててね
子猫2匹しか入ってなかったせいかスリムでさ、生まれるまで気が付かなかったんだ」
クマさんが苦笑する。
「この子達は、ワクチン接種が終わったら店に出して里親募集するよ
ゲンさん、誰か良い人がいたら紹介してくれないかな」
優しく笑うクマさんに
「ああ、お客さんに聞いてみるか
そうだ、うちの店に里親募集のポスター貼って良いぜ」
ゲンさんが気さくに答えた。
「貴女の最高傑作ですね!何と愛らしい…」
気が付くと、波久礼は優しく母猫に話しかけていた。
「抱かせていただいてかまいませんか?
大丈夫、絶対危害は加えません」
波久礼の言葉に、母猫は長い尻尾をパタリと振った。
波久礼が大きな手で2匹の子猫を抱き上げる。
子猫達はユラユラと不安定に体を揺らしながら、大人しく波久礼の手の中に収まっていた。
波久礼が指の腹でそっと子猫の頭を撫でると
「ミィー」
か細い声で泣いている。
「最初に見たカシスより小さいね」
俺が小声で話しかけると
「はい、しかしこの子達は母猫と一緒にいるので独り立ち出来るまで安心していられます
ここできちんと猫としての勉強をしてから里子に出されれば、可愛がっていただけますよ」
波久礼は優しい顔を見せた。
俺も、少し子猫を触らせてもらう。
カシスより小さな頭の感触に、かなり頬が緩んでしまった。
「君、猫の扱い上手いね、家でも飼ってるの?」
クマさんが波久礼に話しかけた。
「いいえ、今は一緒に暮らしておりません
故あって猫とともに暮らせる環境ではないのです
けれども、以前は複数の猫と暮らしておりました
それは、暖かく優しく懐かしい、何ものにも代え難い大切な空間でした」
波久礼は、遠い目をして答える。
クマさんは何か察したのだろうか、優しい目で波久礼を見ると
「うちで良かったら、時々顔出してこの子達触りに来なよ
歓迎するから」
そう言ってくれる。
波久礼は顔を輝かせて
「ありがとうございます!
困っている猫達に居場所を提供する、熊谷殿は何と素晴らしい事をなさっているお方なのでしょう
本当に、尊敬に値するお方です
私など、困っている猫が居ても何も出来ず、己の無力さに打ちのめされるばかりなのに」
尊敬の眼差しでクマさんを見ていた。
「え?照れるな~そんな『殿』だなんて『クマさん』で良いってば
うん、里親探すのは大変だけど、僕は猫と人の良い出会いを作れる場所を作りたいんだ
そうだ、もし君が猫を保護したらうちでも里親探し協力するよ」
クマさんの言葉に
「本当ですか?」
波久礼の瞳の輝きは、神様を見る人のようになっている。
「「げっ!」」
俺とゲンさんは、同じ焦りの悲鳴を上げていた…
その後、1時間延長して猫を堪能した波久礼はうっとりとした目をしながら帰路につく。
駅まで波久礼を送った俺とゲンさんは、その後ろ姿を見送りながら
「荒木少年は帰らねーの?」
「せっかくここまで来たから、白久と夕飯食べてから帰ります」
ぼんやりとそんな会話を交わしていた。
「こーゆーの、何つーか知ってる?」
「…やぶ蛇?」
「ご名答」
ゲンさんはふう、と大きなため息を吐いた。
「まあ、ミイちゃんとこ帰って、2、3発どついてもらえば正気に戻ると思うけどさ
ミイちゃんとこは山の中だから、捨て猫なんて拾う機会無いだろうし…」
ゲンさんが苦笑気味に言う。
「波久礼って、あんなに猫が好きだったんだね
ビックリした」
俺も苦笑してしまった。
「波久礼はな、生前、複数の狼犬と猫と一緒に暮らしてたんだと
あいつにとって『家族』って言える存在は、飼い主は別として『狼犬』と『猫』なんだろうな
きっと犬の化生は『仲間』であっても『家族』じゃない
家族が居ないと寂しい時もあるんじゃないかと、クマさんとこ連れてったんだが…
何だかなー」
そんなゲンさんの言葉に
『仲間達と共にいても、ふいに孤独に襲われることもありました』
以前白久が言っていた言葉が蘇ってきてドキリとした。
「波久礼も、早く飼い主と巡り会えると良いのにね
そうしたらさ、きっと寂しさなんて感じないよ」
俺がポツリと口にした言葉に
「…そうだな
全ての化生が飼い主と巡り会って、幸せになってくれる事を望むよ」
ゲンさんはしみじみと返事を返す。
「いや、荒木少年は優しいね
よし、夕飯もオジサンがおごってやろう!
白久と一緒に俺の部屋に来いよ、ピザとろうぜ、ピザ!
ナガトと2人だと、色んな種類頼めないからよ」
ゲンさんがいつもの調子を取り戻して、ヒヒヒッと笑いながらそんな事を言い出した。
「ピザだと野菜が足りないんじゃないの?」
俺が意地悪く言うと
「ナガトが馬に食わせるほどサラダ作るから大丈夫だって
割引クーポンがあったな、あれまだ使えたっけか?
部屋に帰って確認だ!
少年も一緒に行こう、うちで白久の仕事が終わるのを待ってりゃいいよ
白久にメールしてやんな」
ゲンさんは陽気に言葉を返す。
「じゃ、お邪魔しよっかな
俺、今キャンペーンやってる山盛りシーフードミックス食べたい」
「俺はバジルチキンかなー、しかしテリマヨチキンも捨て難い
ハーフ&ハーフにして、何種類も堪能しようぜ」
俺達は、何を頼むか相談しあいながら影森マンションへの道を歩いていった。
『白久には、もう寂しい思いはさせたくない』
俺は、改めてそう思い、早く白久の顔が見たくなるのであった。