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しっぽや(No.11~22)

「クロ、クロ、どうしましたか?」
「シロ、あのお方が亡くなったよ…」
白久の問いかけにボンヤリ答え、僕の意識が浮上する。
控え室のソファーで、うたた寝してしまっていたようだ。
顔に手をやると、頬が濡れている。
「悪い、ちょっと夢見が悪かったみたいだ」
僕は乱暴に涙を拭うと、TVのチャンネルを変えた。
特別番組の案内を見て、白久には僕の涙の原因を悟られているに違いなかったが、彼は何も聞かなかった。

「お、美味しそうなお取り寄せ
 今は、家にいながら全国の美味しい物が食べられて良いよね~」
僕は努めて明るく、そう言葉を発する。
「そうですね、今度何か注文してみましょうか?
 荒木にも召し上がっていただきたいし」
白久は少し笑いながら、そう提案する。
「僕は荒木のおまけか
 長瀞のお弁当もゲンの残り物だったし
 まあいいよ、美味しい物が食べられるなら飼い主のついでだってさ
 しかしそうなると、あのバカ犬もグルメ気取って色々注文しそうだな
 バブルの申し子め、今はそんな時代じゃないっていうのに」
僕が肩をすくめると、白久も苦笑する。

僕はソファーから立ち上がり、控え室の扉を開けた。
「依頼人は来たかい?」
所長机の椅子に座る長瀞に声をかけると
「ミニチュアダックスの依頼が1件きたので、空に出てもらってます」
そんな答えが返ってきた。
「そうかありがとう、じゃ、受付変わろう
 長瀞は控え室で休んでて
 お弁当美味しかったよ、ごちそうさま
 ゲンは幸せ者だよね」
僕の言葉に、長瀞は照れた顔で微笑んで控え室に消えていく。


『和銅、今は「何でも屋」なんてやらなくても、もっと僕達に適した仕事があるのです
 他人に頼んでまで、迷子になった犬や猫を探したい人がいる
 人と獣の心の距離が近くなったのかな
 そういえば、猫の化生が現れるようになったのは戦後暫くたってからだったっけ』
僕は心の中で、あのお方にそう話しかける。

『和銅、貴方が守ったこの国は、こんなにも平和になりました
 貴方が帰っていらしても、もう死地に行かなくて済む
 だから和銅、どうか早くお帰りになってください
 僕は、必ず貴方を探し出します』
胸の中に確かに存在する『飼い主』に話しかける。


コンコン

ノックとともに、せっぱ詰まった年輩の女性の気配がやってきた。
『また、小型犬か猫かな…』
そんな分析をしながら僕は口を開く。

「どうぞ、お入りください
 ペット探偵『しっぽや』にようこそ
 ペットに対するあらゆるトラブル解消を心がけております
 お気軽に何でもご相談ください!」


『和銅、貴方を探し出せるその日まで、僕はいつまでだって頑張って生きていきます!』
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