しっぽや(No.1~10)
部屋に差した日の光に、俺の意識が浮上する。
クロスケがいなくなってから、俺は久しぶりに熟睡した気がしていた。
「あれ…?」
ベッドの中には俺しか居なかった。
「白久?」
不安を感じ少し大きな声で名前を呼ぶと
「荒木、起きましたか、よろしければシャワーをお使いください
すぐに朝食をお持ちします」
既にスーツを着込んでいる白久が姿を見せた。
『夢じゃなかった…』
その姿にホッとするが、昨夜の自分の行動に顔が火照るのを感じた。
シャワーを浴びると、少し頭がスッキリしてくる。
『やばい!これって無断外泊したことになるじゃん』
やっとそのことに思い至り、着替えを済ますと鞄の中に入れっぱなしにしていたスマホを取り出した。
案の定、両親からの電話とメールの着歴が、凄いことになっていた。
帰ったら、大目玉を食らうことは間違い無さそうだ。
テーブルには2人分の食事が用意されているが、白久の姿は無かった。
クロスケのお骨は、テレビが置いてある棚の上に移動している。
白久は誰かと電話していた。
「はい…、はい…、それは会った時にでも直接…
まあ、それは覚悟の上ですよ、それでは後ほど」
受話器を置いた白久は俺が見ている事に気がつくと、優しい微笑みを浮かべ
「昨日はほとんど何も食べていないでしょう?
少しは何か食べないと、体がまいってしまいますよ
お口にあうと良いのですが」
そう言って正座してテーブルにつく。
俺もそれに習って正座すると、用意されている1人用の土鍋の蓋を開けた。
そこには卵のお粥が入っている。
暖かいお粥は塩と卵の優しい味がして、体中に染み渡るように美味しかった。
「帰る前に、一緒に事務所に寄っていただけますか?」
白久にそう言われると体に緊張が走る。
「さっきの電話、黒谷さん?
俺、記憶操作とかされちゃうの?」
堅い声で聞く俺に
「大丈夫、そんなことはさせません
私が処分を受ければ済むことです」
白久は安心させるよう微笑みながら答えた。
「処分って、そんな…」
俺のわがままのせいで、白久にそんなことはさせられない。
「大丈夫です、荒木に愛してもらえているだけで、私はこの身になったかいがありました」
白久の微笑みが、俺には悲しかった。
クロスケのお骨と首輪を持って白久の部屋を後にし、2人でしっぽやの事務所に入る。
「シロ、同伴出勤なんて、羨ましいねー」
黒谷がニヤニヤ笑いながら、俺と白久を見つめていた。
白久は俺を庇うように進み出て
「クロ、正体を打ち明けたのは、私の独断です
荒木はそれを吹聴して回るような者ではありません
私はどんな処分も受け入れます
どうか荒木には咎め無きよう、お願いします」
そう言って頭を下げた。
俺も慌てて
「俺、誰にもここのこと言わないから、白久を処分しないで!」
そう叫んでいた。
「あーあ、見せつけてくれるね、独り身には目の毒だよ」
黒谷はおどけたように言うと
「シロの処分はもう出てる、今後給料2割カットな
で、そっちの坊や、バイトしてないんだろ?
シロのカットした給料やるから、うちでバイトしなよ
おっと違うな『うちの内情をどこかにバラしてないか監視する、定期的にこちらに来い。これは命令だ』」
最後は厳しい口調であるものの、その目は笑っていた。
「僕は雇われ所長だからね、上が決定した事に従うまでさ
僕としては、給料は3割カットにしたいけど
だってシロあんまり買い物しないから、2割カットじゃ痛くもないだろ?」
黒谷は肩を竦めてみせた。
「あ…」
俺と白久は顔を見合わせる。
「坊や、そのでっかいワンコ、飼ってやってくれ
そいつは十分満足出来る忠犬だと思うよ
で、ここでのその犬の飼育もバイトのうちだから、キチンと世話するように」
黒谷の言葉に
「はい!」
俺は元気良く答えていた。
俺は今年の春と夏の境に、弟のように可愛がっていた猫を亡くした。
けれども、バイト先と大きくて忠誠心の強い犬と、大切な恋人を手に入れた。
クロスケがいなくなってから、俺は久しぶりに熟睡した気がしていた。
「あれ…?」
ベッドの中には俺しか居なかった。
「白久?」
不安を感じ少し大きな声で名前を呼ぶと
「荒木、起きましたか、よろしければシャワーをお使いください
すぐに朝食をお持ちします」
既にスーツを着込んでいる白久が姿を見せた。
『夢じゃなかった…』
その姿にホッとするが、昨夜の自分の行動に顔が火照るのを感じた。
シャワーを浴びると、少し頭がスッキリしてくる。
『やばい!これって無断外泊したことになるじゃん』
やっとそのことに思い至り、着替えを済ますと鞄の中に入れっぱなしにしていたスマホを取り出した。
案の定、両親からの電話とメールの着歴が、凄いことになっていた。
帰ったら、大目玉を食らうことは間違い無さそうだ。
テーブルには2人分の食事が用意されているが、白久の姿は無かった。
クロスケのお骨は、テレビが置いてある棚の上に移動している。
白久は誰かと電話していた。
「はい…、はい…、それは会った時にでも直接…
まあ、それは覚悟の上ですよ、それでは後ほど」
受話器を置いた白久は俺が見ている事に気がつくと、優しい微笑みを浮かべ
「昨日はほとんど何も食べていないでしょう?
少しは何か食べないと、体がまいってしまいますよ
お口にあうと良いのですが」
そう言って正座してテーブルにつく。
俺もそれに習って正座すると、用意されている1人用の土鍋の蓋を開けた。
そこには卵のお粥が入っている。
暖かいお粥は塩と卵の優しい味がして、体中に染み渡るように美味しかった。
「帰る前に、一緒に事務所に寄っていただけますか?」
白久にそう言われると体に緊張が走る。
「さっきの電話、黒谷さん?
俺、記憶操作とかされちゃうの?」
堅い声で聞く俺に
「大丈夫、そんなことはさせません
私が処分を受ければ済むことです」
白久は安心させるよう微笑みながら答えた。
「処分って、そんな…」
俺のわがままのせいで、白久にそんなことはさせられない。
「大丈夫です、荒木に愛してもらえているだけで、私はこの身になったかいがありました」
白久の微笑みが、俺には悲しかった。
クロスケのお骨と首輪を持って白久の部屋を後にし、2人でしっぽやの事務所に入る。
「シロ、同伴出勤なんて、羨ましいねー」
黒谷がニヤニヤ笑いながら、俺と白久を見つめていた。
白久は俺を庇うように進み出て
「クロ、正体を打ち明けたのは、私の独断です
荒木はそれを吹聴して回るような者ではありません
私はどんな処分も受け入れます
どうか荒木には咎め無きよう、お願いします」
そう言って頭を下げた。
俺も慌てて
「俺、誰にもここのこと言わないから、白久を処分しないで!」
そう叫んでいた。
「あーあ、見せつけてくれるね、独り身には目の毒だよ」
黒谷はおどけたように言うと
「シロの処分はもう出てる、今後給料2割カットな
で、そっちの坊や、バイトしてないんだろ?
シロのカットした給料やるから、うちでバイトしなよ
おっと違うな『うちの内情をどこかにバラしてないか監視する、定期的にこちらに来い。これは命令だ』」
最後は厳しい口調であるものの、その目は笑っていた。
「僕は雇われ所長だからね、上が決定した事に従うまでさ
僕としては、給料は3割カットにしたいけど
だってシロあんまり買い物しないから、2割カットじゃ痛くもないだろ?」
黒谷は肩を竦めてみせた。
「あ…」
俺と白久は顔を見合わせる。
「坊や、そのでっかいワンコ、飼ってやってくれ
そいつは十分満足出来る忠犬だと思うよ
で、ここでのその犬の飼育もバイトのうちだから、キチンと世話するように」
黒谷の言葉に
「はい!」
俺は元気良く答えていた。
俺は今年の春と夏の境に、弟のように可愛がっていた猫を亡くした。
けれども、バイト先と大きくて忠誠心の強い犬と、大切な恋人を手に入れた。