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しっぽや(No.11~22)

side〈KUROYA〉

コンコン

ノックとともに扉が開き、ペットケージを手にした長瀞がしっぽや事務所に帰ってきた。
「お帰り、さすがうちのNo.1!
 今回、1時間かからなかったねー」
僕の言葉に長瀞は少し照れた顔をする。
「No.1と言っても、私の得意は長毛種猫限定ですよ」
長瀞は謙遜してそう言うが、生前、複数の猫と暮らしていた彼は猫とのコミュニケーション能力に長(た)けているため、実際は短毛種であろうと捜索能力は高いのだ。

「黒谷、お昼は食べたのですか?
 受付は私が変わりますから、控え室で召し上がってください
 ゲンに作った残り物ですが、お弁当を作ってきたので、どうぞ
 夏休み中は白久が荒木とお昼を食べに行ってしまう事が多いので、寂しいでしょう」
クスリと笑ってそんな事を言う長瀞に
「皆の羨望を集めそうだね、料理上手の長瀞の手作り弁当なんて!
 ありがたくちょうだいするよ」
僕は大仰に答えて所員控え室に入っていった。

控え室のソファーでは、数人の猫の化生がウツラウツラとしている。
寝ているように見えるが、これできちんと周りを把握しているのだ。
冷蔵庫から弁当を取り出しレンジで暖め直すと、麦茶を用意してそれを食べ始める。
『白米を、毎日食べられるなんて』
未だに、ご飯時にはそんな事を思ってしまう。
『テレビを見られるのも、ありがたいもんだ
 ラジオもありがたかったけど、想像の限界があるからね』
控え室では音を小さくしたテレビがつけっぱなしになっている。
知識に偏りが出ることもあるが、『人』というものを学ぶには『テレビ』は良い教科書となってくれた。
テレビからはこの時期特有の番組紹介が流れている。
『今年も、この季節になったか…』
それは、太平洋戦争、第二次世界大戦を舞台にした特別番組の紹介であった。
そんな映像を見ると、僕はどうしても『あのお方』を思い出してしまう。

『和銅(わどう)、貴方の守ったこの国の今は、貴方にはどう映るのでしょうか』

食べ終わった弁当箱を流しで洗って水切りカゴに置くと、僕はソファーに座り直し、暫し過去に想いを馳せた。
今でも鮮明に思い出せる僕の『あのお方』
それは、僕にとっては2人目の『あのお方』であった。
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