しっぽや(No.11~22)
「空!ストップ!!」
カズハさんが、鋭い声を上げる。
耳まで真っ赤になって、少し涙目になっていた。
その声で、空はピタリと口を閉る。
「ステイ!」
空はそのまま硬直したように動きを止めた。
「シット!」
カズハさんの命令で、空がソファーにストンと座った。
「ダウン!」
空はソファーに寝そべりながら、期待に満ちた瞳でカズハさんを見つめている。
「空、貴方って人は…」
肩を震わせるカズハさんに
「俺、今、ちゃんと命令きけただろ?」
空は得意げな顔を向けていた。
「人前でそういうことを言ってはいけないと教えたでしょう!」
カズハさんの剣幕に
「だって、白久は化生だし…」
空はオドオドと言い訳をする。
「ここに荒木君がいるでしょ!さっきまではゲンさんがいたし!」
「あ…」
カズハさんに言われ、空がハッとした顔になった。
「飼い主でも、ダメ?」
上目遣いに確認する空に
「ダメに決まってます!」
カズハさんがピシャリと言い放つ。
怒られている空を見て、白久も不安げな顔を俺に向けてきた。
「あの…いけなかったでしょうか…?」
オズオズと言う白久に、俺はコクリと頷いた。
『これって、人が「うちの○○ちゃんが~」とか自慢するのと一緒なんだろうけど…
話の中身がシャレにならない!』
俺も多分、耳まで真っ赤になっているだろうことを自覚する。
「申し訳ございません!」
慌てて謝ってくる白久に、どう返事をしたものか悩んでしまう。
『今日この後、ゲンさんと顔合わせ辛い…』
溜め息をつく俺に、白久は首をすくめた。
カズハさんを見ると
「あれは僕たちだけの秘密です、軽々しく他の人に教えてはいけません
わかりますか?」
毅然とした態度で空を諭している。
コクコクと頷く空の頭を撫でて
「空、グッボーイ」
カズハさんは優しく微笑んだ。
『きちんと叱ってきちんと誉める…やっぱり犬のプロ!扱い上手いな~』
俺はカズハさんを尊敬してしまう。
「その…、俺達も、ね…?」
カズハさん達を見ながらそう白久に注意してみた。
「はい!私達だけの秘密です!」
嬉しそうに答える白久が、とても可愛かった。
「そのバカ犬に素直に言うこときかせるなんて、カズハ君は凄いねー」
黒谷の言葉に、俺達は自分たちのいる場所を思い出してハッとする。
『依頼人が来なくて良かった!』
「すいません!業務のお邪魔をしてしまって!」
カズハさんがペコペコと頭を下げだした。
「あ、じゃあ、俺達はファミレス行こ
カズハさん、また後で」
俺はそう言うと、白久を伴って事務所を後にする。
階段を下りながら
「自慢してくれるのは嬉しいけど…、してる時の話は他の化生に言っちゃだめだからね」
俺が釘を刺すと
「はい!」
白久は神妙な顔で素直に頷いた。
それから俺達はファミレスでランチを食べ(新メニューは美味しかった)仕事に戻る。
書類整理をしたり、保護された犬を送っていったりしているうちに、仕事終了時間になった。
後処理を黒谷に任せ、事務所を出た俺と白久はスーパーで買い物をする。
『酒のつまみって何だろ?さきイカとか、チータラ?
友達と集まるんなら、ポテチとポッキーでもあれば十分なんだけど』
悩みながらお菓子コーナーと珍味コーナーを行ったり来たりして、レジに向かう。
白久のために『あられ』も買ってしまったのは、我ながら親バカだと思ってしまった。
買い物を終え影森マンションに向かうと、俺達は専用エレベーターに乗り込んだ。
ゲンさんの部屋はしっぽや専用ゾーンの始まりの階で、白久の部屋より随分と広かった。
と言うか、リビングが広いのだ。
その広いリビングに、テーブルが2つ繋げて並べてある。
「皆で集まってワイワイやれるように、色々特注したんだ!」
ゲンさんは子供のように笑いながら、教えてくれる。
俺はゲンさんに、白久と空の会話内容をどの程度詳しく聞いたのかは、怖くて確認できなかった…
それはカズハさんも同じ様で、なんだかギクシャクした態度で買ってきた荷物をテーブルに置いている。
察したゲンさんが
「聞かなかったことにするから、あんま意識しないでな」
そう、コソッと呟いてくれた。
「野上は未成年なんだから、酒飲んじゃダメだぞ!
カズハさんは、あんま飲まない人なんですってね
じゃ、今日は俺とゲンさんだけで、これ開けちゃいましょう!」
事件を知らない中川先生が、テーブルに飲み物を並べながら爽やかにそんな事を言った。
「空にはカフェオレ買ってきたよ、白久も飲む?
俺はミルク買ってもらったんだ
荒木とカズハにはコーラとか、オレンジジュース
麦茶とポカリもあるよ」
羽生が買ってきた飲み物の説明をし始める。
中川先生・羽生組のミッションは飲み物だったようだ。
羽生は『買い物』という行為が楽しくてしかたないらしい。
人間の知識が増えていくのが嬉しいからだと白久が言っていた。
「暖かい飲み物が欲しいときはお茶を淹れますので、遠慮なく言ってくださいね
緑茶、紅茶、中国茶、コーヒー、色々ありますから
体に良いと言うので、セント・ジョンズ・ワートのお茶もございますよ」
長瀞さんが手作り料理の皿を並べながら微笑んだ。
「へえ、西洋弟切草のお茶なんて、珍しいね」
感心した風の中川先生の言葉に
「長瀞!俺にもそのお茶教えて!」
張り合うように羽生が叫ぶ。
パーティーらしく、和気藹々と言った雰囲気になってきた。
「じゃーん、本日のメインディッシュー!」
ゲンさんが大きなお皿をテーブルの真ん中にドンと置く。
それには、大量の刺身が盛りつけられていた。
「ゲンさん、これ、すごく高かったんじゃ…」
中川先生が焦ったように口を開く。
「そう見えんだろ?料亭で頼めば2万くらい取られるんじゃねーかな
でもこれ、ナガトが作ってくれたから4分の1くらいで済んでんだ
って、金額言うと有りがたみなくなるな」
ゲンさんがヒヒヒッと笑う。
「今日は鰺もイカも、刺身で食べられるものが1匹98円でしたから
マグロとサーモンの柵は特売でしたし
ツマも、自分で切れば安上がりです」
長瀞さんは照れたように笑った。
「刺身、自分で作れるなんて凄い!」
思わず俺が叫ぶと
「長瀞、今度私にも切り方を教えてください」
白久がすかさず口を開いた。
テーブルの上が、料理の皿とお菓子類、飲み物入りのコップでいっぱいになった。
「じゃ、そろそろ新規飼い主歓迎会を始めたいと思います」
ゲンさんがわざとらしくコホンと咳をしながらそう切り出した。
「ま、小難しいことは置いといて、しっぽや世界にようこそ
末永く化生を可愛がってくれよな!
化生達の幸せに、乾杯!」
ゲンさんがビールの入ったコップを持ち上げると
「人の幸せに、乾杯!」
長瀞さんが麦茶の入ったコップを持ち上げる。
「「乾杯!」」
俺達は飲み物の入ったコップを人、化生の区別無く、皆で軽く触れ合わせていった。
ワイワイと和やかな空気の中、パーティーが始まった。
どれから食べようか迷うほど、テーブルの上には料理が並んでいる。
取り分け用の小皿に色々積み上げている俺に
「若人チョイスのお菓子、俺が食ってたのとあんま変わんねーな
やっぱ、良い物ってのは長く残るんだなー
そして、ツマミチョイスが何気に昭和なのは親父さんの影響?」
サキイカを食べながら、ゲンさんが俺の隣に移動してきて話しかけてくる。
「ゲンさんに合わせて選んだら、そうなったんだ」
俺の言葉に
「言うね、平成っ子!チータラを初めて食ったときの衝撃を知らないガキがナマイキな!」
ゲンさんはヒヒヒッと笑って、俺の額を指でこずいた。
カズハさんが、鋭い声を上げる。
耳まで真っ赤になって、少し涙目になっていた。
その声で、空はピタリと口を閉る。
「ステイ!」
空はそのまま硬直したように動きを止めた。
「シット!」
カズハさんの命令で、空がソファーにストンと座った。
「ダウン!」
空はソファーに寝そべりながら、期待に満ちた瞳でカズハさんを見つめている。
「空、貴方って人は…」
肩を震わせるカズハさんに
「俺、今、ちゃんと命令きけただろ?」
空は得意げな顔を向けていた。
「人前でそういうことを言ってはいけないと教えたでしょう!」
カズハさんの剣幕に
「だって、白久は化生だし…」
空はオドオドと言い訳をする。
「ここに荒木君がいるでしょ!さっきまではゲンさんがいたし!」
「あ…」
カズハさんに言われ、空がハッとした顔になった。
「飼い主でも、ダメ?」
上目遣いに確認する空に
「ダメに決まってます!」
カズハさんがピシャリと言い放つ。
怒られている空を見て、白久も不安げな顔を俺に向けてきた。
「あの…いけなかったでしょうか…?」
オズオズと言う白久に、俺はコクリと頷いた。
『これって、人が「うちの○○ちゃんが~」とか自慢するのと一緒なんだろうけど…
話の中身がシャレにならない!』
俺も多分、耳まで真っ赤になっているだろうことを自覚する。
「申し訳ございません!」
慌てて謝ってくる白久に、どう返事をしたものか悩んでしまう。
『今日この後、ゲンさんと顔合わせ辛い…』
溜め息をつく俺に、白久は首をすくめた。
カズハさんを見ると
「あれは僕たちだけの秘密です、軽々しく他の人に教えてはいけません
わかりますか?」
毅然とした態度で空を諭している。
コクコクと頷く空の頭を撫でて
「空、グッボーイ」
カズハさんは優しく微笑んだ。
『きちんと叱ってきちんと誉める…やっぱり犬のプロ!扱い上手いな~』
俺はカズハさんを尊敬してしまう。
「その…、俺達も、ね…?」
カズハさん達を見ながらそう白久に注意してみた。
「はい!私達だけの秘密です!」
嬉しそうに答える白久が、とても可愛かった。
「そのバカ犬に素直に言うこときかせるなんて、カズハ君は凄いねー」
黒谷の言葉に、俺達は自分たちのいる場所を思い出してハッとする。
『依頼人が来なくて良かった!』
「すいません!業務のお邪魔をしてしまって!」
カズハさんがペコペコと頭を下げだした。
「あ、じゃあ、俺達はファミレス行こ
カズハさん、また後で」
俺はそう言うと、白久を伴って事務所を後にする。
階段を下りながら
「自慢してくれるのは嬉しいけど…、してる時の話は他の化生に言っちゃだめだからね」
俺が釘を刺すと
「はい!」
白久は神妙な顔で素直に頷いた。
それから俺達はファミレスでランチを食べ(新メニューは美味しかった)仕事に戻る。
書類整理をしたり、保護された犬を送っていったりしているうちに、仕事終了時間になった。
後処理を黒谷に任せ、事務所を出た俺と白久はスーパーで買い物をする。
『酒のつまみって何だろ?さきイカとか、チータラ?
友達と集まるんなら、ポテチとポッキーでもあれば十分なんだけど』
悩みながらお菓子コーナーと珍味コーナーを行ったり来たりして、レジに向かう。
白久のために『あられ』も買ってしまったのは、我ながら親バカだと思ってしまった。
買い物を終え影森マンションに向かうと、俺達は専用エレベーターに乗り込んだ。
ゲンさんの部屋はしっぽや専用ゾーンの始まりの階で、白久の部屋より随分と広かった。
と言うか、リビングが広いのだ。
その広いリビングに、テーブルが2つ繋げて並べてある。
「皆で集まってワイワイやれるように、色々特注したんだ!」
ゲンさんは子供のように笑いながら、教えてくれる。
俺はゲンさんに、白久と空の会話内容をどの程度詳しく聞いたのかは、怖くて確認できなかった…
それはカズハさんも同じ様で、なんだかギクシャクした態度で買ってきた荷物をテーブルに置いている。
察したゲンさんが
「聞かなかったことにするから、あんま意識しないでな」
そう、コソッと呟いてくれた。
「野上は未成年なんだから、酒飲んじゃダメだぞ!
カズハさんは、あんま飲まない人なんですってね
じゃ、今日は俺とゲンさんだけで、これ開けちゃいましょう!」
事件を知らない中川先生が、テーブルに飲み物を並べながら爽やかにそんな事を言った。
「空にはカフェオレ買ってきたよ、白久も飲む?
俺はミルク買ってもらったんだ
荒木とカズハにはコーラとか、オレンジジュース
麦茶とポカリもあるよ」
羽生が買ってきた飲み物の説明をし始める。
中川先生・羽生組のミッションは飲み物だったようだ。
羽生は『買い物』という行為が楽しくてしかたないらしい。
人間の知識が増えていくのが嬉しいからだと白久が言っていた。
「暖かい飲み物が欲しいときはお茶を淹れますので、遠慮なく言ってくださいね
緑茶、紅茶、中国茶、コーヒー、色々ありますから
体に良いと言うので、セント・ジョンズ・ワートのお茶もございますよ」
長瀞さんが手作り料理の皿を並べながら微笑んだ。
「へえ、西洋弟切草のお茶なんて、珍しいね」
感心した風の中川先生の言葉に
「長瀞!俺にもそのお茶教えて!」
張り合うように羽生が叫ぶ。
パーティーらしく、和気藹々と言った雰囲気になってきた。
「じゃーん、本日のメインディッシュー!」
ゲンさんが大きなお皿をテーブルの真ん中にドンと置く。
それには、大量の刺身が盛りつけられていた。
「ゲンさん、これ、すごく高かったんじゃ…」
中川先生が焦ったように口を開く。
「そう見えんだろ?料亭で頼めば2万くらい取られるんじゃねーかな
でもこれ、ナガトが作ってくれたから4分の1くらいで済んでんだ
って、金額言うと有りがたみなくなるな」
ゲンさんがヒヒヒッと笑う。
「今日は鰺もイカも、刺身で食べられるものが1匹98円でしたから
マグロとサーモンの柵は特売でしたし
ツマも、自分で切れば安上がりです」
長瀞さんは照れたように笑った。
「刺身、自分で作れるなんて凄い!」
思わず俺が叫ぶと
「長瀞、今度私にも切り方を教えてください」
白久がすかさず口を開いた。
テーブルの上が、料理の皿とお菓子類、飲み物入りのコップでいっぱいになった。
「じゃ、そろそろ新規飼い主歓迎会を始めたいと思います」
ゲンさんがわざとらしくコホンと咳をしながらそう切り出した。
「ま、小難しいことは置いといて、しっぽや世界にようこそ
末永く化生を可愛がってくれよな!
化生達の幸せに、乾杯!」
ゲンさんがビールの入ったコップを持ち上げると
「人の幸せに、乾杯!」
長瀞さんが麦茶の入ったコップを持ち上げる。
「「乾杯!」」
俺達は飲み物の入ったコップを人、化生の区別無く、皆で軽く触れ合わせていった。
ワイワイと和やかな空気の中、パーティーが始まった。
どれから食べようか迷うほど、テーブルの上には料理が並んでいる。
取り分け用の小皿に色々積み上げている俺に
「若人チョイスのお菓子、俺が食ってたのとあんま変わんねーな
やっぱ、良い物ってのは長く残るんだなー
そして、ツマミチョイスが何気に昭和なのは親父さんの影響?」
サキイカを食べながら、ゲンさんが俺の隣に移動してきて話しかけてくる。
「ゲンさんに合わせて選んだら、そうなったんだ」
俺の言葉に
「言うね、平成っ子!チータラを初めて食ったときの衝撃を知らないガキがナマイキな!」
ゲンさんはヒヒヒッと笑って、俺の額を指でこずいた。