しっぽや(No.198~224)
山道は道幅の狭さに難儀したけれど、特に問題なくお屋敷の前まで来れた。
荒木も
「何だか普通に来れたね、そもそも一本道だったし
本当に目眩ましとかしてあったのかな」
拍子抜けしたようにそう呟いていた。
今回は道の駅で時間を大幅に食ってしまったので、到着したのは夕方だった。
夏なので辺りはまだ明るいが街灯など無い山の中のこと、暗くなるのにさほど時間はかからなそうだ。
『夜道を走る羽目にならなくて良かった』
と、俺は胸をなで下ろしていた。
門の前で出迎えてくれたミイちゃんの案内に従い、広大な庭に車を停めさせてもらう。
車から降りた俺達に
「ようこそおいでくださいました、ゆっくり楽しんでいってくださいね」
ミイちゃんが笑顔で言ってくれた。
「「お世話になります」」
俺と荒木は改まって頭を下げる。
「今回は中々見られないものが見られると思います
本当に世の中、無駄なことが無いわ
また、お世話になりそうよ」
ミイちゃんは荒木に意味ありげな視線を向けたが、荒木にはその理由がサッパリわからないようだった。
「今回は飼い主と『道の駅』なる場所に寄ってきたんだ
美味しいものが色々売ってて、最高の場所だったよ
犬連れの人達もいてね、現代の犬は飼い主と一緒にあんな良い旅が出来るのかとビックリした
時代は変わるもんだ」
「皆にお土産を沢山買ってきましたから、運ぶのを手伝ってください
町のお店では売っていないものが一杯あって、つい羽目を外してしまいました」
白久の言葉でソワソワと様子を伺っていた武衆の犬達が群がってくる。
彼らによって、車に積んであった大量のビニール袋や紙袋はあっという間に持ち出されお屋敷内部に消えていった。
「それでは、お部屋にご案内いたしますね」
ミイちゃんの言葉で俺と黒谷は着替えの入ったバッグを持って母屋に、荒木と白久は離れに向かっていった。
案内された和室は縁側が付いていて、庭を楽しむことが出来るちょっとした旅館のような部屋だ。
座卓の上にはポットやお茶を煎れる道具が置いてあり、ますます旅館ぽかった。
「調理場の冷蔵庫には麦茶が冷えています、少し面倒ですが自由に取りに行ってください
お布団はそちらの押入の中に入ってますので、お使いください
慣れない山道の運転でお疲れでしょう、まずは温泉で汗を流して、落ち着いた頃に夕飯にしましょう
いただいたお土産は、食後のデザートで皆で食べましょうね
ご当地銘菓、楽しみだわ」
ミイちゃんはウキウキしながら去っていった。
荷物を置いて着替えやタオルを持ち温泉に向かう。
途中で荒木と白久と行き合ったので、一緒に行くことにした。
「今が日が長い夏で助かったぜ、夜の山道だったら流石に怖かった
夜の山道で事故ったモッチーのこと笑えないな」
「到着時間考えて、朝は早めに出ないとダメだな
道の駅に寄るの楽しかったからまた行きたいし
でも、雪で閉ざされそうで冬は来れないな
夏の避暑地として楽しませてもらうに限るんじゃないか?
ここで生活してる皆、大変そう」
俺と荒木の会話に
「ハスキーや狼犬は雪に強いから大丈夫でしょう、ソシオは難儀していたようですが
和犬はガッツで乗り切ります」
黒谷は拳を握って答えていた。
あまりの暑さに家では最近シャワーだけ浴びていたので、久しぶりの湯船が心地よかった。
日が落ちたのか気温が下がってきたようだ。
「ここの湯船、大きくて足が伸ばせて良いよね」
荒木の言葉には同意しかない。
しかし黒谷と白久はカラスの行水程度しか湯船にはつかっていなかった。
それでも、入れ替わり立ち替わり入ってくる武衆の犬たちよりは長い時間洗い場に留まっていた。
『飼い主の側に居たい』という行動そのものの姿に、俺も荒木も頬が緩みっぱなしだった。
温泉から上がり牛乳を飲んで、俺達は荷物を置きにいったん部屋に戻る。
それから一緒に大広間へ向かった。
大広間には既に食事の用意がされていて、今回は個別の膳ではなく長いテーブルに大皿が何個も置いてあった。
「素麺に揚げたて天ぷら、キュウリとワカメの酢の物、夏っぽくて美味しそう」
鳥カラもあるせいか、武衆の犬達は切ない顔でミイちゃんとテーブルを交互に見ている。
海と陸が涎を垂らしながら『待て』状態を保っているのはミイちゃんの眼光のせいだろう。
流石、化生の大ボスと言ったところであった。
俺達が慌てて座るとミイちゃんがグラスを掲げ
「新たな風を吹き込んでくれるお客様と、古き仲間に乾杯」
そう音頭をとった。
「「「「乾杯」」」」
皆で麦茶で乾杯し、ミイちゃんの『いただきます』の言葉に追従する。
強面の大型犬達が目をキラキラさせながら和気藹々と食事をしている光景は、何とも微笑ましいものであった。
「このゴマ汁美味っ!素麺につけても天ぷらにつけても最高」
思わず叫んだ俺に
「濃厚なのにサッパリって感じになって、薬味を大量投下すると更に美味いよ」
荒木が勢い込んで相槌を打った。
「気に入ってもらえたなら良かった、プロの面目躍如ってところだな」
天ぷらを追加して回っていた化生が得意げな顔になる。
確か彼は料亭で飼われていた犬で、お屋敷の料理番だ。
「ゴマの他に、この山で穫れたクルミも少し入れてあるのさ
後、手作りの味噌が隠し味、手前味噌ってやつな
出汁は昆布メインで鰹は控えめにしてあるんだ」
「出汁系はこいつにゃ叶わないが、唐揚げなら俺の方が得意だぜ
今回は特製の塩唐揚げ、パセリの微塵切りと生姜の絞り汁がアクセント」
洋食屋で飼われていた化生も、唐揚げを追加しながら気さくに話しかけてくる。
2度目の訪問のせいか、犬達の俺や荒木に対するフレンドリーさが増していた。
「僕にも作れそうか、後でレシピ教えてよ」
「私もお願いしたいです」
飼い主の反応を見て、飼い犬達は焦ったように料理番にレシピを教えてもらう約束を取り付けていた。
追加の素麺大皿が俺の前にドンと置かれる。
天ぷらと唐揚げも更に追加された。
「日野は沢山食べてくれるから嬉しいよ」
料理番の2人はニコニコして俺を見てくれる。
「何だよ、俺達だっていっつも大量に食ってんじゃん」
「珍しい光景じゃないだろ?」
ハスキー達の言葉に
「お前等は食い過ぎだ、食った分どんどん動いてカロリー消費しろ
明日は鶏肉20kg買いに行ってこい、牛乳30本もな」
「米も30kg追加、精米してないやつだぞ」
彼らは呆れ顔になりつつも、きっちりと用事を言いつけていた。
「そもそも俺達は、自分達が作った物を『人間』が食べてくれるのが嬉しいんだよ
あのお方に食べていただくことは叶わなかったけど、あのお方と同じ事が出来ているのが嬉しい
客の笑顔を見て顔を綻ばせていたあのお方を思い出せる状況が嬉しいんだ」
「これは前回、日野と荒木に食べてもらって気が付けたんだ
2人とも、ありがとうな」
今も飼い主を思い出しているのか少し切なそうな顔の料理番にお礼を言われ、俺も荒木も慌ててしまう。
「こっちこそ、美味しい食事を作ってくれてありがとう」
「俺達に出来ることがあったら何でも言って
車を出せるようになったから買い出しの荷物運びするよ」
俺達の言葉に
「じゃあ、ちょっと甘えちゃおうかな」
少しモジモジしながら2人が答える。
黒谷と白久が警戒するような視線を送っていた。
「皆野に聞いてるんだけど、今ってネットってやつで色んなレシピが公開されてるんだって?
手軽で美味しいやつ」
「今は俺が生きてた頃より沢山の食材があるだろ?
新しいものは使い勝手がわからないんだ
これはこうやって作る、って固定概念もあるし、素人の自由な発想 に刺激を受けてみたいなって思ってさ」
「そーゆーの教えてもらえたらな、とか思ってるんだけど」
「皆野に教えてもらったアイスも作ってみたんだ
少し改良してみたから、食べて感想聞かせて欲しくて」
2人のお願いに、黒谷と白久の視線が緩む。
俺と荒木も料理人(犬)の健気なお願いに胸を打たれていた。
「もちろんだよ、俺、けっこうクッキングパッドとか見てるし
最近は作ってる動画も観てるよ」
俺が請け負うと、2人はホッとした顔になった。
「俺は作る方はサッパリだけど、試食は任せて
あー、でも日野ほど食えないや、これは日野が適任だ」
荒木の言葉で武衆の犬達が
「俺も試食する!モリモリ食える!」
「俺、肉が食いたい!」
「俺、魚!丸ごと揚げてあるやつ」
好き放題言い始めた。
「お前等、何食っても『美味い』しか言わないだろ
どこがどんな風に美味いか知りたいのによ」
「しかも、野菜多めだと露骨にガッカリした顔するし
この体はバランス良く食わないとダメって言われたろ?」
2人はしかつめらしい顔でそう言っていた。
夕飯の後も広間で皆の質問に答えたりここでの生活を聞いたり、犬達と楽しい時間を過ごす。
しゃべり疲れた頃、俺達の買ってきたお菓子系のお土産がテーブルに積まれ冷たい緑茶でデザートタイムになった。
自分が珍しいと思ったお菓子、犬達が好きそうかなと思ったお菓子、オーソドックスな観光地銘菓、皆でワイワイ言いながら食べるとどれも特別に美味しかった。
話しは尽きないが11時を回った頃
「明日もあるし、今日のところはこの辺でお開きにしましょう
日野も荒木も旅の疲れをとらないと楽しめませんからね」
ミイちゃんの言葉で宴は解散となった。
黒谷と2人、用意してもらった部屋に戻り布団を敷く。
「どうせ一緒に寝るから1組で良いよね、と言ってもするのはお預けだけど
流石に襖で区切られてるだけの部屋ではちょっとね
その分離れに移ったら、何度もして」
そう囁くと
「かしこまりました、一緒に寝れるだけでも嬉しいものです
とは言え、体が反応してしまうと思いますが」
黒谷は少し恥じたように答える。
「俺も」
俺は黒谷に抱きついて、布団に潜り込んだ。
熱帯夜とは縁のない山の上、黒谷と触れ合っていても耐えられないほど暑くはない。
黒谷と2人っきりという安心感で、すぐに眠気がやってきた。
人を乗せて初めて長時間運転したと言う緊張が、やっとほぐれてきたようだ。
明日からの楽しい時間に思いを馳せ、俺はその眠気に身をゆだねるのであった。
荒木も
「何だか普通に来れたね、そもそも一本道だったし
本当に目眩ましとかしてあったのかな」
拍子抜けしたようにそう呟いていた。
今回は道の駅で時間を大幅に食ってしまったので、到着したのは夕方だった。
夏なので辺りはまだ明るいが街灯など無い山の中のこと、暗くなるのにさほど時間はかからなそうだ。
『夜道を走る羽目にならなくて良かった』
と、俺は胸をなで下ろしていた。
門の前で出迎えてくれたミイちゃんの案内に従い、広大な庭に車を停めさせてもらう。
車から降りた俺達に
「ようこそおいでくださいました、ゆっくり楽しんでいってくださいね」
ミイちゃんが笑顔で言ってくれた。
「「お世話になります」」
俺と荒木は改まって頭を下げる。
「今回は中々見られないものが見られると思います
本当に世の中、無駄なことが無いわ
また、お世話になりそうよ」
ミイちゃんは荒木に意味ありげな視線を向けたが、荒木にはその理由がサッパリわからないようだった。
「今回は飼い主と『道の駅』なる場所に寄ってきたんだ
美味しいものが色々売ってて、最高の場所だったよ
犬連れの人達もいてね、現代の犬は飼い主と一緒にあんな良い旅が出来るのかとビックリした
時代は変わるもんだ」
「皆にお土産を沢山買ってきましたから、運ぶのを手伝ってください
町のお店では売っていないものが一杯あって、つい羽目を外してしまいました」
白久の言葉でソワソワと様子を伺っていた武衆の犬達が群がってくる。
彼らによって、車に積んであった大量のビニール袋や紙袋はあっという間に持ち出されお屋敷内部に消えていった。
「それでは、お部屋にご案内いたしますね」
ミイちゃんの言葉で俺と黒谷は着替えの入ったバッグを持って母屋に、荒木と白久は離れに向かっていった。
案内された和室は縁側が付いていて、庭を楽しむことが出来るちょっとした旅館のような部屋だ。
座卓の上にはポットやお茶を煎れる道具が置いてあり、ますます旅館ぽかった。
「調理場の冷蔵庫には麦茶が冷えています、少し面倒ですが自由に取りに行ってください
お布団はそちらの押入の中に入ってますので、お使いください
慣れない山道の運転でお疲れでしょう、まずは温泉で汗を流して、落ち着いた頃に夕飯にしましょう
いただいたお土産は、食後のデザートで皆で食べましょうね
ご当地銘菓、楽しみだわ」
ミイちゃんはウキウキしながら去っていった。
荷物を置いて着替えやタオルを持ち温泉に向かう。
途中で荒木と白久と行き合ったので、一緒に行くことにした。
「今が日が長い夏で助かったぜ、夜の山道だったら流石に怖かった
夜の山道で事故ったモッチーのこと笑えないな」
「到着時間考えて、朝は早めに出ないとダメだな
道の駅に寄るの楽しかったからまた行きたいし
でも、雪で閉ざされそうで冬は来れないな
夏の避暑地として楽しませてもらうに限るんじゃないか?
ここで生活してる皆、大変そう」
俺と荒木の会話に
「ハスキーや狼犬は雪に強いから大丈夫でしょう、ソシオは難儀していたようですが
和犬はガッツで乗り切ります」
黒谷は拳を握って答えていた。
あまりの暑さに家では最近シャワーだけ浴びていたので、久しぶりの湯船が心地よかった。
日が落ちたのか気温が下がってきたようだ。
「ここの湯船、大きくて足が伸ばせて良いよね」
荒木の言葉には同意しかない。
しかし黒谷と白久はカラスの行水程度しか湯船にはつかっていなかった。
それでも、入れ替わり立ち替わり入ってくる武衆の犬たちよりは長い時間洗い場に留まっていた。
『飼い主の側に居たい』という行動そのものの姿に、俺も荒木も頬が緩みっぱなしだった。
温泉から上がり牛乳を飲んで、俺達は荷物を置きにいったん部屋に戻る。
それから一緒に大広間へ向かった。
大広間には既に食事の用意がされていて、今回は個別の膳ではなく長いテーブルに大皿が何個も置いてあった。
「素麺に揚げたて天ぷら、キュウリとワカメの酢の物、夏っぽくて美味しそう」
鳥カラもあるせいか、武衆の犬達は切ない顔でミイちゃんとテーブルを交互に見ている。
海と陸が涎を垂らしながら『待て』状態を保っているのはミイちゃんの眼光のせいだろう。
流石、化生の大ボスと言ったところであった。
俺達が慌てて座るとミイちゃんがグラスを掲げ
「新たな風を吹き込んでくれるお客様と、古き仲間に乾杯」
そう音頭をとった。
「「「「乾杯」」」」
皆で麦茶で乾杯し、ミイちゃんの『いただきます』の言葉に追従する。
強面の大型犬達が目をキラキラさせながら和気藹々と食事をしている光景は、何とも微笑ましいものであった。
「このゴマ汁美味っ!素麺につけても天ぷらにつけても最高」
思わず叫んだ俺に
「濃厚なのにサッパリって感じになって、薬味を大量投下すると更に美味いよ」
荒木が勢い込んで相槌を打った。
「気に入ってもらえたなら良かった、プロの面目躍如ってところだな」
天ぷらを追加して回っていた化生が得意げな顔になる。
確か彼は料亭で飼われていた犬で、お屋敷の料理番だ。
「ゴマの他に、この山で穫れたクルミも少し入れてあるのさ
後、手作りの味噌が隠し味、手前味噌ってやつな
出汁は昆布メインで鰹は控えめにしてあるんだ」
「出汁系はこいつにゃ叶わないが、唐揚げなら俺の方が得意だぜ
今回は特製の塩唐揚げ、パセリの微塵切りと生姜の絞り汁がアクセント」
洋食屋で飼われていた化生も、唐揚げを追加しながら気さくに話しかけてくる。
2度目の訪問のせいか、犬達の俺や荒木に対するフレンドリーさが増していた。
「僕にも作れそうか、後でレシピ教えてよ」
「私もお願いしたいです」
飼い主の反応を見て、飼い犬達は焦ったように料理番にレシピを教えてもらう約束を取り付けていた。
追加の素麺大皿が俺の前にドンと置かれる。
天ぷらと唐揚げも更に追加された。
「日野は沢山食べてくれるから嬉しいよ」
料理番の2人はニコニコして俺を見てくれる。
「何だよ、俺達だっていっつも大量に食ってんじゃん」
「珍しい光景じゃないだろ?」
ハスキー達の言葉に
「お前等は食い過ぎだ、食った分どんどん動いてカロリー消費しろ
明日は鶏肉20kg買いに行ってこい、牛乳30本もな」
「米も30kg追加、精米してないやつだぞ」
彼らは呆れ顔になりつつも、きっちりと用事を言いつけていた。
「そもそも俺達は、自分達が作った物を『人間』が食べてくれるのが嬉しいんだよ
あのお方に食べていただくことは叶わなかったけど、あのお方と同じ事が出来ているのが嬉しい
客の笑顔を見て顔を綻ばせていたあのお方を思い出せる状況が嬉しいんだ」
「これは前回、日野と荒木に食べてもらって気が付けたんだ
2人とも、ありがとうな」
今も飼い主を思い出しているのか少し切なそうな顔の料理番にお礼を言われ、俺も荒木も慌ててしまう。
「こっちこそ、美味しい食事を作ってくれてありがとう」
「俺達に出来ることがあったら何でも言って
車を出せるようになったから買い出しの荷物運びするよ」
俺達の言葉に
「じゃあ、ちょっと甘えちゃおうかな」
少しモジモジしながら2人が答える。
黒谷と白久が警戒するような視線を送っていた。
「皆野に聞いてるんだけど、今ってネットってやつで色んなレシピが公開されてるんだって?
手軽で美味しいやつ」
「今は俺が生きてた頃より沢山の食材があるだろ?
新しいものは使い勝手がわからないんだ
これはこうやって作る、って固定概念もあるし、素人の自由な発想 に刺激を受けてみたいなって思ってさ」
「そーゆーの教えてもらえたらな、とか思ってるんだけど」
「皆野に教えてもらったアイスも作ってみたんだ
少し改良してみたから、食べて感想聞かせて欲しくて」
2人のお願いに、黒谷と白久の視線が緩む。
俺と荒木も料理人(犬)の健気なお願いに胸を打たれていた。
「もちろんだよ、俺、けっこうクッキングパッドとか見てるし
最近は作ってる動画も観てるよ」
俺が請け負うと、2人はホッとした顔になった。
「俺は作る方はサッパリだけど、試食は任せて
あー、でも日野ほど食えないや、これは日野が適任だ」
荒木の言葉で武衆の犬達が
「俺も試食する!モリモリ食える!」
「俺、肉が食いたい!」
「俺、魚!丸ごと揚げてあるやつ」
好き放題言い始めた。
「お前等、何食っても『美味い』しか言わないだろ
どこがどんな風に美味いか知りたいのによ」
「しかも、野菜多めだと露骨にガッカリした顔するし
この体はバランス良く食わないとダメって言われたろ?」
2人はしかつめらしい顔でそう言っていた。
夕飯の後も広間で皆の質問に答えたりここでの生活を聞いたり、犬達と楽しい時間を過ごす。
しゃべり疲れた頃、俺達の買ってきたお菓子系のお土産がテーブルに積まれ冷たい緑茶でデザートタイムになった。
自分が珍しいと思ったお菓子、犬達が好きそうかなと思ったお菓子、オーソドックスな観光地銘菓、皆でワイワイ言いながら食べるとどれも特別に美味しかった。
話しは尽きないが11時を回った頃
「明日もあるし、今日のところはこの辺でお開きにしましょう
日野も荒木も旅の疲れをとらないと楽しめませんからね」
ミイちゃんの言葉で宴は解散となった。
黒谷と2人、用意してもらった部屋に戻り布団を敷く。
「どうせ一緒に寝るから1組で良いよね、と言ってもするのはお預けだけど
流石に襖で区切られてるだけの部屋ではちょっとね
その分離れに移ったら、何度もして」
そう囁くと
「かしこまりました、一緒に寝れるだけでも嬉しいものです
とは言え、体が反応してしまうと思いますが」
黒谷は少し恥じたように答える。
「俺も」
俺は黒谷に抱きついて、布団に潜り込んだ。
熱帯夜とは縁のない山の上、黒谷と触れ合っていても耐えられないほど暑くはない。
黒谷と2人っきりという安心感で、すぐに眠気がやってきた。
人を乗せて初めて長時間運転したと言う緊張が、やっとほぐれてきたようだ。
明日からの楽しい時間に思いを馳せ、俺はその眠気に身をゆだねるのであった。