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しっぽや(No.198~224)

ランチは大人数が入れるナリの部屋で食べることになっている。
俺は弁当作りを手伝えなかったので、せめてもと思い運ぶ手伝いを頑張った。
白久と皆野が作った弁当は皆に好評で『日野が居ないのに、ちょっと多かったかな』と思う量がキレイに無くなる。
近戸が意味ありげな笑みを向けてきて、同じ事を考えていたと気が付いた。

「皆喜んでたよ、お弁当、お礼になったみたいで良かったね
 凄く美味しかったもん、大人数で食べるの楽しいな
 今度から近戸達と一緒に食べる機会も増えそう
 もちろん、俺達2人だけの食事もね」
お重を洗い終わった白久とベッド回りを整理しながら話しかけると
「喜んでいただけたなら何よりです
 結局、前の部屋からローテーブルを持ってきたので料理が乗り切るか心配ですが、今は追加に楽な小さなテーブルもあるのですね
 どうしても間に合わないようなら、それを買ってみるのも良さそうです
 家具は今までゲンに任せっきりでしたが、自分で選ぶ楽しさを理解しました
 荒木と使う物だと思うと、選ぶのも真剣になります」
しみじみとした答えが返ってきた。
2人の部屋を2人で作る、それは贅沢な楽しみだと実感した。

「スマホの充電器はここに置くから、ちゃんと充電してしっぽやに行ってね
 携帯用の充電器は引き出しに入れておくから、遠くの依頼の時は持って行って」
ベッドのサイドテーブルの一角を、スマホ関係の置き場に決める。
「俺が本格的に引っ越してきたら、こっち側に俺用の充電器を置くよ
 あ、ランプがちゃんとつくか試してみなきゃ」
サイドテーブルに置いてあるランプのスイッチを入れると、柔らかなオレンジ色の光が部屋を照らしだした。
「白色光の方が明るくて本とか読みやすいのかもしれないけど、ここでわざわざ読む事って無いもんね
 パソコンデスクの方は白色光のライト買ったけどさ
 クローゼットの中用に、何か買った方が良かったかな」
「双子達は気にせず使っていたようですが、彼らは元は猫なので私より夜目が利きますから
 荒木が使ってみて不便なようであれば、また考えましょう」
俺達の城は、まだまだ進化を続けるようであった。


双子が置いていった物を流用しているし、事前に少しずつ整えていたので部屋の整理は夕方にはついていた。
「7時頃お礼の品を持ってナリの部屋に集合だ、もう一踏ん張りって感じだね」
俺はスマホで時刻を確認する。
「ツマミはふかやが作ると息巻いていましたし、揚げ物は皆野が作ると言っていましたから、私は〆のお茶漬け用に鮭の焼おにぎりを作るつもりです
 と言っても、お昼に握っておきましたから、後は焼くだけなのですが」
「焼おにぎりのお茶漬けかー、香ばしくて美味しそう
 俺は近戸に渡す物を用意しとかなきゃ」
白久はおにぎりを焼きにキッチンへ行き、俺は元の白久の部屋に今回持ってきた荷物を取りに行くことにした。

まだ多少の荷物が残っている部屋を見回すと『ここが、俺の始まりの場所だったんだ』と少し感傷にひたってしまう。
しかし荷物を持って新居に戻ると白久と2人で選んだ物に囲まれたリビングで、俺は早くも『帰ってきた』と思うのだった。


自室で荷物を整理する。
近戸達にお祝いであげるマグカップは、既に紙袋に入れてあった。
追加で持ってきた服をクローゼットに入れ、マンガや本を本棚にしまっていく。
白久と2人で使うマグカップの小箱を持ってキッチンに移動すると、白久は焼き上がったおにぎりを竹皮で包んでいた。
「タッパーでも良かったのですが、この方が雰囲気が出るかと思いまして用意してみました」
誇らかにおにぎりの包みを見せてくる白久の髪を撫で
「うん、すごく美味しそう」
俺は笑って頷いた。

俺は小箱を白久に差しだし
「これ、今回の引っ越しの記念
 初めて作ったにしては、けっこう可愛く出来たと思う
 お揃いで使おうと思って、2個作ったんだ
 いや、作ったって言っても、俺はイラスト描いただけだけど」
モジモジと小声で呟いた。
白久は箱を受け取って中身を確認すると
「この犬は、もしかして私ですか?」
顔を輝かせて話しかけてきた。
頷く俺を抱きしめ
「紀州犬や北海道犬ではなく、秋田犬なのですね」
何だかマニアックな感激の仕方をしていた。

「秋田犬って言ったら赤毛のイメージで、グッズとかいっぱい出てるじゃん
 白い秋田犬のグッズが無くて悔しかったから、自分で作っちゃった
 マグカップだとホットにもアイスにも使えるかなって」
頭をかきながら答えると
「今度から、このカップで全ての飲み物をいただきます」
白久は断言する。
「ケースバイケースで良いと思うけど、気に入ってくれたなら良かった」
ホッとする俺に
「食器棚に、このカップを飾る場所を作らなければ」
白久は全てのおにぎりを素早く竹皮で包むと、早速食器棚の中身を移動させた。
俺の分のマグカップと2個分のスペースを確保し、柄が見えるように配置する。
「後ほど、下に敷くレースを買って参ります」
白久の喜びようは想像以上で、俺は作って良かったなと思うのであった。



7時には早かったが、荷物を持って近戸の部屋に移動する。
ちょうど作業にキリがついたところのようなのでナリの部屋で渡そうかと思っていたお礼を、俺は先に大地さんに手渡した。
中を改めた彼らは直ぐにツマミとして開ける気満々で、俺と近戸は胸をなで下ろした。
その後、皆でナリの部屋に移動する。
皆野とふかやと白久はキッチンでツマミ作りに勤しみ、俺達はバイクや免許の話を大地さん達から色々聞いていた。
「車の免許取れたら、俺もバイクの免許取ろうかな」
俺がそう言うと、皆喜んでくれる。
彼らは見た目こそ厳つくて怖そうだけど、面倒見の良い兄貴達であった。

大人達は後から加わったゲンさん、モッチー、長瀞さんとまだまだ飲む気のようだったが、学生組は新居が気になることもあって11時過ぎには帰ることにした。
俺達はお酒ではなくスポドリを飲んでいたのだが、先に〆のお茶漬けを食べる事にする。
白久が作ってくれた焼おにぎりは出汁をかけても香ばしく、アオサを入れると磯の香りが足されてさらに美味しくなった。
「アオサ、スープ系に入れると高級感が出て美味しくなるから常備しておくのにお勧めだよ
 乾物だから日持ちするし」
ナリに言われて、白久と皆野、長瀞さんは熱心にアオサの袋をチェックしていた。

帰りがけ、エレベーターの前で俺は近戸に引っ越し祝いを渡した。
『明戸と皆野のグッズだ』と近戸は感激してくれる。
『同じ毛色のグッズが無かったりするし、化生のグッズを作って皆にプレゼントするって有りだよな
 皆の毛色、今度ちゃんと聞いてメモっておこう』
俺はそんなことを考えていた。


部屋に帰り着くと汗でベタツく肌をシャワーで流し、パジャマ代わりのスウェットに着替える。
白久もシャワーを浴びて俺とお揃いのスウェットに着替えていた。
真新しいソファーに腰掛けると、疲れがどっと襲ってくる。
「明日は元の部屋の最後の掃除しにいこう、業者入れなくても済むようにさ
 今までありがとうって気持ちを込めて、ピカピカにして次の化生に引き渡したいもんね」
「そうですね、荒木に飼っていただいてから、あの部屋では楽しい時を過ごしてきました
 至らなかった私に、荒木は本当によくしてくださって…」
白久は俯いてしまう。
元の飼い主に憑依されていた日野との関係を気に病んでいるのだ。
「今度の新しいベッドには、俺以外上げるの禁止だからね」
少し強めに言うと
「はい、肝に銘じております」
白久は慌てて答えた。
「まあ、具合悪くなった化生を寝かせて介抱する、とかなら良いけどさ」
先ほどより語調を柔らかく言ってみたら
「体調を崩す化生は消滅しかかっている者のため、飼い主以外に介抱のしようがありません
 空の頭の具合は悪いのか良いのか、判別つきませんし」
白久は大真面目に答えていた。

「あのベッドの1番のりは俺だから、まあ良いか
 白久、早速使い心地を試してみよう」
俺は思わず笑いながらソファーから立ち上がり、白久に手を差し出した。
白久は俺の手を取り、立ち上がる。
先ほどまで感じていた疲れは、甘やかな期待の前に吹き飛んでいた。
「荒木が選んでくださったベッド、きっと最高の使い心地だと思います」
白久は頬を染め、そっと抱きしめてくれた。


俺達はベッドルームに移動して、ランプだけをつける。
優しい光に照らされた白久の瞳が秋田犬のように黒目がちに見え、可愛くてたまらなかった。
唇を合わせ着ている物を脱がしあった。
白久の逞しい胸や腕の柔らかな隆起は、いつ見ても見惚れてしまう。
空や大麻生より『筋肉ムキムキ』と言った感じではないが、重く確かな質感を感じさせる、白久のように優しい隆起だった。

白久の唇が俺の唇から離れ、首筋に移動する。
俺の体を知り尽くしているため、手で胸の突起を刺激することを忘れてはいなかった。
「っく…」
手慣れた愛撫に早くも息が上がってしまう。
俺の存在の全てが白久を求めていた。
「白…久…」
俺も彼の髪を撫で刺激を送る。
白久も体をふるわせて、その刺激に反応していた。

彼の唇が首筋から胸元、腹へと移動していく。
俺自身には白久の手が刺激を送っていた。
後ろに唾液をすり込まれ、白久はそのまま俺の中にゆっくりと自身を埋めていった。
白久が動き始めると、今までより俺の体が激しく跳ねる。
昨晩より明らかに快感が増している感じがした。
『これ、ベッドのスプリングが新しいからかな
 初めてのベッドだって思って、興奮してるのもあるかも』
最初のうちはそんな風に分析する余裕があったが、思考は直ぐに快楽に飲まれていった。


翌日も休みの俺達は、夜更けまで何度も繋がりあって愛を確かめる。

『ここが、俺達の新しい出発点…』

疲れ果てて寝落ちる寸前、この部屋は俺達にとって『我が家』となったことを実感するのであった。
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