しっぽや(No.198~224)
side<CHIKATO>
俺も双子の兄のトノこと遠野も、生まれ育った家から引っ越したことはない。
そんな俺達が初めて『引っ越し』をする事になった。
俺達が本格的にこの家を離れるわけではなく、俺達の飼い猫兼恋人である明戸と皆野が引っ越しをするのである。
マンションの階を移動するだけとは言え、今までより広いファミリータイプの部屋になり俺とトノも別荘代わりに使ってくれと言われていた。
しかし俺達兄弟にとっては別荘と言ってもピンとこない。
『秘密基地』と言った方がしっくりくるような、楽しい場所になる事は間違いなかった。
「俺達の持ってく物は、少しの着替えだけで良いんだよな」
いつもはしっかり者のトノが、俺に何度も同じ事を聞いてくるのが可笑しかった。
「まだ生活の基盤はこの家だろ、向こうで足りない物があったら買うか後から持って行けば大丈夫だって」
俺は気楽に言ってやる。
「それよりも、手伝ってくれるナリとモッチーの友達へのお礼をどうする?
皆野と白久が弁当やツマミを作ってくれるって言ってるけど、俺達も何か買って行った方が良いのかな
この辺名物とか何もない住宅地だから、目新しいものないんだよね
この前みたいにタイミング良くマグロの解体ショーでもあれば良かったんだけど
スーパーで売ってる物なんてどこでも買えるし」
「コンビニはもっと、これと言ったものが無いよ
よくツーリングに行ってるみたいだから、大抵の物は食べたことあるだろうな
俺達の方が年下だし、お金を包むのも失礼な気がする
ナリが『見た目に反して真面目な人たち』って言ってから、未成年が酒を買っていくのは心証が悪くなるよな」
俺達は何度も繰り返した話をするが、進展がありそうになかった。
結局最後には『引っ越しが楽しみだ』と言うことに落ち着いて、同じ顔を見合わせてニヤニヤしてしまうのだった。
引っ越し当日、俺達は着替えの入ったバッグを持って電車で移動する。
荷物の整理にどれだけ時間がかかるか分からないため、家の車を2日も持ち出すわけにはいかなかったのだ。
俺もトノも引っ越しの日は泊めてもらおうと決めていた。
マンションは防音がしっかりしているとのことなので、どこまで声が漏れないか試してみたいという下心ありありの泊まり予定であった。
電車を乗り継ぎ影森マンションに到着したのは10時前だ。
「もう荷物の運び入れ始めてるかな
どっちの部屋に先に顔を出そうか」
「取りあえず今までの部屋に先に行こう」
そう決めて双子猫の部屋のチャイムを押すが、応答は無かった。
変に移動すると行き違いそうだし、部屋の鍵は持っているので中で待たせてもらうことにする。
鍵を開け中に入るが室内に人の気配はなかった。
『荒木は白久の部屋に行くと「帰ってきた」ってホッと出来るって言ってたっけ
俺はまだそこまでの思い出はこの部屋には無いや
だから、新しい部屋が俺と明戸の思い出のスタートになりそうだ
そこにトノと皆野も居るんだから、楽しい生活になるぞ』
そんなことを考えて、つい顔がニヤケてしまった。
「あれ?」
トノの不思議そうな声で我に返る。
「皆野、こんな食器持ってたっけ?こっちの皿は前に使ってた物と色が違うような気が
調理器具も少なくなってるな」
辺りを見回すトノの疑問は直ぐに俺の疑問になった。
「リビングのテーブルが無い、って、こっちの部屋に移動させたのか
じゃあ、明戸の文机はどこだ?
明るいと思ったら、カーテンが全部取り払われてる」
大雑把な間違い探しをするような気分で、俺とトノは部屋中を見て回った。
明戸と皆野だけで短期間にここまで荷物を移動できたとは思えない。
俺達が手伝いに来れない間、荒木と白久がずいぶん頑張ってくれたようだった。
『荒木には5日分くらい学食奢らないとな
まあ、日野に奢るよりは安上がりだ』
そんなことを考えていると玄関で物音がして
「チカ!」
愛しい飼い猫が俺に向かって一目散に駆け寄ってきた。
俺は明戸を抱きしめて
「遅くなってごめんね、今回は車で来なかったから」
そう謝って軽く唇を合わせた。
「荒木と白久が張り切ってて、早めに作業開始したんだ
俺と皆野も興奮して昨夜からドキドキしっぱなし
不安だけじゃなく、嬉しいドキドキもあるんだね」
笑顔で話す明戸の様子にホッとした。
猫は環境が変わることを嫌う生き物だから、ナーバスになっているんじゃないかと心配していたのだ。
「俺とトノは何をすれば良い?今まで手伝えなかった分、頑張るよ」
俺は力こぶを作って頼もしさのアピールをするが
「後は家具が届くまでやること無いかな、ベッドの移動はナリの友達に任せた方が安全だって言われたし
そうだ、チカの着替えを新しい部屋のクローゼットに入れ行こう」
引っ越し作業と言うにはあまりにもささやかなものであったが、俺達は着替えを持って新しい部屋へと向かうのだった。
新しい部屋では荒木と白久が窓ガラスを拭いていた。
「おはよう荒木、手伝いありがとう」
俺が声をかけると
「はよー、近戸
こっち終わったら、俺達の部屋の窓も拭きに行くよ
何かもう、『俺達の部屋』って呼んじゃっててごめん
まだ双子たち4人の部屋なのにな」
荒木は照れたように笑っている。
「いや、俺にとってはこの部屋からの日々が明戸との生活のスタートって感じだから構わないよ
あそこは自分達の部屋って言うより明戸と皆野の部屋で、遊びに行っていた感覚の方が強いし」
「そっか、俺は白久の部屋も自分の家みたいに感じてたから、いっぱい『家』での思い出があるよ
あの部屋とは別れ難いけど新しい場所も楽しみ、ってなんか嬉しい矛盾だね」
そういう荒木の顔は、いつもより大人びて見えた。
「荒木、表側と上部を拭き終わりました」
誇らかな顔の白久が報告していた。
「ありがと、大変な方を任せちゃってごめん
俺だとほら、その…、手が、届かないから」
少し拗ねたように言う荒木は、先ほどとは打って変わって子供じみて見える。
「荒木のお役に立てるのなら、大変なことなどありません」
きっぱりと言い切る白久は、まさに『犬!』と言った風情だ。
「じゃあ、次は俺達の部屋の窓を拭きに行こう
あ、近戸、古いカーテンどうする?
こっちに持ってきて爪研ぎと猫毛除けに、ソファー掛けにする?」
「そうだな、あのサイズの使い古しの布ってめったに出ないから、ストックしとかなきゃ」
そこで自分達の発言のおかしさに気が付いて、2人して笑ってしまった。
「猫飼いならではの発想、明戸も皆野も毛溜まりが出来るほど毛が抜けないし、爪も研がないのについ考えちゃった」
「分かる!猫ゲロ対策も兼ねてあちこち古布敷いとくんだよな
最悪、捨てても惜しくない奴」
「インテリアも何もあったもんじゃないけど、親父が前の猫にメロメロだったから猫との暮らし易さ最優先」
「俺の高校の時の部活の後輩の家なんて、猫のスプレーがどうしても治まらないからって家中ペットシーツ張り付けてたよ」
荒木と話していると、ついつい猫談義に花が咲いてしまう。
荒木もそれに気が付いたのか
「そろそろナリの友達が来るよ、さっき連絡あったって言ってた
予定より早く、俺達のベッドも運んでもらうんだ
その前に、スムーズに入れられるようにしとかなきゃ」
そう話を締めくくって、白久と共に去っていった。
その後、俺と明戸が使う寝室のクローゼットに服をしまっていく。
明戸の服は既に入っていた。
「チカの服、入りきる?俺は事務所で着替えても良いし、チカの服のスペースを優先してね」
心配そうな明戸の頭を撫で
「当座の分しか持ってこなかったから大丈夫だよ
まだまだスペースに余裕あるから、冬用のコートやダウンも悠々入るって
今度、和泉先生のお揃いシリーズ買ってみようか
明戸とお揃いだと、俺には似合わないかな
明戸は可愛い系のカジュアルとか似合いそうだし」
「じゃあ、チカとトノ、俺と皆野がお揃いにして、またお店の人とかビックリさせようよ
あれ面白いね、俺達の見分けが全然つかないの
チカの方がトノより格好いいのに、それに気が付いてるのって俺だけなんだって思うと、何か嬉しい」
明戸はエヘヘっと笑いながら腕を絡めてくる。
「明戸の方が皆野よりキレイだよ
溌剌(はつらつ)とした瞳が魅力的だ」
俺はトノや皆野に聞かれたら怒られそうな事を言い、明戸を誉め称えた。
俺と明戸は見事なバカップルなのだった。
ピンポーン
新居にチャイムが鳴り響く。
ナリとその友人達が来てくれたようだ。
玄関に出迎えに行くと、ナリが体格の良い人たちを引き連れて立っている。
「この度はお手伝いありがとうございます
本当に助かります」
トノが礼儀正しく頭を下げるのに習い俺も頭を下げた。
「なあに、このマンションでの引っ越し手伝い作業は2回目だ
ササッと終わらせるぜ
ナリのとこで宴会するのが今回の目的みたいなもんだからな」
背は俺より低いが、体格の良い人達が気さくに笑っている。
「ダイちゃん、引っ越し業歴1番長いから頼りになるよ
特殊免許も色々持ってるから、気になるのがあったら聞いてみると良いかも
宴会には君達も混ざってくれるんでしょ?」
ナリに首を傾げて聞かれ、俺とトノは顔を見合わせ頷いた。
「色々お話聞かせてください」
バイク乗りの集団とのことなので、俺達は彼らに興味津々だったのだ。
「俺達も良いの?」
明戸と皆野が顔を出すと、歓声が上がる。
「出た、しっぽやのキラキラしいモデル所員」
「こっちも双子か、柄までそっくり」
「キレイだけど、長瀞さんに比べると馴染み深い感じだな」
彼らは双子猫をジロジロ見ているが、その視線にはイヤラシサは感じない。
愛おしい者を見る目をしていた。
ナリに聞かされていた通り、彼らは大の猫好きのようだった。
俺も双子の兄のトノこと遠野も、生まれ育った家から引っ越したことはない。
そんな俺達が初めて『引っ越し』をする事になった。
俺達が本格的にこの家を離れるわけではなく、俺達の飼い猫兼恋人である明戸と皆野が引っ越しをするのである。
マンションの階を移動するだけとは言え、今までより広いファミリータイプの部屋になり俺とトノも別荘代わりに使ってくれと言われていた。
しかし俺達兄弟にとっては別荘と言ってもピンとこない。
『秘密基地』と言った方がしっくりくるような、楽しい場所になる事は間違いなかった。
「俺達の持ってく物は、少しの着替えだけで良いんだよな」
いつもはしっかり者のトノが、俺に何度も同じ事を聞いてくるのが可笑しかった。
「まだ生活の基盤はこの家だろ、向こうで足りない物があったら買うか後から持って行けば大丈夫だって」
俺は気楽に言ってやる。
「それよりも、手伝ってくれるナリとモッチーの友達へのお礼をどうする?
皆野と白久が弁当やツマミを作ってくれるって言ってるけど、俺達も何か買って行った方が良いのかな
この辺名物とか何もない住宅地だから、目新しいものないんだよね
この前みたいにタイミング良くマグロの解体ショーでもあれば良かったんだけど
スーパーで売ってる物なんてどこでも買えるし」
「コンビニはもっと、これと言ったものが無いよ
よくツーリングに行ってるみたいだから、大抵の物は食べたことあるだろうな
俺達の方が年下だし、お金を包むのも失礼な気がする
ナリが『見た目に反して真面目な人たち』って言ってから、未成年が酒を買っていくのは心証が悪くなるよな」
俺達は何度も繰り返した話をするが、進展がありそうになかった。
結局最後には『引っ越しが楽しみだ』と言うことに落ち着いて、同じ顔を見合わせてニヤニヤしてしまうのだった。
引っ越し当日、俺達は着替えの入ったバッグを持って電車で移動する。
荷物の整理にどれだけ時間がかかるか分からないため、家の車を2日も持ち出すわけにはいかなかったのだ。
俺もトノも引っ越しの日は泊めてもらおうと決めていた。
マンションは防音がしっかりしているとのことなので、どこまで声が漏れないか試してみたいという下心ありありの泊まり予定であった。
電車を乗り継ぎ影森マンションに到着したのは10時前だ。
「もう荷物の運び入れ始めてるかな
どっちの部屋に先に顔を出そうか」
「取りあえず今までの部屋に先に行こう」
そう決めて双子猫の部屋のチャイムを押すが、応答は無かった。
変に移動すると行き違いそうだし、部屋の鍵は持っているので中で待たせてもらうことにする。
鍵を開け中に入るが室内に人の気配はなかった。
『荒木は白久の部屋に行くと「帰ってきた」ってホッと出来るって言ってたっけ
俺はまだそこまでの思い出はこの部屋には無いや
だから、新しい部屋が俺と明戸の思い出のスタートになりそうだ
そこにトノと皆野も居るんだから、楽しい生活になるぞ』
そんなことを考えて、つい顔がニヤケてしまった。
「あれ?」
トノの不思議そうな声で我に返る。
「皆野、こんな食器持ってたっけ?こっちの皿は前に使ってた物と色が違うような気が
調理器具も少なくなってるな」
辺りを見回すトノの疑問は直ぐに俺の疑問になった。
「リビングのテーブルが無い、って、こっちの部屋に移動させたのか
じゃあ、明戸の文机はどこだ?
明るいと思ったら、カーテンが全部取り払われてる」
大雑把な間違い探しをするような気分で、俺とトノは部屋中を見て回った。
明戸と皆野だけで短期間にここまで荷物を移動できたとは思えない。
俺達が手伝いに来れない間、荒木と白久がずいぶん頑張ってくれたようだった。
『荒木には5日分くらい学食奢らないとな
まあ、日野に奢るよりは安上がりだ』
そんなことを考えていると玄関で物音がして
「チカ!」
愛しい飼い猫が俺に向かって一目散に駆け寄ってきた。
俺は明戸を抱きしめて
「遅くなってごめんね、今回は車で来なかったから」
そう謝って軽く唇を合わせた。
「荒木と白久が張り切ってて、早めに作業開始したんだ
俺と皆野も興奮して昨夜からドキドキしっぱなし
不安だけじゃなく、嬉しいドキドキもあるんだね」
笑顔で話す明戸の様子にホッとした。
猫は環境が変わることを嫌う生き物だから、ナーバスになっているんじゃないかと心配していたのだ。
「俺とトノは何をすれば良い?今まで手伝えなかった分、頑張るよ」
俺は力こぶを作って頼もしさのアピールをするが
「後は家具が届くまでやること無いかな、ベッドの移動はナリの友達に任せた方が安全だって言われたし
そうだ、チカの着替えを新しい部屋のクローゼットに入れ行こう」
引っ越し作業と言うにはあまりにもささやかなものであったが、俺達は着替えを持って新しい部屋へと向かうのだった。
新しい部屋では荒木と白久が窓ガラスを拭いていた。
「おはよう荒木、手伝いありがとう」
俺が声をかけると
「はよー、近戸
こっち終わったら、俺達の部屋の窓も拭きに行くよ
何かもう、『俺達の部屋』って呼んじゃっててごめん
まだ双子たち4人の部屋なのにな」
荒木は照れたように笑っている。
「いや、俺にとってはこの部屋からの日々が明戸との生活のスタートって感じだから構わないよ
あそこは自分達の部屋って言うより明戸と皆野の部屋で、遊びに行っていた感覚の方が強いし」
「そっか、俺は白久の部屋も自分の家みたいに感じてたから、いっぱい『家』での思い出があるよ
あの部屋とは別れ難いけど新しい場所も楽しみ、ってなんか嬉しい矛盾だね」
そういう荒木の顔は、いつもより大人びて見えた。
「荒木、表側と上部を拭き終わりました」
誇らかな顔の白久が報告していた。
「ありがと、大変な方を任せちゃってごめん
俺だとほら、その…、手が、届かないから」
少し拗ねたように言う荒木は、先ほどとは打って変わって子供じみて見える。
「荒木のお役に立てるのなら、大変なことなどありません」
きっぱりと言い切る白久は、まさに『犬!』と言った風情だ。
「じゃあ、次は俺達の部屋の窓を拭きに行こう
あ、近戸、古いカーテンどうする?
こっちに持ってきて爪研ぎと猫毛除けに、ソファー掛けにする?」
「そうだな、あのサイズの使い古しの布ってめったに出ないから、ストックしとかなきゃ」
そこで自分達の発言のおかしさに気が付いて、2人して笑ってしまった。
「猫飼いならではの発想、明戸も皆野も毛溜まりが出来るほど毛が抜けないし、爪も研がないのについ考えちゃった」
「分かる!猫ゲロ対策も兼ねてあちこち古布敷いとくんだよな
最悪、捨てても惜しくない奴」
「インテリアも何もあったもんじゃないけど、親父が前の猫にメロメロだったから猫との暮らし易さ最優先」
「俺の高校の時の部活の後輩の家なんて、猫のスプレーがどうしても治まらないからって家中ペットシーツ張り付けてたよ」
荒木と話していると、ついつい猫談義に花が咲いてしまう。
荒木もそれに気が付いたのか
「そろそろナリの友達が来るよ、さっき連絡あったって言ってた
予定より早く、俺達のベッドも運んでもらうんだ
その前に、スムーズに入れられるようにしとかなきゃ」
そう話を締めくくって、白久と共に去っていった。
その後、俺と明戸が使う寝室のクローゼットに服をしまっていく。
明戸の服は既に入っていた。
「チカの服、入りきる?俺は事務所で着替えても良いし、チカの服のスペースを優先してね」
心配そうな明戸の頭を撫で
「当座の分しか持ってこなかったから大丈夫だよ
まだまだスペースに余裕あるから、冬用のコートやダウンも悠々入るって
今度、和泉先生のお揃いシリーズ買ってみようか
明戸とお揃いだと、俺には似合わないかな
明戸は可愛い系のカジュアルとか似合いそうだし」
「じゃあ、チカとトノ、俺と皆野がお揃いにして、またお店の人とかビックリさせようよ
あれ面白いね、俺達の見分けが全然つかないの
チカの方がトノより格好いいのに、それに気が付いてるのって俺だけなんだって思うと、何か嬉しい」
明戸はエヘヘっと笑いながら腕を絡めてくる。
「明戸の方が皆野よりキレイだよ
溌剌(はつらつ)とした瞳が魅力的だ」
俺はトノや皆野に聞かれたら怒られそうな事を言い、明戸を誉め称えた。
俺と明戸は見事なバカップルなのだった。
ピンポーン
新居にチャイムが鳴り響く。
ナリとその友人達が来てくれたようだ。
玄関に出迎えに行くと、ナリが体格の良い人たちを引き連れて立っている。
「この度はお手伝いありがとうございます
本当に助かります」
トノが礼儀正しく頭を下げるのに習い俺も頭を下げた。
「なあに、このマンションでの引っ越し手伝い作業は2回目だ
ササッと終わらせるぜ
ナリのとこで宴会するのが今回の目的みたいなもんだからな」
背は俺より低いが、体格の良い人達が気さくに笑っている。
「ダイちゃん、引っ越し業歴1番長いから頼りになるよ
特殊免許も色々持ってるから、気になるのがあったら聞いてみると良いかも
宴会には君達も混ざってくれるんでしょ?」
ナリに首を傾げて聞かれ、俺とトノは顔を見合わせ頷いた。
「色々お話聞かせてください」
バイク乗りの集団とのことなので、俺達は彼らに興味津々だったのだ。
「俺達も良いの?」
明戸と皆野が顔を出すと、歓声が上がる。
「出た、しっぽやのキラキラしいモデル所員」
「こっちも双子か、柄までそっくり」
「キレイだけど、長瀞さんに比べると馴染み深い感じだな」
彼らは双子猫をジロジロ見ているが、その視線にはイヤラシサは感じない。
愛おしい者を見る目をしていた。
ナリに聞かされていた通り、彼らは大の猫好きのようだった。