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しっぽや(No.11~22)

「それで俺、化生して人みたいな存在になったんです
 でもやっぱり、ハスキーの雄だからバカだな
 どう言えば俺の気持ちをわかってもらえるか、どうすればカズハに気に入ってもらえるか、飼ってもらえるか、サッパリわかんないや…」
記憶の転写を終えてカズハから額を離した俺は、深くうなだれる。
そんな俺を、カズハは優しく抱き締めてくれた。
「僕にもわかりません
 何故、貴方が僕を選んでくれたのか、側に居たいと思ってくれたのか…
 でも、わかる事もあります
 貴方はバカじゃありません
 貴方は飲まず食わずで何日も『あのお方』の骸(むくろ)の側に居たのでしょう?
 脱水症状と低血糖を起こしていたんですよ、意識はかなり朦朧としていたハズです
 それなのに男達から骸を守ろうとした、『あのお方』の姿を探そうとした
 とても勇気があって、ひたむきな行動です
 僕には無いものばかり持っている貴方は、本当に立派だと思います」
カズハの言葉が胸に染み込んでいく。
何もしてあげられなかったあのおお方に全てを許してもらえたような安心感に包まれて、俺はカズハの胸の中で涙を流していた。

「どうすれば良いのかよくわかりませんが、僕で良ければ空を飼わせてください
 貴方が『化生』という存在で幸せになるための、その手伝いがしたい
 でも、それは建て前なのかな
 貴方に側に居てもらって守って欲しいと思ってる僕は、子供の時のようにハスキーに甘えているのでしょうか」
カズハはクスリと笑って、ソッと俺の髪に口付けをする。
俺は、カズハに対する想いが押さえられなくなっていた。

俺は立ち上がってカズハを抱き締める。
そのままキスをすると
「空…?」
カズハは赤くなって戸惑っていた。
「俺達化生にとって、飼い主と契る事は何よりの誉れなんです
 俺達は飼い主に発情するから」
俺は、何度もカズハと唇を重ねた。
「え…?それって…」
俺にキスをされながら、カズハの体が緊張していくのがわかる。
けれども俺は、そんなカズハをベッドに押し倒して舌を絡める深いキスを繰り返した。

「命令してください
 カズハが嫌なら、俺、我慢しますから
 俺、犬の訓練学校ってのに行ってた事あるんです
 本当はちゃんと『待て』も『お預け』も出来るんですよ
 あのお方の命令以外、従う気は無かったから、教官にはバカだと思われてたけどね」
笑いながらそう言って、カズハの目を覗き込む。
「カズハの命令なら、俺、きちんと従います
 貴方の命令をきけることも、俺の喜びです」
再び唇を合わせ、カズハの服を脱がせていく。

存在を確認するようにカズハの体中に舌を這わせると、その体がビクリと反応する。
カズハの中心も、俺のものと同じ様に熱くなっていた。
俺がカズハの中に熱い想いを解放すると、カズハも同じ反応を返してくれる。
俺達は何度も繋がりあい想いを解放しあう。

カズハは、最後まで俺に制止の命令をしなかった。

こうして俺は、かけがえのない新たな飼い主と巡り会えたのだ。




「飼い主が決まったから、俺の所属は武州から影森に変更なんだと
 つー訳で、これから俺は『武州1トレンディーな空』から『影森1トレンディーな空』に変更だ
 よろしくな、黒谷の旦那!
 俺ってば、クリームのおかげでミニチュアダックスの気配には超敏感になってるから、すげー役に立つぜ
 この辺って、ダックス飼い多いんだろ?
 バリバリ働いて、カズハに美味いもの食わせてやらねーとな
 こないだ脱がして思ったんだけど、あいつ、やっぱちょっと痩せすぎだからよ」
就任の挨拶のためしっぽや事務所に顔を出すと、黒谷の旦那は露骨に顔を歪め
「このバカ犬が部下…」
肩を落としてそう呟いた。
「黒谷、空をよろしく頼んだぞ」
波久礼の兄貴は反対に、ニコニコしながら俺を送り出してくれた。


カズハは影森マンションで、まだ両親と一緒の部屋で暮らしている。
でも、次のマンション更新の際、両親はカズハの姉のいる東北に新居を構えるらしい。
そうしたら、カズハはこっちに残って、俺と一緒に暮らしたいと言ってくれた。
それまでに、影森マンションに用意した、俺達の部屋を整えておきたかった。
あの方を模してラッセンの絵を飾ろうかとも思ったが、俺はカズハに写真のネガを借りる事にしていた。
カズハにハスキーの魅力を教えてくれた先輩の写真こそが、俺達の部屋のインテリアに相応しい。

『貴女に代わって、今度は俺がカズハを守ります』

俺はその写真を見るたびに、決意を新たに出来るだろう。
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