しっぽや(No.198~224)
side<MINANO>
私と明戸が捜索からしっぽや事務所に戻ると、長瀞とソシオが深刻な顔で話し合っていた。
「すみません、やはりゲンが心配なのでモッチーにも付いてきていただきたくて
三峰様がご一緒だから、滅多なことにはならないと思うのですが」
申し訳なさそうにうなだれる長瀞に
「元々、モッチーはそーゆー場合があることも込みでゲンのとこで働いてるって言ってたよ
一緒に行くのは社員として当然だし、自分は皆から『強い』って言われてるから平気だって」
ソシオは平然と答えているように見えたが、少し語尾が震えていた。
「どうかしましたか?飼い主達の間に問題でも起こったんですか?」
いつも冷静な長瀞、明るく溌剌としているソシオの様子の変化に違和感を覚え、私は思わずそう聞いてしまった。
「あ、いえ、ゲンの仕事のことなのですが」
煮え切らない長瀞の横から
「あのね、ゲンの両親がやってる不動産、ホンテンとか言うんだっけ?
そこで、やばい物件が出ちゃったらしいんだ
だから三峰様が清めに来てくださるんだけど、その責任者としてゲンとモッチーも一緒に行くことになってさ
かなりヤバい案件なんだよ、俺、モッチーから話し聞いただけで鳥肌立ったもん」
ソシオが腕を見せながら言ってきた。
確かに肌がブツブツしているような気がする。
もし猫の身体だったら、背中の毛がそそり立っているような状態だろう。
「私も同じような状況なんです、頭が痛くて捜索にも集中できません
話を聞いただけで周りを巻き込むと言うのは、よほどのものです」
コメカミを揉んでいる長瀞の腕も、ソシオと同じ状態になっていた。
「あそこまで強烈な事故物件、暫く出なかったのですが
ゲンの店舗で扱っているわけではないけれど、本店の不運が長引けば影響を受けてしまいます
更地にしたい土地があるが、上手く事が進まないとゲンのご両親から相談を受けて発覚したのです」
長瀞は重いため息を吐いた。
「事故物件…?」
私も明戸も事情がよくわからず、長瀞に問いかけるように呟いた。
「人間の死者が出た家のことです
土地や建物に執着している人間が亡くなったり、そこで壮絶な最後を迎えてしまった人間がいると場が穢(けが)れてしまうんですよ
長く放置されればされるほど、他の者の念も入り込み、とんでもない状態になってしまうんです
そんな状態の家だから次の入居者はすぐに出ていってしまうし、最悪、穢れに飲み込まれて同じ最後を迎え、さらなる穢れを呼び込みます
それは管理を任されている不動産屋に及ぶこともあるんです
本店と支店に設置してある三峰様から授かった守りのお札が、最近溶け崩れました」
長瀞の説明に
「お札が溶け崩れるって…」
明戸が息を飲んでいた。
「どうも、水と繋がりがある穢れのようです
水場には集まりやすいですから」
長瀞の言葉に、水が原因で起こった土砂崩れで最後を迎えたあのお方を思い出してしまった。
明戸からも胸の痛みが感じられる。
私たちは同じ事を考えていたようだった。
しかし、物怖じしないチカに飼われている明戸には気が付かなかったことも私は懸念していた。
『もしもそのような存在にトノが飲み込まれたら、私は助けられるのだろうか』
私の飼い主のトノは、自分でもよく言っているように恐がりなのだ。
穢れはその恐怖に取り憑こうとする。
優しくて機転が利いていて頭が良く頼りがいのあるトノだけれど、持って生まれた性質を変えることは難しい。
私に幸せをもたらす愛おしく大事な飼い主を守りたい、常日頃からそう思っていた私は
「三峰様のお清めの場に、私も同行させてください
払いの能力は三峰様の足下にも及ばないのはわかっていますが、少しでもトノを守る術(すべ)を学べたらと思います
せめて、穢れを事前に察知してトノを近寄らせないようにしたいのです」
私がいきなり言い出したことに、皆、戸惑いを隠せないようだった。
「そうだ、俺もちゃんと勉強したい、今までラッキーキャットって身分に甘えすぎてた
本当にヤバいものがモッチーに迫ったら、そんな曖昧なものじゃ守れないもん
モッチーの強さに逆に引き寄せられる存在、あるみたいだから」
ソシオがキッパリと口にすると
「私も、ゲンの不調に引きずられてばかりではダメですね
仕事中はモッチーが一緒に居て助けになってもらうことも出来ますが、休日はそうもいきません
私もゲンを守れるようにならないと」
長瀞も大きく頷いた。
言葉を聞かなくても明戸の気持ちは分かっている。
彼も私を見て笑顔で頷いていた。
「猫の時、山の中の雑多な気は家に入れないよう俺達で追い払ってたけど、この身体と町中の雑然とした気配の中では上手くいかないなって思ってたんだ
勉強させてもらおう」
こうして私たち猫の化生は(後からひろせと羽生も加わった)三峰様の清めの儀式を見学させてもらうことになったのだった。
私と明戸が捜索からしっぽや事務所に戻ると、長瀞とソシオが深刻な顔で話し合っていた。
「すみません、やはりゲンが心配なのでモッチーにも付いてきていただきたくて
三峰様がご一緒だから、滅多なことにはならないと思うのですが」
申し訳なさそうにうなだれる長瀞に
「元々、モッチーはそーゆー場合があることも込みでゲンのとこで働いてるって言ってたよ
一緒に行くのは社員として当然だし、自分は皆から『強い』って言われてるから平気だって」
ソシオは平然と答えているように見えたが、少し語尾が震えていた。
「どうかしましたか?飼い主達の間に問題でも起こったんですか?」
いつも冷静な長瀞、明るく溌剌としているソシオの様子の変化に違和感を覚え、私は思わずそう聞いてしまった。
「あ、いえ、ゲンの仕事のことなのですが」
煮え切らない長瀞の横から
「あのね、ゲンの両親がやってる不動産、ホンテンとか言うんだっけ?
そこで、やばい物件が出ちゃったらしいんだ
だから三峰様が清めに来てくださるんだけど、その責任者としてゲンとモッチーも一緒に行くことになってさ
かなりヤバい案件なんだよ、俺、モッチーから話し聞いただけで鳥肌立ったもん」
ソシオが腕を見せながら言ってきた。
確かに肌がブツブツしているような気がする。
もし猫の身体だったら、背中の毛がそそり立っているような状態だろう。
「私も同じような状況なんです、頭が痛くて捜索にも集中できません
話を聞いただけで周りを巻き込むと言うのは、よほどのものです」
コメカミを揉んでいる長瀞の腕も、ソシオと同じ状態になっていた。
「あそこまで強烈な事故物件、暫く出なかったのですが
ゲンの店舗で扱っているわけではないけれど、本店の不運が長引けば影響を受けてしまいます
更地にしたい土地があるが、上手く事が進まないとゲンのご両親から相談を受けて発覚したのです」
長瀞は重いため息を吐いた。
「事故物件…?」
私も明戸も事情がよくわからず、長瀞に問いかけるように呟いた。
「人間の死者が出た家のことです
土地や建物に執着している人間が亡くなったり、そこで壮絶な最後を迎えてしまった人間がいると場が穢(けが)れてしまうんですよ
長く放置されればされるほど、他の者の念も入り込み、とんでもない状態になってしまうんです
そんな状態の家だから次の入居者はすぐに出ていってしまうし、最悪、穢れに飲み込まれて同じ最後を迎え、さらなる穢れを呼び込みます
それは管理を任されている不動産屋に及ぶこともあるんです
本店と支店に設置してある三峰様から授かった守りのお札が、最近溶け崩れました」
長瀞の説明に
「お札が溶け崩れるって…」
明戸が息を飲んでいた。
「どうも、水と繋がりがある穢れのようです
水場には集まりやすいですから」
長瀞の言葉に、水が原因で起こった土砂崩れで最後を迎えたあのお方を思い出してしまった。
明戸からも胸の痛みが感じられる。
私たちは同じ事を考えていたようだった。
しかし、物怖じしないチカに飼われている明戸には気が付かなかったことも私は懸念していた。
『もしもそのような存在にトノが飲み込まれたら、私は助けられるのだろうか』
私の飼い主のトノは、自分でもよく言っているように恐がりなのだ。
穢れはその恐怖に取り憑こうとする。
優しくて機転が利いていて頭が良く頼りがいのあるトノだけれど、持って生まれた性質を変えることは難しい。
私に幸せをもたらす愛おしく大事な飼い主を守りたい、常日頃からそう思っていた私は
「三峰様のお清めの場に、私も同行させてください
払いの能力は三峰様の足下にも及ばないのはわかっていますが、少しでもトノを守る術(すべ)を学べたらと思います
せめて、穢れを事前に察知してトノを近寄らせないようにしたいのです」
私がいきなり言い出したことに、皆、戸惑いを隠せないようだった。
「そうだ、俺もちゃんと勉強したい、今までラッキーキャットって身分に甘えすぎてた
本当にヤバいものがモッチーに迫ったら、そんな曖昧なものじゃ守れないもん
モッチーの強さに逆に引き寄せられる存在、あるみたいだから」
ソシオがキッパリと口にすると
「私も、ゲンの不調に引きずられてばかりではダメですね
仕事中はモッチーが一緒に居て助けになってもらうことも出来ますが、休日はそうもいきません
私もゲンを守れるようにならないと」
長瀞も大きく頷いた。
言葉を聞かなくても明戸の気持ちは分かっている。
彼も私を見て笑顔で頷いていた。
「猫の時、山の中の雑多な気は家に入れないよう俺達で追い払ってたけど、この身体と町中の雑然とした気配の中では上手くいかないなって思ってたんだ
勉強させてもらおう」
こうして私たち猫の化生は(後からひろせと羽生も加わった)三峰様の清めの儀式を見学させてもらうことになったのだった。