しっぽや(No.198~224)
「俺だってモッチーを守るんだ、何と言ってもラッキーキャットだもんな」
「タケシは守る力より感じる力が強いので、僕がタケシを守らなければ」
「俺だって、サトシを守るよ」
皆野や明戸に続いて事務所に入ってきた猫の化生達が次々に宣言する。
「まあ、いつになく皆野が積極的だと思ったら、飼い主のためだったのね
愛し愛されているようで何よりです」
猫の化生達に続き、小さな女の子が入ってきた。
袖のない白いワンピースが楚々(そそ)とした佇(たたず)まいを見せ、艶々とした真っ直ぐな黒髪が背中まで流れている。
完全なる美少女と言った趣(おもむき)の彼女だが、言葉遣いに子供らしさを感じなかった。
化生、と言うには幼すぎる外見をしていたが、風格が感じられる。
「遅くなってしまって申し訳ありません
帰りに日野にアイスを奢っていただいていたので」
少し申し訳なさそうな彼女の後から
「ごめんなー、先にミイちゃんにアイス奢っちゃった
お茶屋さんのアイスなんて珍しかったでしょ、トッピングも種類豊富だし」
そう言いながら悪戯っぽい表情の日野が姿を現した。
「お抹茶の味が濃くてビックリしました」
2人は和気藹々と話している。
『アイスが好きなミイちゃんって、こっちか!!』
双子ならではの感応力が無くてもわかり安いこの状態に、俺もトノも揃って口を開けるのであった。
「日野、ご無事でしたか」
黒谷が日野に近付くと
「三峰様と私が居たのだ、大丈夫に決まっているだろう」
背の高い彼がサラリと言ってのけた。
「君は肉弾戦の方が得意だろ?日野は霊に敏感で繊細なんだから君じゃ守りにならないよ
第一、人より先に猫を庇うような猫神と一緒だから心配だったんだ」
「今回の人間メンツはそれなりに力のあるメンバーだから、猫を優先するのは当たり前ではないか」
「猫達の方がこんな時は力があるの」
2人のやりとりを聞いていた白久が
「やはり、荒木を行かせなくて正解です」
荒木に頬ずりしている。
『犬の化生って飼い主に過保護…』
俺はそう思わずにはいられなかった。
「モッチーと一緒なので大丈夫だと思いますが、ゲンの様子を見に行ってきます
三峰様、波久礼、また夜に
おもてなしの夕食は皆野に譲って、私は朝食に力を入れることにいたします」
そう言い残し、長瀞さんが事務所を出ていった。
「そうだね、双子はもう上がって三峰様と波久礼に飼い主とのいきさつでも語ってあげて」
「チカ、トノ、お土産ごちそーさま
俺達はもう一仕事頑張るぜ、その前にこれで栄養補給させてもらうね」
荒木や日野に見送られ、俺達は揃って事務所を後にする。
『今日のために用意したもの、喜んでもらえるかな』
俺もトノも短い道中、緊張しっぱしだった。
明戸の部屋に着いて冷えた麦茶で一息入れる。
こんな時どんな風に座れば失礼にならないか、俺とトノは顔を見合わせて正座した。
波久礼は長い足を持て余すようにあぐらをかいている。
ミイちゃんはおしとやかに横に足をずらして座っていた。
明戸と皆野は俺とトノにベッタリくっついている。
偉い人の前で良いのかな、と少し心配になったがミイちゃんは気にした風もなく、優しい顔で双子猫を見ていた。
「改めまして、三峰と申します
ゲン風に言うと『化生の元締め』と言ったところでしょうか
どうぞ、ミイちゃんとお呼びください
このたびは明戸と皆野の飼い主になってくださり、誠にありがとうございます
幸せな2人の顔を見ることが出来て、感慨深く思います」
「私は波久礼と申します、三峰様を警護する武衆の長を勤めております
双子に同時に飼い主が出来る僥倖(ぎょうこう)、この巡り合わせと化生を飼うというお二方の英断に心から感謝します」
丁寧に頭を下げる2人に
「大滝 近戸と申します
明戸のような素晴らしい猫を飼わせていただけて、本当に嬉しいです
一生、明戸のこと大事にします」
「大滝 遠野と申します
皆野の前向きな強さと明るさに救われています
これから先、皆野の居ない人生は考えられません
どうすれば皆野と一生を共に出来るか手探りの状態ではありますが、俺も一生、皆野を大事にします」
俺達も頭を下げる。
具体的な未来図は未だに霧の中ではあるものの、明戸と皆野が霧の中に差し込む明るい日の光であることを、俺達は知っていた。
「明戸、皆野、誠実な良いお方達を選びましたね」
ミイちゃんはそう言って、幼い外見なのに『母』を思わせる笑顔を双子猫に向ける。
「俺達もチカとトノの役に立てるように頑張ります
まずはもっと現代を勉強して、これの使い方マスターするんだ」
明戸は得意げにスマホを掲げて見せた。
「これ、電話も出来るけど写真も撮れるんですよ」
皆野の言葉に
「スマホをカメラ屋さんに持って行けば現像していただけるのかしら
フィルムも入っていないのに、凄い事ね」
ミイちゃんは感心している。
『飼い主の居ない化生ってこーゆーことか』
彼らが何を知らないのか知るところから始めないと、と俺とトノは心に刻むのだった。
それから皆でスマホで写真を撮ったり、それを相手のスマホに送信する方法を教えたり和やかに過ごす。
ちょっと怖そうに見えた波久礼は白パンの柄に興味を持ち、写真を見せたらいたく感動していた。
「やはり、猫というものは生物として最高傑作です
彼のように年経た猫は最早神!あなた方は神と暮らしておいでなのです」
飽かずに白パンの写真を眺める波久礼をよそに
「確かに白パンは頭が良かった、でも、老獪って感じだったけどな」
「トノのことをいつまでも子供だと思っているのは客観視に欠け、過保護だと思います
トノはこんなに大きくて逞しい人間なのに」
双子猫は冷静な意見を述べていた。
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
既に外は暗くなっている。
「そろそろ夕飯にしましょうか
肉が好きだと聞いていたので、ホットプレートで焼き肉をしようかと思ってるんです
松阪牛、とまではいかないけど和牛を用意してあります
この肉、明戸がスマホの抽選で当ててくれたものなんです
俺、そーゆーの当たったこと無いからビックリでした」
「チカの役に立ちたかったから、今まで気にしたことも無かったポイントって言うので引いてみたんだ
引くって言うか、絵を押す感じ?派手な絵に変わって驚いたけど、チカが、これをおもてなしに使おうってアイデア出してくれて嬉しかった」
俺は得意げな顔の明戸の頭を撫でる。
明戸が側にいてくれると物事がスムーズに進む気がして、波久礼の言葉じゃないけど猫は神だという気がしてならなかった。
「皆野がサラダや薬味になりそうな物、スープを用意してくれました
皆野は本当に料理が上手で、何を食べても凄く美味しいんです」
「焼き肉はお肉を焼くだけですよ」
そう言いながらも、トノに誉められた皆野は嬉しそうだった。
そんな俺達を見て
「食べる前からごちそうさま、という感じね」
ミイちゃんは嬉しそうに笑っていた。
俺達はホットプレートで次々と肉を焼いていく。
流石に当選した和牛だけでは足りないので、豚、鶏、ホルモンも用意しておいた。
テーブルの上に山と積まれていた肉や野菜が、あっという間に俺達の胃袋に消えていく。
焼き肉をおかずにご飯も食べていたせいか、肉の量の割には満腹感が強かった。
しかしこれは別腹だろうと
「ミイちゃん、日野と先に食べちゃってたけど、まだアイス食べられる?」
俺はそう聞いてみた。
「もちろんです!」
彼女は真剣な顔で答え何度も頷いた。
「良かった、プロが作ったものじゃないけどそれがかえって珍しいかと思ってレシピ調べて用意しました
でも、実際に作ったのは皆野だから味は保証できますよ」
トノが笑顔を向けると
「皆野が作ってくれるの?」
ミイちゃんは驚いた顔をした。
「トノはとても頭が良く物知りなんです
スマホで直ぐに調べてくれました、スマホって本当に便利ですね」
微笑む皆野に続き
「盛りつけは俺がやってみる、そうすれば俺と皆野が作った事になるってチカが言ってくれたから」
明戸も満面の笑みを浮かべてミイちゃんに報告していた。
皆野が冷凍庫からジップロックに入ったアイスを持ってくる。
明戸は直ぐにそれを盛りつけようとはせず、器にカットされているフルーツをのせていった。
「アイス用の揃いの食器なんて持ってないから、バラバラのですいません」
明戸が言うように不揃いの器ではあったが、明戸と皆野が普段使いしていると思うと愛着の沸く食器達であった。
「三峰様のは1番大きいのにするね」
それは小丼とでも呼べるような渋い物だったが、そこに明戸がフルーツを入れると重厚ながらも華やかな雰囲気に変わっていく。
「そろそろ大丈夫かな」
明戸はジップロックを手にとって、確かめるように揉んでいる。
おもむろに袋の隅をハサミで切ると、中身を器に絞り出していった。
絞り終わるとさらにフルーツで飾り付ける。
「フルーツたっぷり、ソフトクリーム風アイスです
まずは三峰様からどうぞ」
明戸に差し出された器を前に、ミイちゃんは少女のように瞳を輝かせ頬を染めていた。
「美味しい!濃厚な風味でありながら爽やかな後味
フルーツが多いからかしら」
「ヨーグルトとホイップクリームを混ぜた物を氷らせたんです
お手軽でも美味しくて良いですよ
武衆の料理番にレシピを教えておきますから、お屋敷で食べたくなったら彼らに作ってもらってください
丁度彼らに連絡を取りたかったので、良いタイミングでした」
それは口に残った肉の脂を流してくれるような、爽やかで美味しいアイスだった。
「貴方達は4人でいると、素敵な物を生み出せるようですね」
満足顔のミイちゃんは頷き
「4人で暮らせる部屋を早いうちに用立ててもらうよう、ゲンに進言しておきます
賃料のことは気にしなくて良いのよ、まだ学生なのだから
卒業するまでは別荘代わりにでもして、ちょくちょく来てやってくださいね」
驚くようなことを口にした。
「いや、今からじゃ悪いですよ」
「ちゃんと就職してから借りようかと」
慌てる俺達に
「化生の飼い主は、本当に誠実な方々ばかりですね
卒業する頃、きっとまた良い風が吹いてくるでしょう」
ミイちゃんは大人びた表情で優しく微笑みながら告げてくれた。
「飼い主と暮らせる場所が出来るの、嬉しい
チカ、新しい部屋にも来てくれる?」
飼い猫の健気なお願いに
「俺も明戸のいる場所で暮らせるのが凄く楽しみだよ
明戸の役に立てるよう、皆の役に立てるよう頑張るから、ずっとずっと俺の側にいてくれ」
何だかプロポーズのようなセリフで答えてしまうのであった。
「タケシは守る力より感じる力が強いので、僕がタケシを守らなければ」
「俺だって、サトシを守るよ」
皆野や明戸に続いて事務所に入ってきた猫の化生達が次々に宣言する。
「まあ、いつになく皆野が積極的だと思ったら、飼い主のためだったのね
愛し愛されているようで何よりです」
猫の化生達に続き、小さな女の子が入ってきた。
袖のない白いワンピースが楚々(そそ)とした佇(たたず)まいを見せ、艶々とした真っ直ぐな黒髪が背中まで流れている。
完全なる美少女と言った趣(おもむき)の彼女だが、言葉遣いに子供らしさを感じなかった。
化生、と言うには幼すぎる外見をしていたが、風格が感じられる。
「遅くなってしまって申し訳ありません
帰りに日野にアイスを奢っていただいていたので」
少し申し訳なさそうな彼女の後から
「ごめんなー、先にミイちゃんにアイス奢っちゃった
お茶屋さんのアイスなんて珍しかったでしょ、トッピングも種類豊富だし」
そう言いながら悪戯っぽい表情の日野が姿を現した。
「お抹茶の味が濃くてビックリしました」
2人は和気藹々と話している。
『アイスが好きなミイちゃんって、こっちか!!』
双子ならではの感応力が無くてもわかり安いこの状態に、俺もトノも揃って口を開けるのであった。
「日野、ご無事でしたか」
黒谷が日野に近付くと
「三峰様と私が居たのだ、大丈夫に決まっているだろう」
背の高い彼がサラリと言ってのけた。
「君は肉弾戦の方が得意だろ?日野は霊に敏感で繊細なんだから君じゃ守りにならないよ
第一、人より先に猫を庇うような猫神と一緒だから心配だったんだ」
「今回の人間メンツはそれなりに力のあるメンバーだから、猫を優先するのは当たり前ではないか」
「猫達の方がこんな時は力があるの」
2人のやりとりを聞いていた白久が
「やはり、荒木を行かせなくて正解です」
荒木に頬ずりしている。
『犬の化生って飼い主に過保護…』
俺はそう思わずにはいられなかった。
「モッチーと一緒なので大丈夫だと思いますが、ゲンの様子を見に行ってきます
三峰様、波久礼、また夜に
おもてなしの夕食は皆野に譲って、私は朝食に力を入れることにいたします」
そう言い残し、長瀞さんが事務所を出ていった。
「そうだね、双子はもう上がって三峰様と波久礼に飼い主とのいきさつでも語ってあげて」
「チカ、トノ、お土産ごちそーさま
俺達はもう一仕事頑張るぜ、その前にこれで栄養補給させてもらうね」
荒木や日野に見送られ、俺達は揃って事務所を後にする。
『今日のために用意したもの、喜んでもらえるかな』
俺もトノも短い道中、緊張しっぱしだった。
明戸の部屋に着いて冷えた麦茶で一息入れる。
こんな時どんな風に座れば失礼にならないか、俺とトノは顔を見合わせて正座した。
波久礼は長い足を持て余すようにあぐらをかいている。
ミイちゃんはおしとやかに横に足をずらして座っていた。
明戸と皆野は俺とトノにベッタリくっついている。
偉い人の前で良いのかな、と少し心配になったがミイちゃんは気にした風もなく、優しい顔で双子猫を見ていた。
「改めまして、三峰と申します
ゲン風に言うと『化生の元締め』と言ったところでしょうか
どうぞ、ミイちゃんとお呼びください
このたびは明戸と皆野の飼い主になってくださり、誠にありがとうございます
幸せな2人の顔を見ることが出来て、感慨深く思います」
「私は波久礼と申します、三峰様を警護する武衆の長を勤めております
双子に同時に飼い主が出来る僥倖(ぎょうこう)、この巡り合わせと化生を飼うというお二方の英断に心から感謝します」
丁寧に頭を下げる2人に
「大滝 近戸と申します
明戸のような素晴らしい猫を飼わせていただけて、本当に嬉しいです
一生、明戸のこと大事にします」
「大滝 遠野と申します
皆野の前向きな強さと明るさに救われています
これから先、皆野の居ない人生は考えられません
どうすれば皆野と一生を共に出来るか手探りの状態ではありますが、俺も一生、皆野を大事にします」
俺達も頭を下げる。
具体的な未来図は未だに霧の中ではあるものの、明戸と皆野が霧の中に差し込む明るい日の光であることを、俺達は知っていた。
「明戸、皆野、誠実な良いお方達を選びましたね」
ミイちゃんはそう言って、幼い外見なのに『母』を思わせる笑顔を双子猫に向ける。
「俺達もチカとトノの役に立てるように頑張ります
まずはもっと現代を勉強して、これの使い方マスターするんだ」
明戸は得意げにスマホを掲げて見せた。
「これ、電話も出来るけど写真も撮れるんですよ」
皆野の言葉に
「スマホをカメラ屋さんに持って行けば現像していただけるのかしら
フィルムも入っていないのに、凄い事ね」
ミイちゃんは感心している。
『飼い主の居ない化生ってこーゆーことか』
彼らが何を知らないのか知るところから始めないと、と俺とトノは心に刻むのだった。
それから皆でスマホで写真を撮ったり、それを相手のスマホに送信する方法を教えたり和やかに過ごす。
ちょっと怖そうに見えた波久礼は白パンの柄に興味を持ち、写真を見せたらいたく感動していた。
「やはり、猫というものは生物として最高傑作です
彼のように年経た猫は最早神!あなた方は神と暮らしておいでなのです」
飽かずに白パンの写真を眺める波久礼をよそに
「確かに白パンは頭が良かった、でも、老獪って感じだったけどな」
「トノのことをいつまでも子供だと思っているのは客観視に欠け、過保護だと思います
トノはこんなに大きくて逞しい人間なのに」
双子猫は冷静な意見を述べていた。
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
既に外は暗くなっている。
「そろそろ夕飯にしましょうか
肉が好きだと聞いていたので、ホットプレートで焼き肉をしようかと思ってるんです
松阪牛、とまではいかないけど和牛を用意してあります
この肉、明戸がスマホの抽選で当ててくれたものなんです
俺、そーゆーの当たったこと無いからビックリでした」
「チカの役に立ちたかったから、今まで気にしたことも無かったポイントって言うので引いてみたんだ
引くって言うか、絵を押す感じ?派手な絵に変わって驚いたけど、チカが、これをおもてなしに使おうってアイデア出してくれて嬉しかった」
俺は得意げな顔の明戸の頭を撫でる。
明戸が側にいてくれると物事がスムーズに進む気がして、波久礼の言葉じゃないけど猫は神だという気がしてならなかった。
「皆野がサラダや薬味になりそうな物、スープを用意してくれました
皆野は本当に料理が上手で、何を食べても凄く美味しいんです」
「焼き肉はお肉を焼くだけですよ」
そう言いながらも、トノに誉められた皆野は嬉しそうだった。
そんな俺達を見て
「食べる前からごちそうさま、という感じね」
ミイちゃんは嬉しそうに笑っていた。
俺達はホットプレートで次々と肉を焼いていく。
流石に当選した和牛だけでは足りないので、豚、鶏、ホルモンも用意しておいた。
テーブルの上に山と積まれていた肉や野菜が、あっという間に俺達の胃袋に消えていく。
焼き肉をおかずにご飯も食べていたせいか、肉の量の割には満腹感が強かった。
しかしこれは別腹だろうと
「ミイちゃん、日野と先に食べちゃってたけど、まだアイス食べられる?」
俺はそう聞いてみた。
「もちろんです!」
彼女は真剣な顔で答え何度も頷いた。
「良かった、プロが作ったものじゃないけどそれがかえって珍しいかと思ってレシピ調べて用意しました
でも、実際に作ったのは皆野だから味は保証できますよ」
トノが笑顔を向けると
「皆野が作ってくれるの?」
ミイちゃんは驚いた顔をした。
「トノはとても頭が良く物知りなんです
スマホで直ぐに調べてくれました、スマホって本当に便利ですね」
微笑む皆野に続き
「盛りつけは俺がやってみる、そうすれば俺と皆野が作った事になるってチカが言ってくれたから」
明戸も満面の笑みを浮かべてミイちゃんに報告していた。
皆野が冷凍庫からジップロックに入ったアイスを持ってくる。
明戸は直ぐにそれを盛りつけようとはせず、器にカットされているフルーツをのせていった。
「アイス用の揃いの食器なんて持ってないから、バラバラのですいません」
明戸が言うように不揃いの器ではあったが、明戸と皆野が普段使いしていると思うと愛着の沸く食器達であった。
「三峰様のは1番大きいのにするね」
それは小丼とでも呼べるような渋い物だったが、そこに明戸がフルーツを入れると重厚ながらも華やかな雰囲気に変わっていく。
「そろそろ大丈夫かな」
明戸はジップロックを手にとって、確かめるように揉んでいる。
おもむろに袋の隅をハサミで切ると、中身を器に絞り出していった。
絞り終わるとさらにフルーツで飾り付ける。
「フルーツたっぷり、ソフトクリーム風アイスです
まずは三峰様からどうぞ」
明戸に差し出された器を前に、ミイちゃんは少女のように瞳を輝かせ頬を染めていた。
「美味しい!濃厚な風味でありながら爽やかな後味
フルーツが多いからかしら」
「ヨーグルトとホイップクリームを混ぜた物を氷らせたんです
お手軽でも美味しくて良いですよ
武衆の料理番にレシピを教えておきますから、お屋敷で食べたくなったら彼らに作ってもらってください
丁度彼らに連絡を取りたかったので、良いタイミングでした」
それは口に残った肉の脂を流してくれるような、爽やかで美味しいアイスだった。
「貴方達は4人でいると、素敵な物を生み出せるようですね」
満足顔のミイちゃんは頷き
「4人で暮らせる部屋を早いうちに用立ててもらうよう、ゲンに進言しておきます
賃料のことは気にしなくて良いのよ、まだ学生なのだから
卒業するまでは別荘代わりにでもして、ちょくちょく来てやってくださいね」
驚くようなことを口にした。
「いや、今からじゃ悪いですよ」
「ちゃんと就職してから借りようかと」
慌てる俺達に
「化生の飼い主は、本当に誠実な方々ばかりですね
卒業する頃、きっとまた良い風が吹いてくるでしょう」
ミイちゃんは大人びた表情で優しく微笑みながら告げてくれた。
「飼い主と暮らせる場所が出来るの、嬉しい
チカ、新しい部屋にも来てくれる?」
飼い猫の健気なお願いに
「俺も明戸のいる場所で暮らせるのが凄く楽しみだよ
明戸の役に立てるよう、皆の役に立てるよう頑張るから、ずっとずっと俺の側にいてくれ」
何だかプロポーズのようなセリフで答えてしまうのであった。