しっぽや(No.198~224)
side<CHIKATO>
大学に入学してから2ヶ月以上経ち、梅雨の季節になった。
俺の愛する飼い猫の明戸は、生前に起こった土砂崩れにより飼い主と共に命を落としている。
『家の中で静かな雨音を聞いてる分には大丈夫なんだ
猫だったとき、雨の日は近所のパトロールには行かないで、茶の間の座布団で皆野とウトウトするの好きだったしさ
今も雨の日は控え室の白久布団でウトウトしてるよ
でも、台風の時みたいに風が強くて叩きつけてくるような雨は怖いんだ
身体が濡れるのも嫌だな』
影森マンションに行ったとき、急に降り出した雨を窓越しに眺めて、明戸が俺の腕にしがみつきながら教えてくれた。
『でも、チカのおかげでシャワーで濡れるのは好きになった
シャワーに打たれてると、チカのこと思い出せるから
雨と違って温かくて気持ち良いんだって気が付いたよ』
『明戸のトラウマを少しでも解消できて良かった』
髪を撫でると明戸は気持ちよさそうに目を細める。
彼が俺に向けてくれる幸せな笑顔が大好きだ。
この笑顔を守るために自分に何が出来るのか、それが最近の俺の大きな悩みになっていた。
大学の講義の後バイトまでの少しの時間、俺は先輩化生飼いの荒木に色々と相談するのが日課のようになっていた。
荒木も早くしっぽや事務所に行って自分の飼い犬に会いたいだろうに、いつも俺に付き合ってくれた。
荒木は事あるごとに俺のことを誉めてくれるが、自然体で他人に親身になれる荒木の方がよっぽど凄いと思う。
化生の飼い主仲間でラン仲間でもある日野に言わせると
『上辺だけ優しい奴はいくらでもいるけど、荒木の優しさは強さの上に成り立ってるから本物だよ
強いって言うのは腕力や体力じゃなく、気力的な事でね』
それは、白パンを探すときに俺自身も何となく感じていたことであった。
「近戸、今週も明戸のとこに泊まりに行くんだろ
遠野も一緒?」
季節限定のシェイクをすすりながら荒木が聞いてきた。
「うん、何か俺だけだと皆野がかわいそうかな、とか思っちゃってさ
なるべく一緒に行くようにしようってトノと話し合ったんだ
こんなとき客商売だと、週末は動きが取りにくいんだけどね
でも俺の代わりに久長と蒔田が頑張ってくれてるから、前よりは自由がきくかな」
俺はポテトを口に運び、コーラで流し込んだ。
「ほんと、お前ら偉いよ
俺、接客業とか無理だもん」
荒木はシェイクをもう1口すすり
「遠野も一緒に来られるなら良かった
日野からも言われてるだろうけど、ミイちゃんって化生の偉い人が今週末に来るんだ
メインの用事はゲンさんとこらしいけど、せっかくだから双子の飼い主にも会ってみたいんだって
偉い人って言っても、身構えなくても良い相手だよ
ただ、登場の仕方が独特かもしれないから一応頭に入れといた方が良いかと思ってさ
俺なんか素性知らずに、一緒に犬を探し回ったっもんなー
結局探してたのは犬じゃなくて狼犬の化生だったんだけど」
荒木は苦笑して頭をかいていた。
荒木の話を聞いて俺はさすがに緊張してしまう。
明戸を幸せに出来る明確なビジョンがない今の俺を、その偉い人が受け入れてくれるのだろうかという不安が頭をもたげてしまうからだ。
俺の顔から緊張を読みとった荒木が
「大丈夫だって、コンビニアイスでも用意すればホクホクだよ
猫と違って、魚より肉の方が好きかも
メンチも買っておけば良いんじゃない?
明戸がお店を知ってるよ、今までも波久礼のために用意してたから」
和ませようと軽い感じで言ってくれた。
が、ふいに顔を曇らせ
「あー、波久礼って狼犬の猫神化生がいるんだ
ミイちゃんが来るから一緒に来ると思う
明戸が波久礼にベタベタしても、あんまり気にしない方が良いよ
波久礼は猫達の中では別格扱いでさ、でも本当に別格なのは飼い主だから近戸の勝ちだ
とは言え長瀞さんすら、波久礼にはベタベタするもんな
猫神として覚醒した瞬間を見た者としては、複雑な心境
白久が犬で良かった」
よくわからないことをブツブツ呟きだした。
「荒木?」
少し不安になって名前を呼んだら
「あ、ごめん、ちょっと色々想像しちゃってた
とにかく、ゲンさんとこに何日か泊まるって言ってたから、時間があったら会ってみて」
荒木はハッとした顔になって、またシェイクを口に含んだ。
「ミイちゃんってシェイクも好きそうだけど、持ち帰りだと溶けちゃうんだよな
アイス食べられる店に連れて行くのがベストかな
おもてなしは人間が考えた方が喜ぶかもよ
ありふれたことでも珍しがってくれたりするし
ミイちゃん住んでるの山の中で、人里に買い物に出たりもするけど、けっこう田舎だから」
「トノと明戸、皆野にも相談してみるよ」
きっと4人で考えれば良いアイデアが浮かぶだろう。
俺はごく自然にそんなことを考え、頬を緩めてしまうのであった。
週末、早朝のバイトを終えた俺とトノは車で影森マンションに向かった。
来客用駐車場に車を止め、しっぽやへの土産物を手に事務所へ移動する。
「家から近い職場だと、楽で良いな」
「ああ、通勤時間が長いと移動の時間がもったいないよ」
「やっぱり、この近くに就職できればベストなんだけど」
「リモートワークが多ければ、会社が多少遠くても良いよな」
最近の俺達の話題は、就職先をどこにするかが中心になっていた。
コンコン
ノックをして事務所のドアを開ける。
明戸か皆野がいれば自動ドアのように開くが、今回は自分たちで開けた。
と言うことは、2人とも捜索に出ていて事務所には居ないようだった。
「いらっしゃい、双子は今ちょっと出てるんだ」
所長席から日野の飼い犬の黒谷が朗らかに話しかけてくる。
「近戸、遠野、こんちわ
今日はちょっとやっかいな依頼があって、猫達が出払ってててさ
日野とかタケぽん、ナリ、モッチー、人間も結構出てる
まあ皆、勉強目的の見学、って感じなんだけど
俺は能力無いから留守番」
荒木の言っていることはよくわからなかった。
「荒木を危険な場所に行かせるわけにはまいりません
荒木はここで皆の帰りをお待ちください」
荒木の飼い犬、白久が守るように荒木を抱きしめた。
「危険な場所って…明戸と皆野は大丈夫なのか?」
焦って聞く俺に
「ミイちゃんいるし、大丈夫だよ
皆野が遠野を守る勉強をしたいって言い出したら、猫達こぞって自分もって言ってさ、皆でミイちゃんの作業を見に行ってるんだ
波久礼もいるから、絶対に猫に危険は及ばないって
興味のある人間達も勉強しに行ってる
モッチーは半分仕事みたいなもんかな」
荒木は白久に抱きしめられたまま、あっけらかんと言っていた。
俺もトノもそうとう不思議そうな顔をしていたのだろう。
荒木はもう少し詳細に説明を始めた。
「2人とも部屋を見せてもらうときにゲンさんに会ったよね
ゲンさんの両親も不動産屋やってるんだ
そこで、ちょっとタチの悪い事故物件が出ちゃったんだって
それでゲンさんが、ミイちゃんにそこを清められないかって相談してさ
双子の飼い主も見てみたいから丁度良いタイミングだって、二つ返事で引き受けたらしいよ
ミイちゃん、ヤバいもの払う力があるんだよ
ヤバいと言うか、あの人は愛する犬への執着と後悔が強すぎたんだろうな…」
最後の荒木の小さな呟きを聞いて、白久はさらに強く荒木を抱きしめていた。
「これ、お土産」
俺達が手渡したビニール袋の中身を確認した荒木が破顔する。
中にはお徳用大袋の煎餅やパン、見切り品のお菓子がぎっしりと詰まっている。
「日野の食いっぷりは、この間、眼に焼き付けておいたから」
「日野を満足させる量を1人で作れる黒谷の凄さを実感したよ」
俺とトノが言うと黒谷は得意満面といった顔になり
「愛だよ、愛」
と言いながら深く頷いていた。
「日野のお茶菓子前菜にピッタリだよ
こーゆーのないと、俺の食う分が無くなっちゃうからさ」
荒木は黒谷とは違う意味で深く頷いていた。
依頼人が来なかったので、俺達はそのまま事務所内で雑談する。
ふいに黒谷と白久が顔を上げ
「戻られた」
と同時に言った。
直ぐにノックの音が続き、トノよりもずっと大きな人影が事務所に入ってきた。
日本人には見えない彫りの深い顔、ウルフカットと言うのだろうか野性味あふれる髪は灰色で、野生動物のように鋭い瞳をしていた。
グレーのスーツの上からでも筋肉の張りがわかる、鍛え抜かれた肢体をもっている。
そんな彼の両腕には、ベッタリと明戸と皆野が張り付いていた。
『これが化生の偉い人…俺とは格が違いすぎる
これでコンビニアイス好きとか、ギャップ萌が過ぎるだろ』
多分、似たようなことを考えているのだろう、隣にいるトノも息を飲んでいた。
「チカ!」
俺の姿を確認した明戸が一目散に駆け寄ってくる。
その笑顔は彼の腕に張り付いていた時より嬉しそうで、取りあえずホッとした。
「トノ!」
皆野も同じようにトノに駆け寄っていく。
取り残された彼は俺達を見て鋭い眼光を弱め
「お初にお目にかかります、あなた方が双子の飼い主ですね
どうか2人のことをよろしくお願いいたします」
深々と礼儀正しく頭を下げてくれた。
「トノ、三峰様の技を見せていただきました
私にはあそこまでの力はありませんが、それでもトノを守る一助になると思います
怪異が来ても私がいれば大丈夫です」
皆野に真剣な顔で言われて、トノは照れて赤くなりながらも嬉しそうに頷いている。
「俺もチカに怪しい物は近寄らせないから」
皆野に対抗するように張り切った顔を見せる明戸の俺を思う心が嬉しくて、俺も堪えきれずに照れ笑いを浮かべてしまうのであった。
大学に入学してから2ヶ月以上経ち、梅雨の季節になった。
俺の愛する飼い猫の明戸は、生前に起こった土砂崩れにより飼い主と共に命を落としている。
『家の中で静かな雨音を聞いてる分には大丈夫なんだ
猫だったとき、雨の日は近所のパトロールには行かないで、茶の間の座布団で皆野とウトウトするの好きだったしさ
今も雨の日は控え室の白久布団でウトウトしてるよ
でも、台風の時みたいに風が強くて叩きつけてくるような雨は怖いんだ
身体が濡れるのも嫌だな』
影森マンションに行ったとき、急に降り出した雨を窓越しに眺めて、明戸が俺の腕にしがみつきながら教えてくれた。
『でも、チカのおかげでシャワーで濡れるのは好きになった
シャワーに打たれてると、チカのこと思い出せるから
雨と違って温かくて気持ち良いんだって気が付いたよ』
『明戸のトラウマを少しでも解消できて良かった』
髪を撫でると明戸は気持ちよさそうに目を細める。
彼が俺に向けてくれる幸せな笑顔が大好きだ。
この笑顔を守るために自分に何が出来るのか、それが最近の俺の大きな悩みになっていた。
大学の講義の後バイトまでの少しの時間、俺は先輩化生飼いの荒木に色々と相談するのが日課のようになっていた。
荒木も早くしっぽや事務所に行って自分の飼い犬に会いたいだろうに、いつも俺に付き合ってくれた。
荒木は事あるごとに俺のことを誉めてくれるが、自然体で他人に親身になれる荒木の方がよっぽど凄いと思う。
化生の飼い主仲間でラン仲間でもある日野に言わせると
『上辺だけ優しい奴はいくらでもいるけど、荒木の優しさは強さの上に成り立ってるから本物だよ
強いって言うのは腕力や体力じゃなく、気力的な事でね』
それは、白パンを探すときに俺自身も何となく感じていたことであった。
「近戸、今週も明戸のとこに泊まりに行くんだろ
遠野も一緒?」
季節限定のシェイクをすすりながら荒木が聞いてきた。
「うん、何か俺だけだと皆野がかわいそうかな、とか思っちゃってさ
なるべく一緒に行くようにしようってトノと話し合ったんだ
こんなとき客商売だと、週末は動きが取りにくいんだけどね
でも俺の代わりに久長と蒔田が頑張ってくれてるから、前よりは自由がきくかな」
俺はポテトを口に運び、コーラで流し込んだ。
「ほんと、お前ら偉いよ
俺、接客業とか無理だもん」
荒木はシェイクをもう1口すすり
「遠野も一緒に来られるなら良かった
日野からも言われてるだろうけど、ミイちゃんって化生の偉い人が今週末に来るんだ
メインの用事はゲンさんとこらしいけど、せっかくだから双子の飼い主にも会ってみたいんだって
偉い人って言っても、身構えなくても良い相手だよ
ただ、登場の仕方が独特かもしれないから一応頭に入れといた方が良いかと思ってさ
俺なんか素性知らずに、一緒に犬を探し回ったっもんなー
結局探してたのは犬じゃなくて狼犬の化生だったんだけど」
荒木は苦笑して頭をかいていた。
荒木の話を聞いて俺はさすがに緊張してしまう。
明戸を幸せに出来る明確なビジョンがない今の俺を、その偉い人が受け入れてくれるのだろうかという不安が頭をもたげてしまうからだ。
俺の顔から緊張を読みとった荒木が
「大丈夫だって、コンビニアイスでも用意すればホクホクだよ
猫と違って、魚より肉の方が好きかも
メンチも買っておけば良いんじゃない?
明戸がお店を知ってるよ、今までも波久礼のために用意してたから」
和ませようと軽い感じで言ってくれた。
が、ふいに顔を曇らせ
「あー、波久礼って狼犬の猫神化生がいるんだ
ミイちゃんが来るから一緒に来ると思う
明戸が波久礼にベタベタしても、あんまり気にしない方が良いよ
波久礼は猫達の中では別格扱いでさ、でも本当に別格なのは飼い主だから近戸の勝ちだ
とは言え長瀞さんすら、波久礼にはベタベタするもんな
猫神として覚醒した瞬間を見た者としては、複雑な心境
白久が犬で良かった」
よくわからないことをブツブツ呟きだした。
「荒木?」
少し不安になって名前を呼んだら
「あ、ごめん、ちょっと色々想像しちゃってた
とにかく、ゲンさんとこに何日か泊まるって言ってたから、時間があったら会ってみて」
荒木はハッとした顔になって、またシェイクを口に含んだ。
「ミイちゃんってシェイクも好きそうだけど、持ち帰りだと溶けちゃうんだよな
アイス食べられる店に連れて行くのがベストかな
おもてなしは人間が考えた方が喜ぶかもよ
ありふれたことでも珍しがってくれたりするし
ミイちゃん住んでるの山の中で、人里に買い物に出たりもするけど、けっこう田舎だから」
「トノと明戸、皆野にも相談してみるよ」
きっと4人で考えれば良いアイデアが浮かぶだろう。
俺はごく自然にそんなことを考え、頬を緩めてしまうのであった。
週末、早朝のバイトを終えた俺とトノは車で影森マンションに向かった。
来客用駐車場に車を止め、しっぽやへの土産物を手に事務所へ移動する。
「家から近い職場だと、楽で良いな」
「ああ、通勤時間が長いと移動の時間がもったいないよ」
「やっぱり、この近くに就職できればベストなんだけど」
「リモートワークが多ければ、会社が多少遠くても良いよな」
最近の俺達の話題は、就職先をどこにするかが中心になっていた。
コンコン
ノックをして事務所のドアを開ける。
明戸か皆野がいれば自動ドアのように開くが、今回は自分たちで開けた。
と言うことは、2人とも捜索に出ていて事務所には居ないようだった。
「いらっしゃい、双子は今ちょっと出てるんだ」
所長席から日野の飼い犬の黒谷が朗らかに話しかけてくる。
「近戸、遠野、こんちわ
今日はちょっとやっかいな依頼があって、猫達が出払ってててさ
日野とかタケぽん、ナリ、モッチー、人間も結構出てる
まあ皆、勉強目的の見学、って感じなんだけど
俺は能力無いから留守番」
荒木の言っていることはよくわからなかった。
「荒木を危険な場所に行かせるわけにはまいりません
荒木はここで皆の帰りをお待ちください」
荒木の飼い犬、白久が守るように荒木を抱きしめた。
「危険な場所って…明戸と皆野は大丈夫なのか?」
焦って聞く俺に
「ミイちゃんいるし、大丈夫だよ
皆野が遠野を守る勉強をしたいって言い出したら、猫達こぞって自分もって言ってさ、皆でミイちゃんの作業を見に行ってるんだ
波久礼もいるから、絶対に猫に危険は及ばないって
興味のある人間達も勉強しに行ってる
モッチーは半分仕事みたいなもんかな」
荒木は白久に抱きしめられたまま、あっけらかんと言っていた。
俺もトノもそうとう不思議そうな顔をしていたのだろう。
荒木はもう少し詳細に説明を始めた。
「2人とも部屋を見せてもらうときにゲンさんに会ったよね
ゲンさんの両親も不動産屋やってるんだ
そこで、ちょっとタチの悪い事故物件が出ちゃったんだって
それでゲンさんが、ミイちゃんにそこを清められないかって相談してさ
双子の飼い主も見てみたいから丁度良いタイミングだって、二つ返事で引き受けたらしいよ
ミイちゃん、ヤバいもの払う力があるんだよ
ヤバいと言うか、あの人は愛する犬への執着と後悔が強すぎたんだろうな…」
最後の荒木の小さな呟きを聞いて、白久はさらに強く荒木を抱きしめていた。
「これ、お土産」
俺達が手渡したビニール袋の中身を確認した荒木が破顔する。
中にはお徳用大袋の煎餅やパン、見切り品のお菓子がぎっしりと詰まっている。
「日野の食いっぷりは、この間、眼に焼き付けておいたから」
「日野を満足させる量を1人で作れる黒谷の凄さを実感したよ」
俺とトノが言うと黒谷は得意満面といった顔になり
「愛だよ、愛」
と言いながら深く頷いていた。
「日野のお茶菓子前菜にピッタリだよ
こーゆーのないと、俺の食う分が無くなっちゃうからさ」
荒木は黒谷とは違う意味で深く頷いていた。
依頼人が来なかったので、俺達はそのまま事務所内で雑談する。
ふいに黒谷と白久が顔を上げ
「戻られた」
と同時に言った。
直ぐにノックの音が続き、トノよりもずっと大きな人影が事務所に入ってきた。
日本人には見えない彫りの深い顔、ウルフカットと言うのだろうか野性味あふれる髪は灰色で、野生動物のように鋭い瞳をしていた。
グレーのスーツの上からでも筋肉の張りがわかる、鍛え抜かれた肢体をもっている。
そんな彼の両腕には、ベッタリと明戸と皆野が張り付いていた。
『これが化生の偉い人…俺とは格が違いすぎる
これでコンビニアイス好きとか、ギャップ萌が過ぎるだろ』
多分、似たようなことを考えているのだろう、隣にいるトノも息を飲んでいた。
「チカ!」
俺の姿を確認した明戸が一目散に駆け寄ってくる。
その笑顔は彼の腕に張り付いていた時より嬉しそうで、取りあえずホッとした。
「トノ!」
皆野も同じようにトノに駆け寄っていく。
取り残された彼は俺達を見て鋭い眼光を弱め
「お初にお目にかかります、あなた方が双子の飼い主ですね
どうか2人のことをよろしくお願いいたします」
深々と礼儀正しく頭を下げてくれた。
「トノ、三峰様の技を見せていただきました
私にはあそこまでの力はありませんが、それでもトノを守る一助になると思います
怪異が来ても私がいれば大丈夫です」
皆野に真剣な顔で言われて、トノは照れて赤くなりながらも嬉しそうに頷いている。
「俺もチカに怪しい物は近寄らせないから」
皆野に対抗するように張り切った顔を見せる明戸の俺を思う心が嬉しくて、俺も堪えきれずに照れ笑いを浮かべてしまうのであった。