しっぽや(No.198~224)
「そんなことがあったのか
俺はそーゆー体験したことないけど、明戸の過去は見たから不思議な話も信じられるよ」
「皆野と会って、オカルト的な事って怖いだけじゃないって思うようになれたんだ」
「そうそう、トノってこの図体(ずうたいで)で恐がりなんだよ笑えるだろ?
最も、俺も知ったの最近だけど
今まで強がってたみたいでさ」
「いや、今は皆野がいるからそこまででは…」
俺の話を切いた後も特別なもののように扱わず、普通に接してくれる態度がありがたかった。
「よかったら明戸の過去も読んでやって
彼、元の飼い主の影響で自伝を書いてるんだ
あーにゃんって猫が確かに生きていた証みたいなものだと思ってる
皆にも知って欲しくて」
「皆野の過去も同じ感じなんだ
飼い主に保護されたのは皆野の方が先だけど、ほとんど同じ時を過ごしている
みーにゃんって猫も、同じ時間を生きていた
記憶の転写って飼い主にしか正確な物を見せられないみたいだけど、あれを読んでもらえれば、皆にももう少し深く皆野をわかってもらえるかなって」
「え?プライベートな内容なのに良いの?」
流石に躊躇してしまう俺に
「もちろんだよ、化生を飼ってる人たちって家族みたいなものだって荒木が言ってたからね
家族には隠しておきたいこともあるけど、知って欲しいこともあるじゃん
俺は明戸を知って欲しい」
「俺も皆野を知って欲しい」
2人はきっぱりと断言する。
黒谷に視線を向けたら優しく頷いていた。
「飼い主の意向です、双子も知って欲しがるでしょう
僕には書を認(したた)めるような才能はないですが、確かに生の区切りとしてあのお方とのことを振り返りたい気もしますね
ただ、僕の場合和銅との思い出の方が強く、その上に日野との思い出がありますから何を書けば良いやら」
苦笑気味の黒谷に
「俺だけ見て、俺のために存在してくれるだけで十分だよ
どうせなら俺達が出会ってからの事だけ綴っていこう」
俺はそう言って彼の柔らかな髪を撫で、軽いキスをした。
「何か、すっごい自然に接するんだ」
「やっぱ化生の扱いに対する先輩って感じして、貫禄あるな」
大滝兄弟は尊敬を込めた視線を俺に向けてくる。
我に返った俺は真っ赤になって俯くしかないのだった。
それから2人にフォームを見てもらう。
「もう少し、腕は身体に近付けた方が良いかな
大きく振りすぎると反動で最初は早くても、疲れるのも早い」
「俺達と走ってるせいかな、歩幅はもっと短くて良いんじゃないか
日野の体重は軽いから、1歩の推進力は大きいだろう」
流石に良いコーチを付け本格的指導を受けていただけあって、その助言は的確だった。
「しかし、こうして見ると黒谷のフォームって直しようが無いというか、何であんなフォームでメチャ早いのかさっぱりわからない」
「明戸と皆野が走ってるときも、同じ事感じたっけ
何で追いつけないのか訳わからなかった
特殊な訓練受けた極秘アスリートみたいだったもんな」
2人は首をひねっている。
「犬も猫も、人間とは違う筋肉使って走ってるから真似できないよ
化生って基本は人間の体なんだけど、獣の特性が出ることがあるからね
猫なんて全身バネみたいにして走るじゃん
彼らが猛ダッシュしてると姿勢が低くなって、四つ足のバランスに近くなるっぽい
前にハスキーと走ったとき、そんな感じだった
人間がやろうとしても、そんな体勢じゃバランスとれないし何かに激突するのが関の山だね」
「成る程」
「荒木が日野は頭が良いって言ってたけど、分析能力高いな」
「インストラクターとか向いてるかもね」
俺の不確かな持論を、2人とも感心したように聞いてくれた。
夕方を過ぎると、ランナーの姿が増えてきた。
「後2周くらいして、帰ろうか
ここから影森マンションまで走ると、40分くらいなんだ」
「近道を見つけたので、最初の時より時短出来るようになったんですよね」
俺と黒谷の会話を聞いて
「影森マンションで暮らせるようになったら、ちょいちょい走りに来れるな」
「皆野と明戸も1周くらい付き合ってくれるといいけど
猫は意味なく走りたがらないから、荷物番でも頼むか
おにぎりとかカステラとか、ここで食べながら走れたら楽しそう」
2人は和気藹々と未来の話をしている。
「日野と黒谷も付き合ってくれんだろ」
急に話を振られて、俺はビックリしてしまった。
「俺達も一緒に走っていいの?」
恐る恐る問いかけたら
「当たり前だよ、俺達家族って言うか、ラン仲間じゃん」
「タイム気にせず楽しく走るのって良いよな
今日も凄い楽しかった
皆でマラソン大会とか出るのもいいんじゃない?」
当たり前のように彼らの未来に俺も入れてもらえて胸が熱くなる。
「コスプレとかして走るのも面白そうかもね」
俺が言うと
「部活じゃ絶対できないやつだ」
「着ぐるみは暑いかな、3人でお揃いとかどうよ」
2人ともノリノリで答えてくれるのだった。
大滝兄弟がこのまま影森マンションの双子猫の部屋に泊まるので、俺も黒谷の部屋に泊まる予定を立てていた。
「部屋に帰ってシャワー浴びたら、そのまま皆野の部屋に来てよ
皆野と明戸、日野に料理を食べてもらうの楽しみにしてるんだ
『黒谷には負けない』とか言っててさ
黒谷に1升炊きの炊飯器借りるって、息巻いてたよ」
「黒谷は1人で日野が満足できる量を作るからね
明戸も手伝うって張り切っちゃってさ
炊き込みご飯と海鮮ちらし寿司をメインに、揚げ物焼き物炒め物、ガンガン作るって言ってたな
栄養のバランスも考えてお浸しや煮物もね」
「皆野、どっちかって言うと和食の方が得意みたいなんだ
でも俺のために揚げ物作る回数が増えたって言ってくれてさ
肉系も美味しいんだけど、コロッケが絶品!」
「明戸は今まで皆野に任せっきりだったから、自分も頑張るって
明戸、やんちゃに見えても健気なんだ」
2人の発言は、だんだん親バカじみたものになっていった。
「トノとチカも愛されてんじゃん」
親しみを込め愛称で呼ぶと
「まだ日野と黒谷には及ばないって感じかな、でも、すぐに追いつくからな」
「俺も負けないよ、皆野を愛する気持ちは俺が1番なんだから」
彼らは誇らかに宣言してみせた。
新たな飼い主たちの親バカ発言に黒谷は笑顔で頷いている。
「双子も、本当に良い飼い主に巡り会えました
近々三峰様が様子を見に来たい
と言っておりましたよ
あまり身構えず、自然体で接してさしあげてください
その方がお喜びになります
僕たちには恐れ多くて出来ないんですけどね」
黒谷の言葉で2人に緊張が走る。
「飼い主の資格試験的なやつですか」
「学生なので至らない点も多いけど、皆野を幸せにしたい気持ちは誰にも負けません」
勢い込んで言う2人に
「大丈夫だよ、俺だって黒谷を飼わせてもらえたんだ
けっこうな騒動引き起こしたのにさ…
あ、ミイちゃんコンビニアイス好きだからその辺買ってあげると喜ぶよ」
俺は先輩らしくそう教えてあげた。
「コンビニアイスか、うちはイートインやってないからな」
「どっちにしろ、向こうからアイスは持って来れないだろ
ここの近所のコンビニかスーパーで調達するしかないか」
自分より背の高い後輩が悩んでいる中
『ミイちゃんが来たら、お茶屋に案内して抹茶アイス奢ってあげよう』
俺は先輩として先におもてなしする方法を考えるのであった。
黒谷の部屋に帰り着き、先にシャワーを浴びる。
黒谷はキッチンで何か作業をしていた。
「所長として奢られるばかりって言うのも何ですからね
デザートくらいは用意しようと思って
大きな器がなくてボール、って言うのが色気無いのですが
こんなときのために、1つくらい奮発しようかな」
黒谷はボールにカットフルーツを入れ、杏仁豆腐を切り分けていた。
「ナリに教わった店で買った杏仁豆腐です
これはノーマルタイプ、こちらは季節限定のレモン味
珍しい食材が売っている店で、レパートリーの幅が広がりそうですよ
フルーツポンチのアイデアは大麻生から教わりました
ウラがたまに作るとか
何を入れても良いので本当にお手軽です
今日は缶詰ではなくスーパーで見かけたカットフルーツにしてみました
双子の部屋でサイダーをかければ完成です
食べるまで冷蔵庫に入れさせておいてもらいましょう」
黒谷はボールにラップをかけ、得意満面で俺を見た。
「ありがとう、黒谷は本当に最高の飼い犬だ」
嬉しそうな黒谷の髪を、俺は撫で回した。
「黒谷もシャワー浴びてきて、豪華デザート持って双子の部屋に行こう
皆野には悪いけど、今からデザートが楽しみ」
「着ていく服を選んでいただいて良いですか?」
「うん、黒谷が1番格好良く見えるの選んで大滝兄弟に披露しなきゃ
いつもの所長服とは違う、ワイルド系で驚かすの楽しそう」
意気揚々とシャワールームに向かう黒谷を見送り
『皆で気軽に集まって、愛犬愛猫の料理を囲む』
そんなすばらしい未来が目前に来ていることを実感する。
『俺達もこじんまりとした部屋で良いかと思ってたけど、黒谷は所長だし数人が集まったり泊まったり出来る広さの部屋の方が良いのかな
走りに行った後のお疲れ会とかやりたいし
いつか婆ちゃんや母さん、父さんにり来てもらいたい…
今度ゲンさんに相談して、ファミリータイプの部屋を見せてもらおう』
俺は今まで漠然としすぎていた未来に対し、明確なビジョンを持てるようにになっていた。
『一緒に走れる仲間、一緒に未来を作っていける仲間』
気が付くと俺の周りにはもう嫌なやつはいなかった。
『高校時代の部活仲間』という狭い人間関係は崩れ、共に進める仲間に囲まれているのだと広々とした気持ちになる。
彼らと共に化生のために進んでいこう、俺はシャワールームから出てくる愛犬を迎えるため歩き出すのだった。
俺はそーゆー体験したことないけど、明戸の過去は見たから不思議な話も信じられるよ」
「皆野と会って、オカルト的な事って怖いだけじゃないって思うようになれたんだ」
「そうそう、トノってこの図体(ずうたいで)で恐がりなんだよ笑えるだろ?
最も、俺も知ったの最近だけど
今まで強がってたみたいでさ」
「いや、今は皆野がいるからそこまででは…」
俺の話を切いた後も特別なもののように扱わず、普通に接してくれる態度がありがたかった。
「よかったら明戸の過去も読んでやって
彼、元の飼い主の影響で自伝を書いてるんだ
あーにゃんって猫が確かに生きていた証みたいなものだと思ってる
皆にも知って欲しくて」
「皆野の過去も同じ感じなんだ
飼い主に保護されたのは皆野の方が先だけど、ほとんど同じ時を過ごしている
みーにゃんって猫も、同じ時間を生きていた
記憶の転写って飼い主にしか正確な物を見せられないみたいだけど、あれを読んでもらえれば、皆にももう少し深く皆野をわかってもらえるかなって」
「え?プライベートな内容なのに良いの?」
流石に躊躇してしまう俺に
「もちろんだよ、化生を飼ってる人たちって家族みたいなものだって荒木が言ってたからね
家族には隠しておきたいこともあるけど、知って欲しいこともあるじゃん
俺は明戸を知って欲しい」
「俺も皆野を知って欲しい」
2人はきっぱりと断言する。
黒谷に視線を向けたら優しく頷いていた。
「飼い主の意向です、双子も知って欲しがるでしょう
僕には書を認(したた)めるような才能はないですが、確かに生の区切りとしてあのお方とのことを振り返りたい気もしますね
ただ、僕の場合和銅との思い出の方が強く、その上に日野との思い出がありますから何を書けば良いやら」
苦笑気味の黒谷に
「俺だけ見て、俺のために存在してくれるだけで十分だよ
どうせなら俺達が出会ってからの事だけ綴っていこう」
俺はそう言って彼の柔らかな髪を撫で、軽いキスをした。
「何か、すっごい自然に接するんだ」
「やっぱ化生の扱いに対する先輩って感じして、貫禄あるな」
大滝兄弟は尊敬を込めた視線を俺に向けてくる。
我に返った俺は真っ赤になって俯くしかないのだった。
それから2人にフォームを見てもらう。
「もう少し、腕は身体に近付けた方が良いかな
大きく振りすぎると反動で最初は早くても、疲れるのも早い」
「俺達と走ってるせいかな、歩幅はもっと短くて良いんじゃないか
日野の体重は軽いから、1歩の推進力は大きいだろう」
流石に良いコーチを付け本格的指導を受けていただけあって、その助言は的確だった。
「しかし、こうして見ると黒谷のフォームって直しようが無いというか、何であんなフォームでメチャ早いのかさっぱりわからない」
「明戸と皆野が走ってるときも、同じ事感じたっけ
何で追いつけないのか訳わからなかった
特殊な訓練受けた極秘アスリートみたいだったもんな」
2人は首をひねっている。
「犬も猫も、人間とは違う筋肉使って走ってるから真似できないよ
化生って基本は人間の体なんだけど、獣の特性が出ることがあるからね
猫なんて全身バネみたいにして走るじゃん
彼らが猛ダッシュしてると姿勢が低くなって、四つ足のバランスに近くなるっぽい
前にハスキーと走ったとき、そんな感じだった
人間がやろうとしても、そんな体勢じゃバランスとれないし何かに激突するのが関の山だね」
「成る程」
「荒木が日野は頭が良いって言ってたけど、分析能力高いな」
「インストラクターとか向いてるかもね」
俺の不確かな持論を、2人とも感心したように聞いてくれた。
夕方を過ぎると、ランナーの姿が増えてきた。
「後2周くらいして、帰ろうか
ここから影森マンションまで走ると、40分くらいなんだ」
「近道を見つけたので、最初の時より時短出来るようになったんですよね」
俺と黒谷の会話を聞いて
「影森マンションで暮らせるようになったら、ちょいちょい走りに来れるな」
「皆野と明戸も1周くらい付き合ってくれるといいけど
猫は意味なく走りたがらないから、荷物番でも頼むか
おにぎりとかカステラとか、ここで食べながら走れたら楽しそう」
2人は和気藹々と未来の話をしている。
「日野と黒谷も付き合ってくれんだろ」
急に話を振られて、俺はビックリしてしまった。
「俺達も一緒に走っていいの?」
恐る恐る問いかけたら
「当たり前だよ、俺達家族って言うか、ラン仲間じゃん」
「タイム気にせず楽しく走るのって良いよな
今日も凄い楽しかった
皆でマラソン大会とか出るのもいいんじゃない?」
当たり前のように彼らの未来に俺も入れてもらえて胸が熱くなる。
「コスプレとかして走るのも面白そうかもね」
俺が言うと
「部活じゃ絶対できないやつだ」
「着ぐるみは暑いかな、3人でお揃いとかどうよ」
2人ともノリノリで答えてくれるのだった。
大滝兄弟がこのまま影森マンションの双子猫の部屋に泊まるので、俺も黒谷の部屋に泊まる予定を立てていた。
「部屋に帰ってシャワー浴びたら、そのまま皆野の部屋に来てよ
皆野と明戸、日野に料理を食べてもらうの楽しみにしてるんだ
『黒谷には負けない』とか言っててさ
黒谷に1升炊きの炊飯器借りるって、息巻いてたよ」
「黒谷は1人で日野が満足できる量を作るからね
明戸も手伝うって張り切っちゃってさ
炊き込みご飯と海鮮ちらし寿司をメインに、揚げ物焼き物炒め物、ガンガン作るって言ってたな
栄養のバランスも考えてお浸しや煮物もね」
「皆野、どっちかって言うと和食の方が得意みたいなんだ
でも俺のために揚げ物作る回数が増えたって言ってくれてさ
肉系も美味しいんだけど、コロッケが絶品!」
「明戸は今まで皆野に任せっきりだったから、自分も頑張るって
明戸、やんちゃに見えても健気なんだ」
2人の発言は、だんだん親バカじみたものになっていった。
「トノとチカも愛されてんじゃん」
親しみを込め愛称で呼ぶと
「まだ日野と黒谷には及ばないって感じかな、でも、すぐに追いつくからな」
「俺も負けないよ、皆野を愛する気持ちは俺が1番なんだから」
彼らは誇らかに宣言してみせた。
新たな飼い主たちの親バカ発言に黒谷は笑顔で頷いている。
「双子も、本当に良い飼い主に巡り会えました
近々三峰様が様子を見に来たい
と言っておりましたよ
あまり身構えず、自然体で接してさしあげてください
その方がお喜びになります
僕たちには恐れ多くて出来ないんですけどね」
黒谷の言葉で2人に緊張が走る。
「飼い主の資格試験的なやつですか」
「学生なので至らない点も多いけど、皆野を幸せにしたい気持ちは誰にも負けません」
勢い込んで言う2人に
「大丈夫だよ、俺だって黒谷を飼わせてもらえたんだ
けっこうな騒動引き起こしたのにさ…
あ、ミイちゃんコンビニアイス好きだからその辺買ってあげると喜ぶよ」
俺は先輩らしくそう教えてあげた。
「コンビニアイスか、うちはイートインやってないからな」
「どっちにしろ、向こうからアイスは持って来れないだろ
ここの近所のコンビニかスーパーで調達するしかないか」
自分より背の高い後輩が悩んでいる中
『ミイちゃんが来たら、お茶屋に案内して抹茶アイス奢ってあげよう』
俺は先輩として先におもてなしする方法を考えるのであった。
黒谷の部屋に帰り着き、先にシャワーを浴びる。
黒谷はキッチンで何か作業をしていた。
「所長として奢られるばかりって言うのも何ですからね
デザートくらいは用意しようと思って
大きな器がなくてボール、って言うのが色気無いのですが
こんなときのために、1つくらい奮発しようかな」
黒谷はボールにカットフルーツを入れ、杏仁豆腐を切り分けていた。
「ナリに教わった店で買った杏仁豆腐です
これはノーマルタイプ、こちらは季節限定のレモン味
珍しい食材が売っている店で、レパートリーの幅が広がりそうですよ
フルーツポンチのアイデアは大麻生から教わりました
ウラがたまに作るとか
何を入れても良いので本当にお手軽です
今日は缶詰ではなくスーパーで見かけたカットフルーツにしてみました
双子の部屋でサイダーをかければ完成です
食べるまで冷蔵庫に入れさせておいてもらいましょう」
黒谷はボールにラップをかけ、得意満面で俺を見た。
「ありがとう、黒谷は本当に最高の飼い犬だ」
嬉しそうな黒谷の髪を、俺は撫で回した。
「黒谷もシャワー浴びてきて、豪華デザート持って双子の部屋に行こう
皆野には悪いけど、今からデザートが楽しみ」
「着ていく服を選んでいただいて良いですか?」
「うん、黒谷が1番格好良く見えるの選んで大滝兄弟に披露しなきゃ
いつもの所長服とは違う、ワイルド系で驚かすの楽しそう」
意気揚々とシャワールームに向かう黒谷を見送り
『皆で気軽に集まって、愛犬愛猫の料理を囲む』
そんなすばらしい未来が目前に来ていることを実感する。
『俺達もこじんまりとした部屋で良いかと思ってたけど、黒谷は所長だし数人が集まったり泊まったり出来る広さの部屋の方が良いのかな
走りに行った後のお疲れ会とかやりたいし
いつか婆ちゃんや母さん、父さんにり来てもらいたい…
今度ゲンさんに相談して、ファミリータイプの部屋を見せてもらおう』
俺は今まで漠然としすぎていた未来に対し、明確なビジョンを持てるようにになっていた。
『一緒に走れる仲間、一緒に未来を作っていける仲間』
気が付くと俺の周りにはもう嫌なやつはいなかった。
『高校時代の部活仲間』という狭い人間関係は崩れ、共に進める仲間に囲まれているのだと広々とした気持ちになる。
彼らと共に化生のために進んでいこう、俺はシャワールームから出てくる愛犬を迎えるため歩き出すのだった。